北アルプス・剱岳――、別山尾根から高度感のある鎖場を越えて、頂に立つ達成感を味わう

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登山者の多くが憧れる山・剱岳。険しい岩稜を越えて辿り着いた頂から眺める景色は、何物にも代えがたい達成感を得ることになるだろう。今回は、剱岳登山で、もっともポピュラーで一般的なルートである、別山尾根を紹介する。

 

いよいよ間近に迫った夏山シーズン。しかし2020年は新型コロナウイルスの影響により、例年通りの登山ができないエリアが少なくありません。それでも北アルプスの山小屋の多くは、7月中旬より営業を開始する予定です。感染防止のためのさまざまな注意は必要ですが、夏山登山を楽しむことができそうです。

北アルプスの山で、多くの人が憧れるのは剱岳でしょう。連続する高度感のある鎖場は、ミスの許されないシビアな場所ではありますが、登りきったときの達成感は格別です。私も毎年、1~2回は登りに行く大好きな山です。

前剱から見た剱岳の勇姿


剱岳は、別山尾根から往復するのが一般的です。起点となる室堂へは、富山駅から向かいます。まずは旅情感あふれる富山地方鉄道に乗って立山駅へ。そこからは黒部立山アルペンルートを利用し、ケーブルカーで美女平、高原バスに乗り継いで弥陀ヶ原を過ぎると室堂です。

ただし今年(2020年)は、新型コロナウイルス感染防止のために、例年よりも減便されています。始発便は遅く、最終便は早くなっていて、さらに定員をオーバーする場合には乗車制限も行なわれるので、時間には十分な余裕が必要です。

さらに山小屋の宿泊人数も制限されています。別山尾根に向かうには、室堂から雷鳥沢、別山乗越を経て、剱澤小屋か剣山荘に宿泊するのが一般的です。無理なく登るには1日目に入山して宿泊、2日目に山頂をピストンしてもう一度宿泊、3日目に下山、というプランが妥当です。

しかし人数制限によって、混雑する日は泊まれない可能性もあるでしょう。その場合は2日目の行動時間が長くなるものの、途中の剱御前小舎や、場合によっては室堂の宿泊施設を利用することも無理ではありません。なお、テント泊の場合は剱澤キャンプ場を利用することになりますが、予約はなしで利用できるそうです。

モデルコース:室堂から別山尾根で劔岳を往復する

【1日目】室堂ターミナル・・・ミクリガ池・・・エンマ台・・・雷鳥平・・・別山乗越・・・剱澤小屋(約3時間45分)
【2日目】剱澤小屋・・・剣山荘・・・一服剱・・・前剱・・・平蔵のコル・・・剱岳・・・平蔵のコル・・・前剱・・・一服剱・・・剣山荘・・・剱澤小屋(約7時間10分)
【3日目】剱澤小屋・・・別山乗越・・・雷鳥平・・・エンマ台・・・ミクリガ池・・・室堂ターミナル(約3時間40分)

⇒コースタイム付き登山地図はこちら

 

スリルある岩場を安全に落ち着いて通過し待望のピークへ

別山尾根を登る登山者の拠点となる、剱澤小屋(左)と剣山荘(右)


別山尾根の場合、本格的な登山は、2日目、剣山荘を過ぎた先からスタートします。すぐに1番目、そして2番目の鎖場が現れますが、さほど高度感はなく、問題なく通過できるでしょう。以降は番号順に鎖場を進んでいきます。

ひと登りで到着するピークが、一服剱です。前方にそびえる前剱は、前衛峰でありながらも大きく、険しい姿です。少し下った武蔵ノコルは、コオニユリやベニバナイチゴが咲いて気持ちが和むところですが、ここからが本格的な剱岳登山のはじまりです。気を引き締めて、不安定なガレ場を慎重に登って前剱を目指します。

なお、前剱からは、一部重なる部分はあるものの、基本登りと下りが別れているので、標識に従って進むことになります。

前剱の先、小尾根を越えて小さな橋を渡り、鎖場をトラバースする部分は高度感のある要注意スポットです。さらに急な鎖場を下ると前剱の門となります。

前剱から前剱の門へ向けてトラバースする登山者


ここから緩傾斜のガレを登り、大きなケルンのある広場の先で平蔵ノ頭を通過。ここも登りは急な凹角、下りは滑りやすい一枚岩で注意が必要です。

さらに右手に平蔵谷の雪渓を見ながら、岩場をトラバースするように段差を登り下りすると、ガレ場の奥に急な岩場がそそり立っているのが見えてきます。カニのタテバイです。

カニのタテバイは、必要に応じて鎖をつかみ、足は杭の上に乗せて登ります。途中、鎖がつかみにくい箇所もあるので冷静に通過してください。

カニのタテバイの取り付き(左)と、タテバイを登りきった後のトラバース区間(右)


バンドに出たら右にトラバース。岩の隙間を抜けて斜上する鎖場を登り、平坦地に出ると登りの鎖はすべて終了。あとはガレた斜面の中の登山道を着実に登ると、待望の頂上です。周囲には北アルプスの山々の絶景が広がっています。

剱岳頂上から見た山々、右から薬師岳、黒部五郎岳、笠ヶ岳、水晶岳、立山。その背後には槍・穂高連峰も見えています


下山は往路を引き返し、カニのタテバイには下らずに直進。するとすぐに傾斜が急になり、カニのヨコバイが始まります。ここの通過のポイントは、とにかく足元を観察すること。急な段差の部分も、慌てずによく見て足を下ろせば、自然にトラバースする岩のバンドへと進みます。

そのまま下りルートをたどり、前剱は登らずに右から通過。あとは往路を引き返し、一服剱を越えて剣山荘まで来たら、ほっと一息つけるでしょう。

カニのヨコバイ。冷静に足元を観察するのがポイント


剱岳は皆が憧れる山であり、夏の晴れた日の別山尾根は、多くの登山者が登下降しています。ただしここは、事故多発地帯でもあることを忘れてはいけません。特に難関とされているのが、下りのカニのヨコバイですが、平蔵ノ頭や登りのカニのタテバイでも事故は起きています。

さらに意外と事故が多いのが前剱の前後です。浮石に乗って滑ったり、上部にいる登山者の落石がきっかけで転倒、滑落する例もあるとのことです。特に下りでは疲労が蓄積しているし、落石にも気づきにくいので十分注意が必要です。

また、残雪にも注意が必要です。残雪の状況は日々変わるので、出発前に宿泊する小屋に問い合わせるほか、室堂バスターミナルの掲示板もチェックするといいでしょう。

 

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

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