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登山中のスズメバチの被害を防ぐためにできること、刺されてしまった場合の対策

山で必ず役立つ! 登山知識の処方箋
基礎知識 2020年09月17日

夏から秋にかけての時期は、スズメバチが最も活発に活動し、凶暴になる時期と言われている。8月下旬、登山ガイドの木元氏は、そんなスズメバチに刺されてしまった。その体験談とともに、スズメバチ対策について改めて考える。

 

8月下旬、東京都の高尾山の登山道のひとつ、6号路の倒木にオオスズメバチが巣を作り、近くを通過したハイカー数人が刺される被害が発生しました。

実は、私もその一人で、8月22日の朝に刺されてしまいました。スズメバチの種類は、大型で攻撃性が強いと言われるオオスズメバチでした(この巣はすでに撤去済みです)。

高尾山のオオスズメバチ。ここでは倒木に巣を作っていましたが、地中に巣を作る場合が多いハチです


ハチ刺し症治療の専門家である、小川原辰雄医師の著書『人を襲うハチ』によると、人を襲うときのスズメバチの行動パターンは、次のようなるとのこと。

  • ①巣に近づいた人の周囲を飛び回る「警戒」
  • ②大顎をカチカチと鳴らす「威嚇」
  • ③複数のハチが人に取り付いて執拗に毒針を突き刺す「攻撃」

しかしこのときは、巣の近くを大勢のハイカーが行き来している状況でした。スズメバチも諦めたように、巣の手入れに専念しているように見えました。

ただし完全にハイカーを無視していたわけではなく、私の前にも刺された人がいて、救急隊員が駆けつけていました。

私は離れたところから、望遠レンズを使って巣の様子を撮影。その後、他のハイカーと同様に巣の横を急いで通り過ぎようとしたときです。背後から近づいてきたスズメバチが、髪の毛の生える後頭部に止まったのでした。すぐに体の動きをとめて様子を見たのですが、スズメバチは少し時間を置いてから針を突き刺して、飛び去りました。攻撃というよりは威嚇のために、通るハイカーを無作為に狙って刺していたのかもしれません。

その場を離れた私は、後述する全身症状を警戒してしばらく動かずにいたものの、症状が出なかったため最短コースとなる1号路から下山。帰宅後は医師の知人にメールで相談しつつ、自分で手当てを行ない、今はほぼ完治しました。

スズメバチに刺された際のファーストエイドとしては、ポイズンリムーバーを使うやり方が知られています。しかし私が今回刺されたのは、自分では見ることのできない後頭部。他の人にサポートを頼もうにも、新型コロナウイルスの感染が広がる現状では、見ず知らずのハイカーに声をかけるのもためらわれ、ファーストエイドよりも下山を優先しました。

登山時は、さまざまな悪条件が重なって、今回の私のように一般的なファーストエイドを行えない状況もあるはずです。

そこで『人を襲うハチ』を参考にしつつ、自分の体験も照らし合わせて、スズメバチに刺されるのを防ぐ方法と、刺されたときのファーストエイドの手順を改めて考えてみました。

 

どんなときにスズメバチに刺されるのか?

最も危険なのは、スズメバチの巣に近づくこと。10m以内で要注意、3m以内の場合はかなり危険とされています。今回の6号路には迂回路が設定されていたものの、いちばん近いところで巣から3~4mくらいしか離れていませんでした。私が刺されたのも、そこを通過しているときでした。

またスズメバチは、黒い色に対して敵意を持ち、攻撃する習性があるとされています。黒いウェアを身はもちろん、黒いザックなども危険なので避けるべき。

匂いにも敏感で、特にヘアスプレーや香水などにはスズメバチを刺激すると言われていますので、使わないほうが安全です。

 

スズメバチに警戒、威嚇されたときは?

距離を置いて周囲を飛び回っている状態であれば、そのまま引き返すのが一番です。

登山道脇の葉の上で休むスズメバチ。このような場面に遭遇したら引き返したほうが無難です


体のごく間近を飛び回ったり、体に止まったりした場合には、古くから言われる「木化け」という方法を試すのが良いでしょう。

これは木になったつもりで一切の体の動きを止めて、近づいたスズメバチの警戒心を取り除く方法です。このとき、絶対にやってはいけないのが、スズメバチを手で払ったり、叩き潰すこと。警戒フェロモンが発せられて、たくさんのスズメバチによる攻撃が始まります。

ただし今回は私も必死に木化けしていたつもりでしたが、刺されてしまいました。緊張感がスズメバチに伝わったのかもしれません。それでも針が食い込んでも耐え、スズメバチが飛び去るのを待ったため、本格的な攻撃にはなりませんでした。

もしやり過ごすことができず、複数のスズメバチによる攻撃が始まった場合には、全力で走ってその場を離れます。おおよそ100m以上離れると、もう追ってはこないはずです。

走る間は両腕を振り回し、少しでも刺される回数を減らす努力をするのが良いとされています。

 

刺されるのはどこか?

