梅雨に山で、ひそかに咲くバイカツツジ。美しい花なのに登山者に知られていない3つの理由

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梅雨時にでもたまには晴れの日がある。こんな時には花の山に登りに行こう。梅雨時にはこの時期にしか咲かない花がある。その1つが、今回紹介するバイカツツジだ。

 

うっとうしい梅雨が続くが、花を見に行くための山歩きは続けている。半日でも時間があれば花を探しに山に行く。梅雨時でなければ咲かない花もあるからである。

こんな梅雨時を好んで咲く花を求めて、先日奥多摩の三頭山に登った。その花の名はバイカツツジ。漢字では「梅花躑躅」で、5つに分かれた躑躅としては小型の花冠の様子が、ウメの花に似ているから名付けられている。写真を見てもらえばわかるのだが、白地に紅色の斑点があり、とてもきれいな花である

バイカツツジの花のアップ。ウメの花に似ている、美しい花だ


美しい花であり、ステキな名前ではあるが、「バイカツツジを見たことがある」「バイカツツジを知っている」という登山者はほとんどいない。同じツツジでも、レンゲツツジやアズマシャクナゲを知らない登山者は少ない。バイカツツジは北海道から、本州、四国、九州と広く分布するツツジである、にもかかわらずバイカツツジが知られていない理由は3つある。

ひとつは咲く時期である。6月下旬から7月下旬までという梅雨時に咲くから。梅雨時にはそもそも登山者が少ないので、バイカツツジの花を見ることそのものが少ないのだ。

バイカツツジの木、花は小さく咲いている。探してみよう

これならバイカツツジと分かるだろうか?

もうひとつの理由は花が小さいことだ。バイカツツジはツツジ属としては花が小さく直径2cmしかない。レンゲツツジは花の直径は5-8cmもある。花が小さいツツジはほかにもたくさんあるが、そのようなツツジはたくさん集まって咲くことが多い。

最後になかなか花が見つからない理由が、花は葉が展開した後に、わざわざ葉に隠れるように斜め下を向いて咲くからだ。花を探すためには、わざわざ一枚一枚葉の下を覗き込まなければいけないのである。

葉の下で咲いているバイカツツジの花。そのため見つけにくい


3つの理由には、それぞれ関連性がある。実はバイカツツジはわざわざ梅雨時に咲いているのである。そもそも、梅雨時の山には他の花が少ない。植物は昆虫に花粉を運んでもらうために花を咲かせているが、雨が降ると花粉や花蜜が雨で流され、花を訪れる昆虫も少なくなるので効率が悪い。このため、多くの植物は梅雨時に花を咲かすことが少ない。

しかし、花が少ないということは、花粉を運ぶハチやチョウなどの花粉を媒介する昆虫を、梅雨の晴れ間には独占できることになる。小さな目立たない花でも、咲いてさえいればほかに花がないために、昆虫が探して訪れ、花粉を運んでくれる。このため、梅雨時の開花がバイカツツジにとって効率がよい。

バイカツツジが目立たないのは、雨に打たれる面積を小さくするためだ。そして葉の下で咲くのは、葉を雨傘のように使っているから。すべてはバイカツツジが梅雨時に咲くためのテクニックである。

小さく、目立たないバイカツツジ。わざわざ梅雨時に咲くひねくれものである。しかし梅雨時に咲く花がまったくなければ、花の蜜を吸う昆虫も死んでしまう。自然は色々なものが 関係しあって生きている。多様性が重要なのだ。

これから、奥多摩の三頭山では、バイカツツジがまだまだ咲くし、ギンバイソウなどの花も咲く。梅雨の合間に、このかわいらしい花に会いに行こう。ただし、三頭山都民の森は月曜日が休みなので注意が必要だ。

奥多摩・三頭山の、緑に包まれた登山道の様子。これからバイカツツジの花はまだまだ咲く

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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