県内の山域は既に秋、事前準備と下調べを十分に行ってから入山を 島崎三歩の「山岳通信」第200号

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長野県が県内で起きた山岳遭難事例について配信している「島崎三歩の山岳通信」。2020年9月29日に配信された第200号では、9月連休中に多くの遭難事故があったことについて触れ、観光気分の延長で入山することがないよう、事前準備と下調べを十分に行うことを促している。

 

9月29日に配信された『島崎三歩の「山岳通信」』第200号では、期間中に起きた21件の山岳遭難事例について説明。以下に抜粋・掲載する。

  • 9月2日、北アルプス蝶ヶ岳で、仲間と3人で入山した72歳の女性が、蝶ヶ岳山頂から三股登山口へ下山中に、疲労により行動ができなくなる山岳遭難が発生。女性は安曇野警察署山岳遭難救助隊員により救助された。

  • 9月9日、下高井郡山ノ内町の奥志賀高原雑魚川渓谷で、仲間ら14人で入山した79歳の女性が、雑魚川渓谷をハイキング中に遊歩道から足を踏み外して滑落し、負傷する山岳遭難が発生。女性は岳南広域消防署員により救助された。

  • 9月14日、南佐久郡川上村小川山の廻り目平で、クライミングのために単独で入山した42歳の男性が、ロッククライミング中に転落して負傷する山岳遭難が発生。男性は佐久広域消防本部救助隊により救助された。

  • 9月14日、北アルプス焼岳で、単独で入山した43歳の男性が焼岳から中ノ湯方面へ下山中に転倒し、負傷する山岳遭難が発生。男性は県警ヘリで救助された。

  • 9月15日、中央アルプス摺古木山で、2人で入山した29歳の男性と27歳の女性が、大平峠から摺古木山方面へ登山中に道に迷い、行動ができなくなる山岳遭難が発生。2人は県警ヘリで救助された。

  • 9月15日、八ヶ岳連峰赤岳で、単独で入山した71歳の女性が、赤岳周辺を行動中に何らかの原因で転落する山岳遭難が発生。県警ヘリで救助したものの、死亡が確認された。

  • 9月16日、北アルプス白馬岳で、単独で入山した66歳の男性が、白馬岳から白馬大雪渓を通って猿倉方面へ下山中に滑落して負傷する山岳遭難が発生。男性は大町警察署山岳遭難救助隊員及び北アルプス北部地区山岳遭難防止対策協会白馬班救助隊員により救助された。

  • 9月17日、四阿山で、単独で入山した39歳の男性が下山中に滑落して道に迷い滑落して、行動ができなくなる山岳遭難が発生。男性は19日に山岳遭難防止対策協会救助隊員により救助された。

  • 9月17日、北アルプス東沢岳で、単独で入山した73歳の男性が燕岳から東沢岳周辺を行動中、道に迷い行方不明となる山岳遭難が発生。18日から捜索を行っている。

  • 9月18日、飯田市南信濃遠山川で、仲間と2人で渓流釣りのために入山した57歳の男性が、渓流釣り中に滑落・負傷して行動ができなくなる山岳遭難が発生。男性は飯田広域消防本部の救助隊員により救助された。

  • 9月18日、北アルプス大天井岳で、単独で入山した25歳の男性が大天井岳を縦走中、低体温症により行動ができなくなる山岳遭難が発生。男性は県警ヘリで救助された。

  • 9月20日、八ヶ岳連峰蓼科山で、家族と2人で入山した55歳の男性が、山頂から下山中に転倒して負傷する山岳遭難が発生。男性は県警ヘリで救助された。

  • 9月20日、北アルプス涸沢で、仲間と2人で入山した51歳の男性が、涸沢からパノラマコースを下山中に道に迷い、転倒して負傷する山岳遭難が発生。男性は県警ヘリで救助された。

  • 9月21日、北アルプス槍ヶ岳で、仲間と3人で入山した57歳の男性が、槍ヶ岳から下山中に転倒して負傷する山岳遭難が発生。男性は県警ヘリで救助された。

北アルプス・槍ヶ岳の遭難現場の位置/長野県警察本部 ホームページ 山岳遭難発生状況(週報)9月25日付
 
  • 9月21日、北アルプス涸沢岳で、仲間と2人で入山した24歳の男性が、北穂高岳から涸沢岳方面へ縦走中に滑落して負傷する山岳遭難が発生。男性は県警ヘリで救助しました。

