久しぶりのフィールドテストに心も弾む! 注目の背面システム搭載のバックパックを、北海道・武佐岳でチェック!
新型コロナウィルスの問題はいまだ収束していないが、一方では“普段”の生活を取り戻すべく、登山を再開し始めている人も多い。この僕も夏の北海道に遠征し、知床半島の武佐岳へ登ってきた。
斜里岳と羅臼岳のあいだにある武佐岳は、知床連山の展望台として知られる山だ。
麓には広大な牧場が広がり、登山口の周辺にも牧草地が点在している。
登山前に全体をチェック。このコードは何に使う!?
そんな武佐岳登山の相棒となったのが、マムートのバックパック、「デュカンスパイン」だ。じつはこのモデル、特筆すべき機能を持ち、今シーズンに新発売されたバックパックではトップクラスの注目株。だが、外出を自粛していた時期には試すことができず、今になって紹介する次第である。
デュカンスパインにはふたつのサイズ(容量)がある。テント泊山行に対応する大きさのほうが「デュカンスパイン50-60」で、もうひとつは日帰り山行や小屋泊まりに適した大きさ「デュカンスパイン28-35」。今回は小さめの「28-35」をピックアップした。
メインの素材は、ナイロン 91% 、ポリエステル 9%。見た目よりも柔らかだが、目が細かいリップストップ生地でもあり、強度は高い。
重量は1290g。このサイズのバックパックとしては少々重めだが、その理由は後ほど。
トップリッド(雨蓋)は付属せず、荷室へのアクセスはいわゆるトップローディング式。ジッパーで開閉できる開口部があり、余分な生地をクルクルと丸めてバックルで留めるシステムである。
このシステムは好き嫌いが分かれるが、慣れれば“巾着式の本体+トップリッド”という一般的バックパックよりもすばやく出発準備を行えるのが利点だ。
最上部には小さなポケット。
内側にはフックも付属しているので、カギなどの貴重品を安全にキープできる。
トップロード式のバックパックではあるが、フロント部分のジッパーからも内部へのアクセスが可能だ。
大きく開く場合は、その上に張り巡らされたコードが少し邪魔になるが、このコードはフックで留められているだけなので簡単に外すことができる。ひと手間かかるとはいえ、機能を損なうわけではない。
このコードを引っ張ると、バックパック全体にコンプレッションがかかり、厚みを抑えられる。荷物が少ないときも内部でモノが暴れることがなく、ストレスなく背負えるだろう。
もちろん脱いだウェアなどを一時的に固定するのにも有用だ。
このようなコード使いは、デュカンスパインの一大特徴である。ボトム部分にも伸縮性のコードが付き、ここにもさまざまなものが取り付けられる。
休憩中に使うマット、雨に濡れたレインウェア、トレッキングポールなどを固定すると便利そうだ。
そんなボトム部分にも小さなポケットがあり、ここにはオレンジ色のレインカバーが収められている。
トグルで本体に取り付けられているため、強風のときでも飛ばされないので安心だ。
伸縮性のコードは、ウェストハーネスの右側にも取り付けられている。この部分にコードを用いているバックパックは非常に珍しい。
しかし、これはなんのためのパーツなのだろうか?
