登山に多い怪我、捻挫の予防法、対処法、治療後の注意点。整形外科専門医、柴田俊一先生に聞く<後編>

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登山で多い怪我の1つが捻挫、とくに足首を捻挫する人は少なくない。捻挫を防ぐにはどうしたら良いのか、または怪我してしまった時の最善の対処法は? 慈恵医大槍ヶ岳診療所でも活動する整形外科専門医として活躍する柴田俊一先生に話を聞いた。

 

捻挫を防ぐに、ふだん登山者ができること

登山を長く続けるには、捻挫を防ぐ必要があると強く訴える柴田先生。とくに多い足首の捻挫の原因となるのは、足を接地させるときに、予想した路面状況と実際が違っていて、不自然な動きをさせてしまうことだ。

★前回記事:登山を長く続けるためにできる、捻挫の予防と対処法

本来、登山中は目で見て路面を観察し、無意識に正しい動きを行なっているのものだが、最近は途中でスマートフォンの画面を見たり、おしゃべりに夢中になったりしているときに、観察がおろそかなまま不用意に足を運ぶことがある。そんなときに、予想外の力を足に加えてしまい、足運びにクセがあるとより捻挫する可能性が高まる。これが足首の捻挫が起きるメカニズムだ。

そこで柴田先生に伺った、捻挫を防ぐためのポイントを以下にまとめた。

 

1.関節の可動範囲を広げる。

まずは足首や、脚全体の筋肉を柔らかくすることが大切。以下にお勧めのストレッチ方法を提示する。

①前方向

膝を曲げてつま先を地面につけた正座のような姿勢をとり、足の親指に体重をかけて、脛の前と一緒に20秒程度伸ばす。


②後ろ方向

伸ばす側と反対の膝を立て、伸ばす足首の甲を地面に押し付け、膝を地面にいったん付けてから膝を浮かせて20秒ほど伸ばす。
正座の姿勢でも同様の効果が得られるが、足首が固い人がいきなりやると靱帯を痛めてしまうこともある。まずはこの姿勢から試してみる。


③足の後ろ側

足首は外側には踵腓靭帯、内側には三角靱帯がある、細かい動きが必要な部位だ。踵の少し上を親指と中指でつまみ、緊張する場所を意識しながら反対の手で足先を持ち、足首を前後左右に回旋させて伸ばす。


足首だけでなく、脛の前の筋肉(前脛骨筋)とふくらはぎの筋肉(腓腹筋ヒラメ筋)が固いことによる、可動域制限が起こっている例も少なくない。

自分の体の固さを知るには、いわゆる「ヤンキー座り」ができるかが目安になる。できる方は柔軟性に問題はないが、うまくできない方は要注意となる。

 

2.自分の足運びのクセをチェック

接地するときの足は、本来ならば地面に対して平行になるのが理想となる。また、その足に体重を乗せた状態を正面から見ると、足と膝と股関節が真っ直ぐになるはずだ。捻挫しやすい人は、左右に傾くクセがあることが多くなる。

普段の山歩きで自分が足を運ぶときに、足がフラットに接地するかをチェックしよう。もし、最初に接地するのが小指側や親指側、踵からであれば要注意となる。

また、着地した足に体重を乗せたときの膝の位置もチェックする。股関節と足を結んだ線に対して、真っ直ぐではなく、内側に入っていたり、外側に出ていたりするのも、やはり要注意となる。

 

3.接地面を観察し足運びをコントロール

次に足を置く接地面を、しっかりと観察する習慣を身に着けよう。足を置く接地面は、水平に近い、できるだけ面積が大きくて安定する部分を選ぶ。このときの接地面が、木の根や浮き石、ガレやザレの場合は滑ったり、バランスを崩したりすることが考えられる。歩幅を小さくして、慎重に進むようにする。

