秘湯とともに、秘境の雰囲気を味わう鬼怒沼山。奥鬼怒・女夫淵から、尾瀬・大清水へと縦走する

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高層湿原では日本一の高所にあるとも言われる鬼怒沼(諸説あり)。すぐとなりに位置する、賑やかな尾瀬や日光に比べると訪れる人は少なく、秘境感を味わえる場所だ。麓に擁する、秘湯・奥鬼怒四湯が、さらなる秘境感を味わせてくれる。たくさんの花が咲く初夏のシーズンや、紅葉に染まる秋も楽しいが、残暑厳しい季節も趣がある。

 

栃木県を流れる、鬼怒川の源頭部に位置する鬼怒沼。名前は沼ですが、実際には一つの沼ではなく、大小40あまりの池塘が集まった標高約2020mの高層湿原を指します。

鬼怒沼山は、その鬼怒沼の北端から北東に約1km離れた場所にある、三等三角点の設置されたピークです。奥まった位置にあり、道もやや解りにくいのですが、そのことが秘境の雰囲気も感じさせてくれる山頂となっています。

鬼怒沼の南側の、木道が左右につけられた間にある大きな池塘


今回は栃木県側の奥鬼怒温泉郷から入山し、鬼怒沼を巡って鬼怒沼山に立ったあと、群馬県の大清水に下るコースを紹介します。1泊2日で温泉と湿原とを楽しむ、充実した山旅を楽しめるコースです。

日光澤温泉泊、女夫淵から鬼怒沼山、大清水へと縦走

■行程

【1日目】女夫淵バス停・・・八丁湯・・・加仁湯・・・日光澤温泉(約2時間)
【2日目】日光澤温泉・・・オロオソロシの滝展望台・・・鬼怒沼・・・鬼怒沼山・・・物見山・・・湯沢・・・大清水(約7時間)

⇒コースタイム付き登山地図はこちら

 

4つある奥鬼怒温泉郷を堪能する1夜目

登山口奥鬼怒温泉郷へは、東武鉄道鬼怒川線の鬼怒川温泉駅からバスで向かいます。途中1回の休憩を交えつつ、1時間半ほどで終点の女夫淵に到着。バス停から大きな橋を渡ると、すぐ右手が奥鬼怒歩道の入口で、ここから今回の山旅がスタートします。

しばらく鬼怒川沿いの平坦な道をたどります。途中右手にあるゴザ池の滝は、高さは5mほどと小さいものの、水量が多くて迫力があるので、ぜひ立ち寄ることをお勧めします。

整備された歩きやすい奥鬼怒歩道の様子(左)と、迫力あるゴザ池の滝(右)


やがて目の前に現れる建物が、奥鬼怒温泉郷のひとつ八丁湯です。そこから林道を進むと、加仁湯の大きな建物が現れます。さらに進んだ先の、落ち着いた古風な建物が日光澤温泉です。

奥鬼怒温泉郷とは、この八丁湯、加仁湯、日光澤温泉と、少し離れた手白沢温泉の4つの温泉の総称で、奥鬼怒四湯とも呼ばれて親しまれています。この4つのどれかに宿泊することになるのですが、通常は鬼怒沼にもっとも近い、日光澤温泉に宿泊するのが、翌日の行動を考えれば確実でしょう。なお宿泊時には、電話予約が必須です(電話番号:0288-96-0361)。

お風呂は内湯のほか、上下2段に分かれた露天風呂があり、快適な入浴が楽しめます。

可愛らしい飼い犬たちが出迎えてくれる日光澤温泉(左)と、白濁したお湯が特徴の露天風呂

 

深い樹林を抜けると眩い湿原が広がる

翌日は、飼い犬たちに見送られつつ出発。右手の屋根を潜るとすぐに根名草山との分岐となり、右へ進みます。日光澤温泉の赤い屋根を見つつ橋を渡り、ヒナタオソロシの滝展望台分岐は右に向かって尾根上の道へ。間もなくオロオソロシの滝展望台に到着しますが、展望台からの滝は遠くの木立の間に見え隠れするのみです。

やがて斜面をトラバースつつ進むと傾斜は緩み、樹林の中の木道をたどって少しずつ高度を上げていきます。

途中の苔が見事な区間(左)と、樹林の中の標識。引っかき傷は、おそらくクマによるもの(右)


前方が明るさを増してくると、ふいに鬼怒沼の南端へと飛び出ます。それまでの雰囲気とは一変した明るさで、思わず声が出るところ。すぐ左手にベンチもあって、休憩にも最適です。

二手に分かれる木道は、右をたどったほうが池塘の数が多くて楽しめるでしょう。300mほど進むと、木道は合流。その先の右の池塘が、鬼怒沼では最大です。ここにもベンチがあり、景色を楽しむには最適です。

鬼怒沼南端の様子。訪れる登山者は比較的少なく、静かな散策が楽しめます


次の分岐を右へ進むと湿原は終わり、周囲が樹林に変わるところに鬼怒沼巡視小屋が立っています。鬼怒沼山へはその先のT字路を、右の尾瀬沼方向に進みます。

なだらかに登って鞍部に下り、さらに左に下ったところが、縦走路から枝分かれする鬼怒沼山の登り口。テープを追って踏み跡をたどると、三等三角点の設置された頂上です。樹林に囲まれて狭く、展望は皆無なのですが、原始の趣きが感じられるでしょう。

下山は来た道を引き返して、T字路を直進。小沢を渡った先が、物見山頂上です。やはり樹林に囲まれて展望はありませんが、こちらは広くて休憩には最適です。

そこからは、足に負担のかかる段差の大きな下りが続きます。標高差770mを一気に下ったところに流れるのが湯沢で、飛び石伝いで慎重に渡渉します。対岸に通じる林道を、30分ほど歩けば尾瀬の登山口でもある、大清水に到着です。

針葉樹林の中の鬼怒沼頂上(左)と、物見山から湯沢に下る急な尾根の様子(右)


このコースは、鬼怒沼までは標識が多く、道の整備も行き届いています。しかしその先、鬼怒沼山への登路や大清水への下山路は、最低限の標識しかありません。慎重に地図読みしつつ、必要に応じてGPSアプリなども活用した上で、現在位置や進路の判断が必要です。

また、大清水からのバスは時間が限られるので、ペース配分にも配慮しましょう。朝は早立ちするプランニングであれば、時間に余裕ができで自由度が高まるでしょう。

 

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

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