答えは、トレッキングポールホルダー。今回のテスト時にはトレッキングポールを使用しないで歩いたため、以下は後日撮影したカットとなる。
単純な構造ながら2本まとめたトレッキングポールがしっかりと固定され、このまま歩いても簡単には外れない。状況に応じてトレッキングポールを使ったり、収納したりを繰り返すような山行時は、とくに便利そうだ。
ウェストハーネスの左側には、立体的にデザインされたポケットがある。
一部に伸縮性素材のパネルを使っているため、かなり大きめのものでも収納可能だ。
このポケットにはスマートフォンも入れられなくはないが、湾曲して腰にフィットするウェストハーネスという特性上、無理に入れると腰骨付近にスマートフォンの硬いゴロつきを感じてしまう。
一方、柔らかなサイフ類や行動食などとは相性がよく、なかなか使い勝手がいい。
ショルダーハーネスにも長いコードが取り付けられている。ハーネス上には細いテープが縫い付けられており、バックルの位置を移動することでハーネスのフィット感を微調整できる仕組みだ。
そして、この部分にもポケットが左右にひとつずつ設けられている。
コンパクトカメラ程度は十分に収納できるサイズ感だ。ただし28-35Lタイプのポケットはかなり浅く、薄くてシンプルな形状のスマートフォンは滑り出てしまう恐れが高い。
スマートフォンを収納する場合は、コードと小型カラビナなどで確実に固定したほうがよさそうである。
バックパック本体の両サイドにも伸縮性のポケットが付属している。入り口が細くて、下方ほど広くなるという独特の形状だ。
極端に太いものは入れにくいが、1L程度のボトルならば、なんとか収まる。ちょうどよいのは500ml程度のボトルだろうか。このバックパックはハイドレーションシステム対応であり、大きなウォーターキャリーはバックパック本体の専用ポケットを使用したほうが収まりはいい。
予想外に暑かった山。注目の背面システムはどう機能したのか
コード使い、ポケット類などを確認した後、僕は本格的に歩き始めた。まずは林道を進み、途中から登山道へと入っていく。道の傍らにはササが生い茂り、大きなフキも葉を広げている。いかにも北海道らしい植生が山旅気分を盛り上げ、なんだかうれしい。少し歩いただけで、これまで新型コロナのために鬱屈していた気持ちがだんだん解消していく。
それでも今回、僕は自分の首にネックゲイターを巻いておき、他の登山者とすれ違うときは、マスク代わりにすぐ口元を覆えるようにしておいた。まあ、ときどき忘れてしまっていたのだが……。
当日は好天。武佐岳が位置する道東は日本でも寒冷な場所だが、この日はとても暑かった。ゆっくりと歩いているだけで汗がにじみ出てきて、傾斜がきつくなると全身から汗が噴き出してくる。デュカンスパインの機能性を確かめるにはちょうどよい状況である。
デュカンスパインの背面パッドは、まるで砂時計を思わせるような中央が細く、上下が太いユニークな形状。そのために背中に触れる面積が狭く、パッドの下には風が通る隙間も生まれる。
通気性がよいので蒸れにくいだけではなく、汗をかいても蒸発しやすいのがメリットだ。
実際に背負った状態で背中と背面パッドの関係を見ると、空気が通る隙間ができているのがよくわかる。
しかし、その隙間はさほど大きくはない。だから荷物の重さが外側にかかることはなく、肩と背中で荷重を受け止められる。背負い心地は上々だ。
武佐岳は途中から傾斜を増していった。標高1007mという中低山ではあるが、思いのほか登り甲斐がある山だ。
段差を乗り越えるために体が左右に大きく傾くこともあるような登山道だが、むしろデュカンスパイン “最大の特徴” をテストするには好都合ともいえた。
その特徴とは「アクティブスパインテクノロジー」。
これは体の動きに背面パッドとウェストハーネスが追従して動くシステムだ。
では、その動きを具体的に見てみよう。以下はバックパックを地面に置き、手でウェストハーネスの位置を変えてみた状態だ。
ハーネスが腰を基点に上下に移動する際に、背面パッドが連動していっしょに曲がることがわかるだろう。
これを背負ったまま背後から撮影すると以下のようになる。ハーネスやパッドの位置関係は見えないとはいえ、体の動きに追従するイメージはつかんでいただけるのではないか。
体を過度に傾けても、大きく動くのはハーネスとパッドだけ。バックパック本体の形状に影響はない。だから荷物は安定し、体への負担は大きく削減されている。