北アルプス・涸沢岳の遭難現場の様子/長野県警察本部 ホームページ 山岳遭難発生状況(週報)9月25日付
 
  • 9月21日、八ヶ岳連峰三ッ岳で、家族2人で入山した65歳の女性が、下山中に転倒して負傷する山岳遭難が発生。女性は県警ヘリで救助された。

  • 9月21日、北アルプス北穂高岳で、仲間と2人で入山した39歳の女性が、北穂高岳から下山中に転倒して滑落、負傷する山岳遭難が発生。女性は県警ヘリで救助された。

  • 9月21日、八ヶ岳連峰の峰の松目で、単独で入山した38歳の男性が、峰の松目から下山中に道に迷い行動ができなくなる山岳遭難が発生。男性は22日に茅野警察署山岳遭難救助隊員などにより救助された。

  • 9月22日、北アルプス奥穂高岳で、単独で入山した70歳の男性が、吊尾根から下山中に滑落する山岳遭難が発生。男性は23日に心肺停止の状態で発見され、死亡が確認された。

  • 9月22日、北アルプス東沢岳で、単独で入山した55歳の男性が、燕岳から東沢岳周辺を行動中に、疲労により行動ができなくなる山岳遭難が発生。男性は安曇野警察署山岳遭難救助隊員により救助された。

  • 9月22日、南佐久郡川上村の小川山・廻り目平で、クライミングのために仲間と3人で入山した68歳の男性が、ロッククライミング中に体調不良により行動ができなくなる山岳遭難が発生。男性は山梨県防災ヘリで救助されたものの、搬送先の病院で死亡が確認された。

 

長野県警山岳安全対策課からのワンポイントアドバイス

9月1週は1件、2週は1件、3週は19件の山岳遭難の発生がありました。

2日に発生した蝶ヶ岳での疲労による遭難は、下山中の疲労により、これ以上の行動は不可能と判断して、携帯電話で救助要請をしたものです。通報は午後8時を過ぎていましたが、幸い無事に救助されています。

今回は携帯電話で救助要請できたことから、迅速に救助活動が行えましたが、携帯電話が通じない山域や、付近に山小屋のない山域で発生したとしたら、当事者がとるべき対処は、

  • ①行動を打ち切り、ビバークをして体力の温存・回復に努め、翌日に行動を再開する
  • ②回復が見込めなければその場にとどまり、救助を待つ(計画書の届出と家族や仲間との共有が前提です)
  • ③通りがかりの登山者に救助を要請する 

などが考えられます。登山中に、体力不足や予期せぬケガに見舞われることは誰にでも起こりえることです。「もしも」に備えて準備を万全にしてから入山しましょう。

今後、県内の山岳では、標高の高い山域を皮切りに、順次、紅葉の見頃を迎えます。都市部では、まだ日中は暑さが続いていますが、県内の山域は既に秋を迎えており、稜線上で風雨に曝されると、簡単に低体温症になってしまいます。「ちょっと紅葉を見に・・・」そんな気軽な観光気分の延長で入山することがないよう、事前準備と下調べを十分に行いましょう。

長野県内の山は岩稜帯が多く、転倒や滑落により重大な事故に繋がることがあります。特に、転・滑落は頭部への外傷が致命傷になってしまうケースが多いことから、岩稜帯の多い山域を登山される方は必ずヘルメットを被ってください。

また、第3週に遭難された20名のうち10名の方が単独登山です。なるべく少人数による登山が推奨されているところですが、単独登山は登山中のトラブルも含め全て自分一人で判断をしなければならず、また携帯電話が通じなければ救助要請をすることもできません。これらのリスクがあることを認識し、登山経験豊富な方は、決して油断することなく綿密な計画と慎重な行動を、登山経験の少ない方は、経験豊富な方と登山するなど、ご自身の技術や経験に見合った登山を心掛けてください。

なお、県内では熊の目撃や負傷事案が発生しています。行動中は鈴やラジオなどを携行し、テント場では、食料やゴミなどを外に放置することのないようにしましょう。

長野県では、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため「長野県内入山注意報」と、「登山者への5つのお願い」を発表しています。登山者の皆さんは、十分にレベルを落とした山域を選び、感染防止対策にご協力をお願いします。

 

「島崎三歩の山岳通信」第200号配信記念の特別編集

平成30年1月23日第100号配信から皆様に検索いただいて、今回第200号配信を迎えました。週間山岳遭難発生状況をお伝えしてきましたが、平成29年~31年の3年間について長野県内の日本百名山における山岳遭難発生状況(PDF)を長野県警察本部山岳安全対策課の山岳遭難統計より集計・抽出しました。

 

プロフィール

島崎三歩の「山岳通信」

信州の山岳遭難現場と全国の登山者をつなぐために発行。「登山用品店舗スタッフ」「登山情報サイトを利用する登山者」「長野県内の各地区山岳遭難防止対策協会」などに対して、長野県の山岳地域で発生した遭難事例を原則・1週間ごとに、「安全登山」のための情報提供をしている。

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島崎三歩の「山岳通信」

長野県では、県内の山岳地域で発生した遭難事例をお伝えする「島崎三歩の山岳通信」を週刊で配信。その内容をダイジェストで紹介する。

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