『人を襲うハチ』によると、多いのは手、腕、顔で、それぞれ全体の20%くらい。私のように髪の毛の生える頭部を刺される人がその次に多く、10%くらいいるそうです。

刺されたときの被害を軽減させるには、長袖のウェアを着用。必ず帽子もかぶり、さらに首筋を守るためにタオルなどを巻くのが良いでしょう。

 

刺された時のファーストエイド

刺されてしまった場合、まずは巣から100m以上離れた場所まで移動してからファーストエイドを行ないます。
行なうのは①毒抜き、②水で洗浄、③軟膏の塗布の3つです。

スズメバチに刺されたときのファーストエイドで使うもの。①ポイズンリムーバー、②鏡、③水、④穴を開けたペットボトルのキャップ、⑤炎症の抑える軟膏

①毒抜き

・ポイズンリムーバーでの毒の吸引

まず最初に行ないたいのは、ポイズンリムーバーでの毒の吸引です。

マウスピースを刺された部位に押し当て、ピストンレバーを引き上げます


一度では効果がなさそうに思えても、数回に渡って根気よく吸引することで、毒が出てきたという話はよく聞きます。

これで吸引ができた場合は、腫れや痛みは明らかに少ないとのことなので、真っ先に行なうべきでしょう。ただし刺されてから時間が経つと、ほとんど効果はないそうです。『人を襲うハチ』には、刺された後約10分以内が目安と記されています。

なお、ポイズンリムーバーはバキューム効果で毒を吸い出します。髪の毛の生える頭部では、あまり効果はありません。

・毒の絞り出し

ポイズンリムーバーがなければ、刺されたところ爪で左右から圧迫し、毒を絞り出すことを試みましょう。
また髪の毛の生える頭部でも、この方法ならば可能です。

刺された部位を左右から爪で圧迫。顔面を刺されたときも、鏡があれば自分で処置できます

 

②水で洗浄

ハチの毒は水溶性なので、水で洗うのも効果があるそうです。近くに水道やきれいな沢があれば、数分間刺された部位を洗い流すと良いでしょう。

水道などがないときも、水の入ったペットボトルの先端をファーストエイド用の穴を開けたものに交換し、勢いよく水を出して洗いましょう。

水を入れたペットボトルのキャップを穴が開いたものに交換し、刺された部位を洗い流します


ただし、毒が皮膚の奥に入り込んでしまうと効果はありません。爪を使っての毒の絞り出しと同時、または交互に行なうのが良いでしょう。

 

③軟膏の塗布

次に炎症を抑える効果がある、抗ヒスタミン軟膏やステロイド軟膏を塗ります。効果が高いのはステロイド軟膏のほうで、たっぷり塗るのではなく、少量を丁寧に塗るのが良いとされています。

ただし刺されてすぐに塗り込むのは、手の動きで毒を拡散させることになってしまいます。毒抜きと洗浄のあと少し時間を置き、腫れが出てきたらその部位に塗るのがポイントです。

以上の処置をしたあとは速やかに下山し、医療機関を受診しましょう。

 

全身症状が出たら救助要請

もしスズメバチに刺された直後、30秒から数分以内に、蕁麻疹や呼吸困難、めまいや意識障害などの全身症状が現れたら、アナフィラキシーショックと呼ばれる全身性の急性アレルギー反応が始まった可能性が考えられます。

命を落とすこともある非常に危険な状態なので、ただちに救助要請をしましょう。救助を待つ間、刺された人は仰向けの姿勢で足を高くします。この場合も毒抜きは効果があるので、ポイズンリムーバーや爪などで毒を出し、水で洗うのが良いでしょう。

これまでハチにさされたことがある人は、このような全身症状が出る可能性が高いとされるので、いちど医師に相談しておいたほうが安全です。また同行者にも、そのことを伝えておきましょう。

*   *   *

『人を襲うハチ』によると、スズメバチの活動は、夏の気温が高くて雨が少ない年に活発になるそうです。エサが豊富な上、風雨で巣が崩れたりすることがないためで、そういう年はハチに刺される被害も多いとのこと。

今年の夏は暑い日が続き、関東地方では大きな天候の崩れもなかったため、危険な状況だと言えそうです。スズメバチに刺される被害がもっとも多いのは8月ですが、9月や10月に刺される人も少なくありません。

これから低山ハイキングに最適なシーズンを迎えますが、例年以上にスズメバチに注意することを、強くお勧めします。

ケガ・病気 危機管理 セルフレスキュー
教えてくれた人

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟海外委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。2009年から登山ガイドの仕事を始め、2011年から『山と溪谷』『ワンダーフォーゲル』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。

 ⇒ホームページ

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