日中は茶処として営業。御岳山の宿坊、幕末期・慶応2年に建てられた「東馬場」で下山スイーツを

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下山後に味わいたい粋なごはんを紹介するライター西野 淑子さんの「下山メシのよろこび」。今回は、御岳山の山上にある宿坊で下山スイーツをいただく。その建物は東京都の有形文化財にも指定されているとか…

ケーブルカー御岳山駅からの紅葉(やまちゃん、11月の登山記録より)

 

その建物のことはずっと気になっていた。

ケーブルカーの山頂駅から御岳山の山頂に向かう道中、宿坊が建ち並ぶなかで一際目立つ建物。道路より一段低いところに建っているので、歩いていると見事な茅葺き屋根が目に入る。以前は苔むしてだいぶ年月を感じる…それはそれで素敵だと思っていたのが、数年前に屋根が葺き替えられた。

ハイキングの講座で歩いていたとき、受講生のひとりが「茶店を営業していて、とても雰囲気がよかった」と言っていた。いつもは山へ向かう、あるいは下山する途中に足早に通り過ぎてしまうが、機会があれば立ち寄ってみたいとずっと思っていた。

10月、御岳山を歩いた。天気がよく、思ったよりも早く下山できそうだったので、帰りに立ち寄ることにした。

見事な茅葺き屋根を持つ東馬場の建物

あらためて間近で見ると美しく風格のある建物。その建物が「東馬場」という名前の宿坊であることを、入口にあったパンフレットで知る。広いお座敷にテーブルが置かれ、茶処のしつらえになっている。それぞれの席に小さなお花がいけてあったり、灯りが置かれているのも雰囲気がいい。手作りのメニューブックも素敵。

抹茶やお汁粉、甘酒などがある。私はお汁粉を、同行者たちは甘酒やコーヒーを注文。待っている間にお座敷の中を見回す。この建物は江戸時代後期、慶応2年に建てられたもの。神社に参拝する「講」の人々に宿泊場所を提供する、幕末期の「御師住宅」として貴重な建築物で、東京都の有形文化財にも指定されている。…というのも、待ちながらパンフレットを見て知った。こんなにすばらしい場所をずっと素通りしてきた自分が本当に悔やまれる。

 

頼んでいた甘味が出てきた。

お汁粉はなますがついている。小豆の風味がよく、手づくりならではのやさしい甘みのお汁粉。歩いて少し疲れた体にじんわりと効く。なますの甘酸っぱさがいいアクセント。甘酒やコーヒーを頼んだ面々も美味しそうに味わっている。コーヒーには花豆の乗ったバームクーヘン、甘酒には自家製の生姜糖(武蔵御嶽神社にちなんで「ジンジャ糖」と名付けているらしい)がついている。

お汁粉には、紅白なますとお茶がセットに

いつもなら違うメニューをみんなで少しずつシェアしたりするが、コロナ禍のため食べ物のシェアはNG。そのかわりお互いのメニューを写真で撮り合う。今度はそちらを食べたいねえ…などと話しながら。

こちらはコーヒーのセット。花豆の甘露が乗ったバームクーヘンつき

 

お店の方=神主さんが「今日はどこを歩いてきました?」と聞いてくださった。御岳山から奥の院を歩いてきたと伝えると「奥の院まで行ったなら、大岳山も登ってくればよかったですね」とおっしゃった。ちょっと行程が長いかなと思って今回は行かなかったけど、次回は早めスタートで大岳山まで足を延ばしてもよさそうだ。そしてまた下山後に立ち寄ろう。次回は宿坊に泊まってもいいかもしれないな。

女将さん手作りのお清めクッキーも販売。今年の干支「子(ねずみ)」がモチーフ

宿坊 茶処 東馬場

武蔵御嶽神社の宿坊で、東京都の有形文化財に指定されている茅葺き屋根の建物。日中は茶処を営んでおり、抹茶や甘酒などを味わうことができる。

住所:東京都青梅市御岳山54
電話:0428-78-8446
HP:https://higashibaba.com/

※新型コロナウイルス感染予防対策の関係で、休業あるいは営業時間・形態等に変更がある場合があります。ホームページより最新情報をご確認のうえ、お出かけください。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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