大パノラマの稜線、花あふれるカールと湿原をめぐる天空の山旅 北アルプス・薬師岳~黒部五郎岳~鷲羽岳〜高天原周回

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​薬師岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、鷲羽岳など、北アルプス最奥の地、黒部川源流域に立ち並ぶ稜線をめぐり、それに贅沢にも天然の野天風呂・高天原温泉をセットした極楽の山旅です。登山人生でもそう何度も行けない至福のひとときを味わいました。

 

鷲羽岳より三俣蓮華岳と三俣山荘を見下ろす

 

北アルプス黒部源流の山々を巡り、高天原の温泉に浸る贅沢な山旅です。

1日のコースタイムは長めですが、魅力ある山小屋が点在するエリアなので、余裕を持った日程に変更も可能です。ただし、今年は山小屋の宿泊上限が減っていたり、テント利用の予約が必須の場所もあるなど、例年と異なりますので、注意して計画してください。

 

モデルコース:折立~薬師岳~黒部五郎岳~高天原~折立 3泊4日

 

コースタイム:

【1日目】折立〜太郎平〜薬師岳〜薬師岳山荘(約6時間40分)
【2日目】薬師岳山荘〜太郎平〜黒部五郎岳〜黒部五郎小舎 (約7時間40分)
【3日目】黒部五郎小舎〜三俣山荘〜鷲羽岳〜岩苔乗越〜高天原山荘(約7時間25分)
【4日目】高天原山荘〜薬師沢小屋〜太郎平〜折立 (約10時間40分​)


⇒周辺のコースタイム付き登山地図

 

1日目:折立〜太郎平〜薬師岳〜薬師岳山荘

出発地は折立登山口。有峰林道が夜間通行できないので、夕刻に折立に入り、登山口駐車場で車中泊。早朝より行動開始です。今回の山旅は、長丁場なので、晴天続きというわけにはいきません。最初の2日間は、朝方こそ晴れていても、次第に雲が谷筋より湧き上がり、やがて稜線に覆い被さり、頂上をかくすと、やがて雨に変わるというパターンが続きました。

折立登山口からは樹林帯の登りが続きます。三角点ピークをすぎて森林限界を越えるところまで行くと展望が開け、薬師岳が堂々たる山容を現してきましたが、やがてすぐにガスに覆われてしまいました。

傾斜が緩くなりましたがさらに続く木道や石畳の登山道をへてようやく太郎平に到着。太郎平小屋にて休憩。ここは山岳警備隊が常駐し、太郎平診療所もあり、登山者には心強い登山拠点でもあります。

薬師岳がようやく姿を現す。中央カールと金作谷カールがはっきり見える

太郎平から薬師岳への稜線を進むと、薬師峠のキャンプ場。ここは豊富な水場と北アルプスで一番きれいなといわれるトイレがある。薬師平に出るとハクサンフウロ、ヨツバシオガマ、タテヤマリンドウなどの花々がお出迎えだ。

ガスに包まれた薬師岳山頂

最初の宿泊地、薬師岳山荘に荷物をおいて、頂上までピストン。広々したガレ場を登るが、遭難事故の慰霊碑も深いガスの中です。2926mの薬師岳山頂に到着。山荘に戻ったところで雨が降り出し、間一髪で濡れずにすみました。

 

2日目:薬師岳山荘~黒部五郎岳~黒部五郎小舎

初日は深いガスの中だった薬師岳ですが、それでも翌日の夜明けには晴れてきて、双六岳・三俣蓮華岳から黒部五郎岳への稜線越しに槍・穂高連峰のシルエットがくっきりと映しだされました。太郎平からへ続く稜線では、薬師岳、黒部五郎岳、鷲羽岳への大展望を満喫しながら高山の花々を楽しむことができました。

雲沸き立つ太郎平を振り返る

しかし午後になり、ガスに覆われた黒部五郎岳に登頂した後、黒部五郎岳のカールの下りにさしかかる頃にはついに雨が降り出しました。歩きにくいゴロ石の登山道を、雨に耐えてひたすら黒部五郎小舎へ向かうことに。氷河によって削られてできた岩襞が顕著な岩壁もガスの中に沈んでしまいます。

霧にかすむ黒部五郎岳のカール、氷河に削られてできた岩壁もガスの中

黒部五郎岳への稜線はタテヤマリンドウの花盛り

カールの花々は、チングルマはほとんど羽毛のような穂に姿を変えており、ミヤマリンドウ、ヨツバシオガマやイワショウブがピークを迎え、はやくも秋の到来を感じさせるものでした。

黒部五郎小舎で出発準備する登山者

 

3日目:黒部五郎小舎~鷲羽岳〜高天原

3日目にしてようやく晴天に恵まれました。黒部五郎小舎からは三俣山荘への巻き道をたどります。これまで登ってきた薬師岳、黒部五郎岳の雄姿をバックに気持ちよい稜線を進みます。

鷲羽岳へ登ると、ワリモ岳の先に迫力ある水晶岳の黒々した姿が浮かび上がります。ワリモ岳の岩稜地帯を慎重に進みます。わずかな岩の隙間にはイワギキョウの群落がみごとでした。

ワリモ岳ごしに水晶岳の偉容

ワリモ北分岐から岩苔乗越へ。ここは北アルプス黒部原流域の交差点のようなところ。大勢の登山者が休息していました。

そこから高天原へは高山植物が生い茂る沢沿いの道を下ります。高天原山荘に着くとザックをおいてさっそく高天原温泉へ。15分も歩くと沢沿いに石を積んでつくられた天然の露天風呂です。今回の山行三日分の汗を流しました。やはりたとえ、一泊余計にかかっても外せない山旅の醍醐味です。高天原山荘で一泊。

高天原温泉は天然の野天風呂

 

4日目:高天原~大東新道~折立

4日目は大東新道を使い、太郎平をへて、折立まで一気に戻ります。

高天原山荘で情報を収集して出発。木の根っこ混じりの登山道を急降下し、いくつもの沢を横切り、最後にB沢を黒部川に出会うところまで下ると、そこからはこれまでと別世界。黒部川のエメラルドグリーンの美しい流れに沿って河原を縫うように進む溪谷の風が吹き抜ける素晴らしく爽快なルートです。水際のゴロ石の隙間を通り抜け、崖をへつる箇所もあり、増水時はしばしば通行困難なので要注意です。

赤い吊り橋を渡ると薬師沢小屋

出合の赤い吊り橋が見えてくるとまもなく薬師沢小屋です。ここで大休止。たっぷりの沢の水を補給します。

ここから太郎平までは登り返し。草原の中をつらぬく美しい木道を登りきり、太郎平へ。小休止してすぐに折立へと向かいます。ゆるやかだけど石畳の長い下りや樹林帯の急降下部分は、さすがに疲れた足にはこたえました。有峰林道のゲートが閉まる時間までに車で抜けなければならず、最終日は急ぎ足になりましたが、太郎平にもう一泊すれば余裕です。

 

 

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

今がいい山、棚からひとつかみ

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