「救援者費用等補償特約」では山岳保険に不十分かも!? 遭難時の補償はどこまでカバーされる?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

登山者が知っておくべき保険の知識を、「やまきふ共済会」の井関純二氏が徹底解説する「知らないと損する山岳保険の知識」。今回は救助費用をカバーする特約、「救援者費用等補償特約」の実際の内容を、保険の約款を見ながら説明します。

 

前回は傷害保険に特約を付けることで、遭難時の補償をカバーする保険にする「損保特約型」というタイプの主契約(ケガの補償)部分について説明しました。今回は登山者にとって一番大事な、遭難時の補償について触れたいと思います。

★前回記事:アイゼン・ピッケルを付けた登山では保険の対象外!? 損保特約型の対象範囲

山岳遭難時の捜索や救助費用をカバーする特約は、傷害保険には2種類あります。1つ目は「救援者費用等補償特約」、2つ目は「遭難捜索費用特約」というものです(※保険会社によって名称が異なる場合があります)。

今回は1つめの「救援者費用等補償特約」について詳しく説明します。

最初に確認しておきたいのは、救援者費用等補償特約の「救援者」の定義です。 山岳遭難で「救援者」といえば救助隊など救助してくれる人をイメージしますが、ここでの救援者はまったく違っています。

約款を確認すると、「被保険者の捜索(捜索、救助または搬送)、看護または事故処理を行うために現地に赴く被保険者の親族をいいます」と定義。つまり救援者は親族のことを指しています。

次に「保険金を支払う場合」について確認してみましょう。約款を要約すると以下の3つのケースで保険金の支払いを規定しています。

  • ①航空機または船舶が行方不明、または遭難した場合

  • ②急激かつ偶然な外来の事故で生死が確認できない場合、または緊急な捜索・救助活動を要する状態を警察等が確認した場合

  • ③住宅外で傷害が原因で事故の日から180日以内に死亡または14日以上入院した場合

これを見ると②の規定では山岳遭難も対象となりますが、①と③については山岳遭難専用の特約ではなく、基本的には旅行中の事故を想定した内容となっています。

具体的にどんなケースが対象になるか、もう少し詳しく見ていきましょう。

 

「救援者等補償特約」にある重大な欠点とは?

①のケースは読んだ通りに解釈してください。続いて③の場合ですが、これは「東京在住の人が大阪出張中に自動車事故に遭って現地の病院に1か月入院した」などのケースを想定しています。

実際に保険がカバーするのは、親族が東京から看護をしに行く際の交通費や宿泊費が対象です(そのために「救援者=親族」となるのです)。なお看護先は海外でも有効なので、海外旅行保険の特約として知られています。

ほかにも、亡くなった場合の遺体搬送費用や遺体処置費、転院した場合の移送費用なども③の特約に該当します。

山岳遭難のケースは②に相当し、約款の「費用の範囲」の規定では「遭難した被保険者を捜索する活動に要した費用のうち、これらの活動に従事した者からの請求に基づいて支払った費用をいいます」となっていて、民間救助隊などの捜索救助費用が対象となります。

つまり、救援者等補償特約は民間救助隊などの捜索救助費用をカバーすることが可能となり、「遭難時の捜索や救助費用がカバーされる保険」になるというわけです。

ただし、この特約は「遭難時の捜索や救助費用がカバーされる保険」としては重大な欠点があるのです。それは保険金を支払う場合の規定についてです。

②に明記されている「急激かつ偶然な外来の事故」という文言の通り、この保険ではすべての事故を対象にしていません。具体的には、道迷いや病気、疲労、悪天候などは「急激かつ偶然な外来の事故」には含まれない、としているのです(ほかにも、脳疾患や疾病、心神喪失、地震・噴火、山岳登攀中の事故も対象外としています)。

山岳遭難事例のデータを見てみると――、警察庁が発表している山岳遭難者のデータ(平成27年)では、全国の遭難の原因は、道迷い(39.5%)、病気(7.6%)、疲労(5.7%)、悪天候(2.3%)となっています。保険対象外となる遭難事例は合わせて約55%、つまり半数以上が対象外となってしまいます。

前回の記事で説明した「アイゼンやピッケルを使うかどうか」については、登山者の側で「雪山やクライミングはしない」と活動内容を決められます。しかし遭難する原因について、登山者は選べません。

むしろ、登攀などをせずに年に1~2回の夏山だけ行くという人の方が、病気や疲労、道迷いになっているケースは多いのではないでしょうか?

つまり、「救援者等補償特約では統計的には遭難しても半分以上の確率で保険金が支払われないということになります。

現在山岳保険に加入している方は、一度、保険の内容を確認してみて、どんなケースが保障されるのかを確認しておくことをオススメします。

次回はもう1つの特約である「遭難捜索費用特約」について触れたいと思います。

 

プロフィール

井関 純二

千葉県出身。大学卒業後に保険会社勤務等を経て2014年にやまきふ共済会を設立。趣味は登山のトレーニングのために始めたランニングでサブ3ランナー。
やまきふ共済会の他に、山岳ガイドや登山者向けの各種保険を扱う(株)インスクエアコンサルティング代表取締役で社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。
⇒やまきふ共済会

知らないと損する山岳保険の知識

自立した登山者なら必ず加入しておきたい「山岳保険」ですが、その内容や詳細について、どれだけの人が知っているでしょうか? 「やまきふ共済会」の井関純二氏が、山岳保険の実際を徹底指南。

編集部おすすめ記事