登っては下る、山登りの連鎖 『下山の哲学』

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14座サミッター、竹内洋岳さんの最新刊は「下山」について。「登頂」がゴールではなく、降りてくるからこそ、次へとつながる。

下山の哲学

著:竹内洋岳 構成:川口 穣
発行:太郎次郎社エディタス
価格:1800円+税

 


世界の8000m峰14座。その全てに登頂した登山家の一人が、竹内洋岳氏だ。

1995年のマカルーから始まり、2006年にカンチェンジュンガで8座目を制した後、14座制覇を視野に入れる。2007年にはガッシャーブルムで雪崩に遭い、大けがを負うが復活を果たし、2012年にダウラギリを登頂。日本人初の14サミッターとなる。

本書はタイトル『下山の哲学』からもわかるように、登頂までの過程ではなく、「下山」に至るまでを深く掘り下げている。著者が言うように、登山をテーマにした本で下山に光が当たるものは少ない。「登頂」は誰にとってもわかりやすい目標であり、ゴールのように見える。しかし、登頂がゴールだと思うことはないと言う。

「降りてくる」という行為は重要で尊いものです。降りてくるからこそ、つぎの登山ができる。下山はつぎの登山への準備であり、助走でもあるのです。

14座それぞれ、敗退した山行も含めて、「下山」を語っている。大規模な登山隊に参加していた初期の登山、崩れていくアイスフォールを駆け下りたアンナプルナ、死を覚悟したエベレスト、そして14座目のダウラギリ。いずれも、下山とともにすでに次の山を見据えている。登っては下る、山登りの連鎖。8000m峰それぞれの登山、そして14座制覇というテーマも、常に次の登山へと続く、大きく連なる輪の一つだ。

また、登山家や関係者インタビューから著者の姿も別の角度から見られる。登山用語の解説も豊富なので、登山知識がない人にも読んで欲しい一冊だ。

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