また、落ち葉や草むらなど、接地面が見えないときも要注意。見当をつけて歩くのではなく、面倒でも、一歩一歩足探りで進むようにしたほうが確実となる。このとき、足運びにクセがある人は、足が傾いたり、膝が出たりしないように意識する。

このように足運びをコントロールできれば、足が予想外の方向に行ったり、無理な動きをすることが少なくなり、歩幅の調整もできたりするので、捻挫はかなり防げるはずだ。

 

4.歩行中はできるだけ歩くことに集中

いつもは気をつけていても、ふと何かに気を取られたときに、足をとられて捻挫することが少なくない。ずっと集中し続けるのは大変だが、足を置く路面を必ず見る習慣は身につけたいもの。

多いのは本人が気をつけていたとしても、後ろから声をかけられて振り向いたときに、足を捻って捻挫してしまう人。後ろを振り返るのは本当に危険なので、後ろからの呼びかけはできるだけ避けるべきだ。また、後ろを向く必要があるときは、必ず立ち止まってから振り返る習慣をつけるようにする。

*     *     *

あらかじめ足回りの柔軟性を保ち、自分の体のクセを知ること。歩行時にはよく観察しつつ、足運びをコントロールすること。そして歩行に集中すること。

これらは捻挫を防ぐだけでなく、遭難の原因となる転倒や滑落、転落を防ぐことにも結びつく、登山の基本とも言えるポイントだ。

 

捻挫後の登山をサポートするアイテム

しかし筆者のように、すでに捻挫してしまっている、という人も多いはずだ。捻挫をした後でも、上手く登山を続ける方法はあるのだろうか? 柴田先生も、靭帯2本を切った捻挫後にも登山を続けているが、現在、どのような対策をとっているのかを伺った。

上の捻挫を防ぐポイントを意識した上で、道具なども使って再発の予防しています。特に今は、シューズの性能が高まってきました。サイズの合ったハイカットのシューズを履き、適切に紐を締めるだけでも足首のサポート効果はあります。

ハイカットシューズのサポート効果は、筆者も実感している。実は30代までは、無雪期ではハイカットの必要はほとんど感じていなかったものの、最近はメリットを感じて低山でも履くようになった。ちょっと足元がぐらついても、シューズの剛性で踏みとどまることができるので、足首の負担はかなり軽減できている。

柴田先生は、シューズ選びに対して、こう付け加える。

あとはインソールです。シューズをよりフィットさせ、足のバランスを保つことができます。種類が豊富なので、ショップの人とじっくり相談して選ぶといいでしょう。

インソールを入れるのも足首の捻挫の防止に役立つ。インソールには様々なタイプがあるので、ショップなどでその機能について確認して利用しよう


それにテーピングもしています。愛用しているのは筋肉をサポートし軽く固定するキネシオテープで、上手く貼ると数日間使えます。注意したいのは巻き方で、登山では全周を巻くと、阻血という血流障害を起こしてしまいます。皮膚の血流を維持することに加え、皮膚の下の脂肪や筋肉も補助的に関節を支えているので、それを活かした、皮膚を残した巻き方がいいでしょう。

以前捻挫した足首をサポートするためのキネシオテープを使ったテーピング。全体に巻かないようにするのがポイント


 筆者はインソールはノーマルタイプのままで、テーピングは痛めたと思ったときにしか行なっていないが、歳を重ねるにつれ、さらに足首は弱ってくると考えられる。今後は積極的に活用したほうが良いのではないかと、考えさせられたのだった。

 

※次号は登山者に多い膝痛について話を進める――

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

医師に聴く、登山の怪我・病気の治療・予防の今

登山に起因する体のトラブルは様々だ。足や腰の故障が一般的だが、足・腰以外にも、皮膚や眼、歯などトラブルは多岐にわたる。それぞれの部位によって、体を守るためにやるべきことは異なるもの。 そこで、効果的な予防法や治療法のアドバイスを貰うために、「専門医」に話を聞く。

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