天を衝く岩峰と紅葉が作る絶景 阿蘇山根子岳
阿蘇五岳の中でも特徴的な山容をもつ根子岳。荒々しい天狗岩の岩峰と紅葉が見事です。
阿蘇山は、南北25km、東西18km、周囲128kmの世界最大級の火山です。
そのカルデラ中央部には、烏帽子岳(1337m)、杵島岳(1321m)、高岳(1592m)、中岳(1506m)、根子岳(1433m)の5峰が並びそびえ阿蘇五岳と呼ばれています。広大な草原にそびえ立つ山容は、釈迦涅槃像にも例えられています。
阿蘇五岳の中で最も異形の山容で誰もが一度は登ってみたいと思う山が、根子岳です。お釈迦様の顔の部分にあたる根子岳は、東から西へと険しい鋸刃のような尾根が連なり、中央部には天狗岩が天を突き刺す鉾のように屹立した特徴的な姿をしています。
阿蘇山の中で最も古い時代の火山だと言われ、荒々しい山容を持つ一方で全山が緑に覆われ新緑や紅葉、霧氷など季節ごとの美しさで登山者を惹きつけます。
今回は、ポピュラーな大戸尾根から東峰までの往復コースで紅葉と大展望を楽しむことにしました。
広域農道から北上したところに大戸尾根登山口の駐車場があります。石がゴロゴロとした空き地なので、平坦な場所を選んで車を停めます。
大戸尾根登山口からは、牧野のコンクリート道に設置されたゲートを開けて進みます。
今は使われていない避難小屋が見えたら右へ回り込み上部の牧草地へ上がります。放牧された牧牛がのんびり草をはむ姿は牧歌的ですが、大きな牛の横を進むときには、身構えてしまいます。
有刺鉄線の柵を過ぎて、大戸尾根に取り付きます。植林から始まる急坂は、真っ直ぐに山頂まで続きます。足元は真っ黒で滑りやすい阿蘇火山灰土です。雨の日は滑り出したら止まらない厄介な道になります。
足元に咲くヤマラッキョウに元気づけられながら、「土砂流出防備保安林」の白い看板を過ぎると、左側は紅葉の美しい自然林に変わりモミジやウリハダカエデが鮮やかに染まっています。
一旦傾斜が緩む場所が出てくるので、ザックを下ろして頭上のモミジや、紅葉越しの祖母・傾山群の長い稜線を眺めているうち先程の急坂の疲れも忘れてしました。
しばらく行くと、露岩が立ちはだかる岩場になります。岩場を一旦下りハシゴで乗り越して、程なくすると「至根子岳東峰」の傾いた標識が現れます。このあたりでは、リンドウの花を見つけました。リンドウが薬草であることは、修験者であった役小角が山道で出会ったウサギから教わったという伝説があるそうで、「きれいなだけじゃなく人のためにもなる花なんだよな!」と独り言。
やがて、地獄谷と複雑に派生した尾根の頂点にそびえ立つ天狗岩が見えてくると、左は紅葉に染まる地獄谷と天狗岩、右は遠く九重連山が望める景色に感動しながら、絶景の尾根歩きになります。
右から前原牧場からのコースが合わさり、東峰の山頂手前にある崩壊地を慎重に過ぎると山頂はすぐです。
展望は雄大です。阿蘇北外輪山とくじゅう連山、阿蘇南外輪山と祖母・傾山群、遠くには九州脊梁山地までの大パノラマが広がっています。圧巻は、天をも突き刺す根子岳天狗岩です。後ろにどっしりと控える阿蘇高岳・中岳を従えるかのように見える圧倒的存在感で迫ります。展望と紅葉を楽しんだら往路を戻りましょう。
プロフィール
池田浩伸
佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。
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