失敗談から得る登山の教訓と知恵 『 萩原編集長 危機一髪! 今だから話せる遭難未遂と教訓』

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評者=谷山宏典(フリーライター)

萩原編集長 危機一髪! 今だから話せる遭難未遂と教訓

編著:萩原浩司
発行:山と溪谷社
価格:1000円+税

個人や組織が成長するには「成功」より「失敗」が糧になるのは、どんな分野でも言えることだろう。だが、山の場合、成長につながるよき失敗を重ねることが、なかなか難しい。些細なミスが、ときに遭難事故を引き起こし、最悪の場合は死につながるからだ。

それゆえ、山登りでは、「人の失敗に学ぶ」ことが重要になる。なぜ事故は起こったのか? 未然に防げなかったのか? 他人の失敗を自分事として、同じような事態に陥らないために試行錯誤する。そうすることで自分自身の登山のリスクを軽減できるのだ。

本書も、人の失敗から学ぶという点で、よき参考書だと言える。登山歴は半世紀、山行日数は2500日ほどという著者が、これまでに山で遭遇したヒヤリハットな出来事を、「落石」「雪崩」「落雷」「転落」「道迷い」という章ごとに紹介している。本人は「そこまでドラマチックな遭難をしたことはありません」と語るが、本書で取り上げられているいくつかの場面では、判断や行動が少し遅かったり、違ったりしていたら、たぶん生死にかかわる事態になっていたんじゃないだろうか。

シリアスな遭難未遂体験だけではなく、山の魅力やおもしろさが伝わるエピソードや描写も多く、「萩原編集長」の半世紀の歩みを振り返る山行記録としても読み応えがある。大学山岳部出身の評者としては、青学山岳部時代の笠ヶ岳の地域研究や槍ヶ岳北面の定着合宿の話を興味深く読むとともに、「食料は生米と根菜三兄弟」「重いキスリング」などの言葉に、世代を超えて懐かしさと息苦しさを覚えてしまった。

山と溪谷2020年8月号より転載)

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