そんなことを体感していると、アクティブスパインテクノロジーの力は、ハーネスと背面パッドの連動だけから生まれるのではなく、バックパック本体を支えるフレームも重要な役割を果たしていることがわかる。
上の写真を見ると、黒い金属フレームでバックパック本体の背面生地が強く張られていることがわかる。小型~中型バックパックとしてはかなり太めのフレームで、非常に頑丈だ。このフレームがバックパックの重量増につながっているのは間違いない。だが、その分だけ背負い心地に安定感をプラスしているわけである。
登山道が完全に尾根上へ乗り上げると、目指す武佐岳がきれいに眺められるようになった。
じつは昨年も僕はこの山を登りに来ていたが、悪天候のために断念。それだけにこの日の好天がうれしくて仕方がない。
汎用ポケット? おまけのようなディテールも嬉しい
それにしても、さすがは気象条件が厳しい道東だ。標高1000mにも満たない場所で森林限界を超えてしまう。
風が吹き抜け、麓よりも格段に涼しくなった。先ほどまでかいていた大汗が次第に乾燥していくのがわかる。
ところで、デュカンスパインにはまだ紹介していないおもしろい機能というか、付属品がひとつ残されている。それは平たくて四角い形状のポーチだ。
これは本体内部にも取り付けられるが、ジッパーの左右につけられたストラップとバックルにより、他の場所にも簡単に移動できる。
下に並んだ写真のうち、左は腰もとに、右は胸もとに取り付けた様子だ。
このポーチの素材は防水性で、しかも溶着されている。ジッパーは止水性だ。そのために雨濡れに弱い電子機器や貴重品を入れるのにはとても適している。バックパックからぶら下がった状態で使用するために、スマートフォンなどを入れても体に触れにくく、ゴロつきを感じさせないのもいい。“おまけ”のようなディテールだが、こういう工夫がある製品は使っているだけで楽しいものだ。
晴れた山頂に到着し、満足感に浸る。
晴れていて、本当によかった!
北を見れば、知床の山々。
遠くに見えるのは、海別岳に違いない。
東を見れば、根釧台地と根室海峡の海。
うっすらと国後島も眺められた。今年は屋外での活動を春から最低限にとどめていたが、やはり山はいい!
まとめ:「デュカンスパイン28-35」は、いろいろな使い方ができる現代的なバックパックだ
さて、ここからは「デュカンスパイン28-35」の総合的な感想である。
今回は日帰り山行でテストしたが、夏山に必要な装備を入れる分には少し大きすぎた。容量は「28-35L」のはずだが、かなり上まで荷物を入れることもできるトップロード式のバックパックということもあり、実際には45Lくらいにすら感じるほどの収納力なのである。もちろんこれは商品自体の優劣とはまったく関係なく、むしろ軽量コンパクトな装備でそろえれば、テント泊すら可能なのではないかと思うほどのポテンシャルを秘めているということ。がっしりとしたフレームは重い荷物も十分に支えられそうであり、もう一度テストを行なうとしたら、今度はテント泊に挑戦してみたい。
アクティブスパインテクノロジーの機能性もよく理解できた。体とバックパック本体がそれぞれ独立するように分離し、それらを、可動するハーネスと背面パッドがつなぐというシステムは、たしかに体への負担が少なかった。ただ、金属フレームはここまで頑丈でなくてもよい気がしないでもなく、もう少し軽くなったほうがありがたい。
フロント、ボトム、ショルダーハーネス、ウェストハーネスに取り付けられた多様なコード類も大きな特徴だが、正直なところ僕には使いきれなかった。むしろ木の枝などに引っ掛かりやすくなるデメリットもあると感じる。しかし、余分なコードは自分で外して使えばよいだけであり、そのあたりは使う人次第といったところだろう。
「デュカンスパイン28-35」にはさまざまな工夫が搭載され、じつに現代的なバックパックであった。一般的な登山からスピードハイク、頑張ればテント泊までに対応できる力を持っている。スタイリッシュなルックスもよく、これから人気が出そうだ。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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