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山岳をとりまく幅広い分野を探求する一冊『山岳科学 Mountain Science』

登る前にも後にも読みたい「山の本」
たしなみ 2020年11月16日

評者=久保田賢次

山岳科学 Mountain Science

編:松岡憲知/泉山茂之/楢本正明/松本潔
発行:古今書院
価格:4000円+税

 

「山とは何か?」。本書を開いて、まず序章1行目の問いかけに新鮮なものを感じた。私たち登山者は山に登り、景色を眺め、花を愛で、心地良い風に吹かれ、森や大地の香り、水の潤いに心癒やされ、生きるチカラをもらい……と、山々からたくさんの恵みを得ている。だが、果たして山とは何か?ということに、きちんと思いを巡らせた経験があっただろうか。本書の目的にも「山岳科学の日本初となる体系的な教科書である。地球圏-生物圏-人間圏にわたる広領域の分野を総合的に理解し、山岳の諸課題に多角的視点から取り組む人材を育成する目的をもって編集した。」と記されているが、山岳科学は文理融合、分野横断型の学問分野とのことだ。

その確立の必要性を受け、中部山岳地域に研究拠点をもつ信州大学・山梨大学・静岡大学・筑波大学の四大学は、大学間の連携による「山岳科学教育(学位)プログラム」を設置し、2018年に大学院修士レベルの教育課程を開始した。開設準備が進んでいた頃、私は山と溪谷社でヤマケイ登山総合研究所という部門の設立に関わっていたが、興味を抱いて説明会や関連のシンポジウムなどにおじゃまし概要を知るなかで、還暦退職後の人生再スタートの方向性が明確に見えてきた。これまで親しみ続けてきた山を勉強し直したい。幸いに社会人選抜でプログラムに入れていただき、最初の集中講義で教わった「山岳科学概論」を担当する、41人に及ぶ専門家の方々が執筆したのが本書である。

全16章のタイトルを列挙することで、あらためて包括される分野の裾野の広さを実感できる。山岳の形成/山岳の気象・気候/山岳水循環/山岳地形/山岳植物生態/山岳動物生態/山岳森林科学/山岳炭素循環/山岳災害と防減災/山岳リモートセンシング/山岳生物多様性/山岳地域の社会・経済/山岳ツーリズム/山岳の自然保護制度/山岳の歴史文化/山岳環境問題。

章ごとに設けられたコラムも、私たち山に親しむ者の興味を誘うものばかりだ。白馬岳山頂の海底起源の岩と化石/山でセレンディピティを身に着けよう/山が育む日本の名水/トレイルランニングコースの地形学/山岳域の草原-絶滅のホットスポット-/発酵食品-植物と微生物が織りなす山の幸-/日本アルプスの高山に進出するニホンジカ/日本の森を代表するブナ林/川を流れ下る炭素の行方/森林は土砂災害を防いでいるのか?/GPSで遭難を回避する/富士北麓、精進湖と本栖湖における「フジマリモ」発見/森林セラピー/ヨーロッパアルプスの山岳リゾート/富士山における自然保護/山小屋を設計した建築家/日本最高所の研究拠点-富士山測候所での研究活動-。これまで本誌などでも特集や特別企画として組まれ、登山者の関心も高いこうした話題を、生涯をかけて専門分野に取り組み続けている方々が説いてくれている。

文庫や新書などで山を読むことに慣れてしまった私たちは、127ページで4000円の価格をいささか高価に感じるかもしれない。しかし、実際にページを繰ってみて、本書が山岳への無限の興味への扉を開き、その魅力や抱える課題を教えてくれるものであることに気づく時、思いは一変する。

「山」は周囲よりも高く盛りあがった「地球表面の突起部」を指す……。冒頭の、山とは何か?という問いの答えである。たまたま、この突起部の魅力に出逢い、その先端に立つことに囚われ、さまざまな喜びや記憶を積み重ね続けてきた自分を、少しだけ誇らしく思うとともに、山岳には、まだまだ知らないことがたくさんあると教えてくれた本書に感謝したい。

 

評者=久保田賢次

1958年茨城県生まれ。1982~2018年、山と溪谷社に勤務。日本山岳文化学会常務理事、日本環境ジャーナリストの会理事、日本山岳救助機構研究員、AUTHENTIC JAPANアドバイザー、山の日アンバサダーなど 。​​​

山と溪谷2020年11月号より転載)

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