ユニークな道標の記録 『道しるべに会いに行く 丹沢・不老山周辺の岩田㵎泉さんの道標』【書評】

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評者=石丸哲也(山岳ライター)

道しるべに会いに行く 丹沢・不老山周辺の岩田㵎泉さんの道標

著:浅井紀子
写真:三宅岳
発行:風人社
価格:1600円+税

 

登山者に愛されるユニークな道標が西丹沢にある。製作者は静岡県小山町の出身、在住で町議会議員も務めた岩田㵎泉(たにいずみ)さん。地名など道標としての表記もあるが、焦げ茶色の地に色を使って、可憐な野草の花、随想や詩歌が記され、形や大きさも千差万別。アート作品の趣さえ漂う。本書は、その道標の記録と写真集だ。著者の浅井紀子さんは道標と岩田さんに魅せられて訪ね歩いて記録。総数約160本のなかから53本の文章を書き起こし、モノクロ写真を添えて魅力を語る。岩田さんと親しく、10年以上、道標を撮り続けてきた山岳カメラマン三宅岳さんの約70点のカラー写真、さらに道標ファンたちやSNSへの投稿なども紹介される。

道標が見られるのは丹沢山地の南西端、神奈川県山北町と静岡県小山町にまたがり、サンショウバラが人気の不老山の一帯。南はJR御殿場線駿河小山駅、西は山梨県境でもある三国山付近にわたる。設置の発端は、不正確な道標の改善を小山町に要請したが、動きが鈍く遭難者も出たことを受けて、26年前に岩田さんが第1号を立てた。その後、間違った道標を撤去して自首、小山町から行政訴訟を起こされるなどの経緯もあったが、小山町町長と和解し、行政も認めるものとなったという。

岩田さんは3年前、90歳で亡くなり、道標は朽ちたり、失われたりしつつある。また、文章、情報量が多く、山行中、つぶさに見る余裕もなかなかなく、全貌を記録した本書の意義は大きい。じっくり読みこんで、あらためて道標の数々と、岩田さんが愛したサンショウバラなどの花に会いに行きたくなった。

 

山と溪谷2020年12月号より転載)

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