山道具に欠かせない機能性素材「ゴアテックス・ファブリクス」が示す、アウトドア製品の理想像

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「ゴアテックス・ファブリクス」は誰もが知る有名な防水透湿素材。しかし、その開発背景にある、環境へ配慮するモノ作りの姿勢を知る人は少ないかもしれません。新たに発表されたGORE-TEX PROを通して、高機能と環境負荷の軽減の両立を目指す姿を、本国ゴア社の担当者から得た回答と共に紹介します。

文=吉澤英晃

開発から40年以上経ち、現在ではウエアからグローブ、シューズにいたるまで、多くのアウトドア製品に採用されている素材があります。それが有名な「ゴアテックス メンブレン」です。この素材は、「水は通さずに水蒸気だけが通り抜ける」という、一見すると矛盾する防水透湿性能を世界で初めて実現させた画期的な発明でした。

しかし、このゴアテックス メンブレンの開発背景にある環境に配慮したモノ作りの姿勢について、詳しく知る人は少ないのではないでしょうか。

 

科学が証明する、製品を長持ちさせる「耐久性」の大切さ

ゴアテックス メンブレンを開発した「W.L.ゴア&アソシエイツ(以下ゴア社)」は、過去30年以上にわたり、環境に対する負荷を減らすために、さまざまな取り組みを行ってきました。

なかでも1992年から導入したライフサイクルアセスメント(以下LCA:原料の採取、製造、流通、修理、そして最終処分やリサイクルまで、製品の全工程を通して環境に与える負荷を把握する手法)によって、環境へのダメージを減らすいちばんの方法は、長く使える耐久性の高い製品を作ることだと考えています。

LCAの結果では、製品が私たちユーザーの手元に届くまでに発生するCO2の排出量は65%であるのに対して、ゴミとして処分するときの排出量はわずか1%と未満とされています。長持ちする製品を作り、それをユーザーが一日でも長く使用することが、地球環境に与えるダメージを減らすことにつながるのです。

ゴア社は製品の機能性や品質を保証するために、生地だけでなく各メーカーが生産する最終サンプルにも厳しいテストを行います。生地の耐久性を試すマテリアルテスト、降雨や強風を再現できる部屋で防水性をチェックするレインテスト、さらに実際のフィールドで機能と快適性を確かめるフィールドテストを重ねることで、最終サンプルがゴア社の基準を満たしているかチェックするのです。これは、すぐに処分されてしまうような商品を世に送り出さないという、意志の現れでもあるといえるでしょう。

 

異なる機能を生み出し耐久性も向上した新生「GORE-TEX PRO」

ゴア社の環境に対する配慮は新製品にも見られます。それが、今年の秋に発表された新しい「GORE-TEX PRO」です。GORE-TEX PROはゴア社がリリースするゴアテックス・ファブリクスの中で、もっとも頑丈なプロダクト。零度を下回る極寒の冬山や、岩肌と身体が擦れるクライミング、ストップ&ゴーを繰り返すバックカントリーなど、よりハードな環境と使用に対応する耐久性と快適さを提供します。

新しくなったGORE-TEX PROは、3つのテクノロジー、優れた堅牢性を実現する「モスト・ラギッド・テクノロジー(most rugged technology)」、高い透湿性を提供する「モスト・ブリーザブル・テクノロジー(most breathable technology)」、生地に伸縮性を加える「ストレッチ・テクノロジー(stretch technology)」によって、一枚のウエアに異なる機能を組み合わせることが可能になり、アクティビティーが求める細かな要望に、より的確に応えられるように進化しました。

そして新たな素材によって耐久性も向上しています。その新素材のひとつがモスト・ラギッド・テクノロジーとモスト・ブリーザブル・テクノロジーに採用された、新しいマイクログリッドバッカー(耐久性に優れながら透湿性も提供する特殊な織り方で作られる裏地)です。

「ゴアテックス・プロ・ファブリクス(注:モスト・ラギッド・テクノロジー、モスト・ブリーザブル・テクノロジーのみ)」の基本構造。中心に水蒸気だけを通す特殊な膜(メンブレン)があり、表面にはメンブレンを守る生地、その裏に耐久性に優れた「マイクログリッドバッカー」が貼り付けれられている

「新しいマイクログリッドバッカーは、今回初めて採用した、ひっかき、傷つけ、削り取り、擦り傷などを長時間にわたり繰り返し生地に与える“ファイブ・フィンガー・ストラクチャー・テスト”により、自然界で受けるダメージ以上の損傷に対する耐久性が検証されています。モスト・ラギッド・テクノロジーでは、この素材と厳選した70〜200デニールの生地をメンブレンと組み合わせることで高い堅牢性を実現。モスト・ブリーザブル・テクノロジーでは、この裏地によって耐久性を維持しつつ、表面に従来よりも薄い30デニールの生地が使えるようになったため、透湿性が向上しました」(本国GORE-TEX PRO担当者)。

「ファイブ・フィンガー・ストラクチャー・テスト」の様子。先端が尖った5本の棒状の金属で素材にダメージを与えて耐久性を検査する

「さらに縦と横方向に対して最大20%も伸縮するストレッチ・テクノロジーでは、ストレッチ性を生地に与える繊維を表生地だけでなく、メンブレンとの間にある薄い層にも使用することで、膜が外部からのダメージによって損傷されることを防ぎ、結果、製品の寿命を維持することに成功しています」。

 

進化の裏で強く求められた環境負荷の軽減

しかし新たなGORE-TEX PROに求められたことは、耐久性の向上や、堅牢性、透湿性、ストレッチ性というユーザーにとって嬉しい機能の改善だけではなかったようです。

「新しいGORE-TEX PROの開発には、耐久性の向上以外に、さらに環境への負荷を減らすことが要求されました」。

そこで考えられたのが、リサイクルナイロンを使った表生地のラインナップの追加と、マイクログリッドバッカーと表生地に関わる新しい染色方法、ソリューションダイの採用です。

「たとえばソリューションダイを用いてマイクログリッドバッカーを1km作ると、通常の染色方法を採用したときと比べて、約2880ℓ(約50%相当)の水を節約できます」。

化学繊維から作られる生地は最初、ナイロンやポリエステルなどの小さい粒から糸が作られ、それを編む、もしくは織ることで一枚の布が完成します。従来はこの布を多くの水を使う染料に浸して染色を行っていました。しかしソリューションダイを用いると紡糸前のナイロンやポリエステルの原料に直接着色でき、結果、すでに色がついた布を作ることが可能になるのです。

 

機能の向上と環境負荷の軽減を両立する、アウトドア製品のあるべき姿

私たちはメーカーに対して新しい製品の開発を常に期待しています。ゴア社において新製品の開発は「従来品からの機能の向上」という視点と、「環境負荷を減らす」という視点の、どちらを重視しているのでしょうか。

「ゴア社は、高い機能性とサステナビリティ(持続可能性)を最適な形で両立させたアウトドア製品を提供し続けます」。

新しいGORE-TEX PROは、この姿勢に偽りがないことを裏付ける象徴的な製品といえるでしょう。さらにゴア社ではすべてのゴアテックス・ファブリクスに関わる取り組みとして、2023年までにすべての製品から環境への影響が懸念されるPFC(過フッ素化合物)の除去を宣言しています。

「機能の向上」と「環境負荷の軽減」を両立させた製品開発は、いまや世界のアウトドアメーカーのスタンダードになりつつあります。ゴア社が手掛ける製品は、トップシェアを維持しつつ、この両立を高いレベルで実現する、これからのアウトドア製品のひとつの理想像といえるのではないでしょうか。

 

吉澤英晃
大学の探検サークルで登山を始め、社会人になってからは山岳会に所属。無積雪期は沢登り、積雪期はアイスクライミング、雪山登山をメインに四季を問わず毎週のように山で遊んでいる。山道具を扱う会社で約7年の営業職を経て、現在は登山・山岳ライターとして活動中。

未来でも登山を続けるために。

アウトドアメーカーのサスティナブル(持続可能)なモノづくりや、環境のための取り組みを紹介していきます。未来のために登山者として何ができるかを一緒に考え、行動しましょう。

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