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膝痛と上手に付き合い、対処していくために必要なこと。認定スポーツ医に聞く膝痛対策<前編>

登山の「専門医」に聴く怪我の治療・予防の今
基礎知識 2021年01月13日

登山者を悩ます体のトラブルで、もっとも多い膝痛。前回までは主に膝周りや脚の筋肉を上手く使い、できるだけ膝痛を軽減する歩行術を紹介した。今回からは切り口を変えて、膝痛の症状を検証しつつ、治療も含めて上手に対処していく方法を専門医に聞いてみた。

 

劇的な改善方法はない変形性膝関節症

登山や日常生活などで、我慢できないほどに膝の痛みがひどくなった場合は、整形外科を受診することになる。そこでは通常、問診を受けた後にレントゲンで膝を撮影。その結果、特に中高年やそれに近い人ほど、「変形性関節症」と診断されることが多いようだ。

その変形性膝関節症とは、どのような病気なのだろうか? 膝痛治療の第一人者である、整形外科専門医でスポーツ医の小林哲士先生の著書『治す! 山の膝痛』(山と溪谷社)には、以下のように記されている。

日本人はO脚の人が多いため、膝の内側に痛みがある人が多い傾向にあります。膝の内側に負荷が加わると、骨自体は負荷を軽減させようと、形を変えたり硬くなるなどして、その結果、膝に痛みが現われます。これが変形性膝関節症です。

また、軟骨はクッションの役割をしており、登山では膝への衝撃を頻繁に吸収しているので、負荷がかかることが避けられない箇所です。軟骨は傷がつくと治りにくい組織で、傷を起点として損傷が広がる可能性があります。軟骨自体に痛みを感じるところがないので自覚症状がなく、知らないうちに損傷が広がってしまうのです。
骨・軟骨損傷は、いずれも正確な診断と経過観察が必要です。膝が腫れて痛みがある場合は、病院を受診することをおすすめします。


変形性膝関節症とは、加齢や長期間の負担など、いわゆる使い過ぎ(オーバーユース)に起因する慢性期疾患で、膝の内部がズキズキと痛むことも多い。主に膝の骨や軟骨が、すり減ったり変形したりすることにより、痛みが現われると同時に膝が曲がりにくくなる。

損傷した骨や軟骨を回復させる、根本的な治療方法はなく、治療は症状を緩和しつつ悪化を防ぐ、保存療法が中心となる。一般的な対処方法としては、生活指導を行なって体重を減らし、膝に対する負荷を軽減することがひとつ。もうひとつは運動療法で、膝回りの筋力、特に大腿四頭筋を強化して負荷を分散し、痛みを出にくくする方法がある。ただし過度な運動は症状を悪化させる場合もあり、避けたほうが良いとされる。

正常な膝関節(左)が、長期間の負担が加わることにより異常を生じるようになる(右)

正常な膝関節(左)が、長期間の負担が加わることにより異常を生じるようになる(右)


筆者も、2009年春に膝が痛んだときには家の近くの整形外科を受診し、変形性関節症との診断を受けた。そとのきの医師も同様の説明をした上で、「残念ながら、すり減ってしまった軟骨は、もう元には戻りません。したがってこの状態は一生治らないでしょう」と付け加えた。

山登りはどうか?との私からの質問に対しては、「軽く歩くだけだったらいいでしょうが、本格的な山登りはやらないほうがいいと思いますよ」との返事だった。

しかしその後の筆者は、治らないと言われたことに、何とも言えぬ不安を覚えつつも登山は継続。ところがそれから4ヶ月ほど経過した夏には、嘘のように痛みが消失した。このときは、痛みを我慢して登山を続けたことが運動療法の効果を果たし、大腿四頭筋の筋力がアップして痛みが出なくなったのかな、くらいに考えていた。

同じようなことは、他の登山者も口にする。例えば、私と一緒に『山と溪谷』『ワンダーフォーゲル』などで仕事をすることが多い山岳ライターの小林千穂さんも、膝痛に悩んでいた時期がある。痛みが特にひどかったときは、正座することも不可能だったという。

医師の診断結果は、やはり軟骨がすり減ったことによる変形性膝関節症。完治することはなく、膝の痛みとはずっと付き合うことになると言われたそうだ。ところが3ヶ月くらい経過した頃、すーっと痛みがなくなったとのこと。その間は小林さんも登山は続けていたので、症状改善の理由は、やはり筋肉量が増加したからだろうと考えたという。

山岳ライターの小林千穂さんも、5年ほど前には深刻な膝の痛みに苦しんだそう


確かに、運動を続けることによって膝回りの筋肉が発達してくると、膝の不安定性、いわゆるグラグラ感がなくなってきて歩きやすくはなる。しかし膝の中のズキズキした耐え難い痛みが、筋肉がつくことで、これほど一気に解消するものなのだろうか? そして変形性膝関節症と診断された場合、やはり登山は控えたほうが良いのだろうか?

そのような疑問を、上で引用した『治す! 山の膝痛』の著者である小林哲士先生に伺ってみた。

小林哲士

この本の著者である小林先生は、1975年生まれで現在45歳。聖マリアンナ医科大学医学部在学中に、アメリカンフットボールの試合中に骨折し、入院。その際に診察をしてくれた先輩の医師たちに共感を覚え、卒業後は整形外科を志したという。
現在は医学博士として骨格筋の研究を続けるほか、日本整形外科学会専門医や、日本整形外科学会認定スポーツ医など、数多くの資格を取得されている、膝痛治療の専門家だ。

 

整形外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医とは

整形外科専門医とは、日本整形外科学会で認定されている資格で、「あらゆる運動器に関する科学的知識と高い社会的倫理観を備え、進歩する医学の新しい知識と技術の修得に日々邁進し、運動器に関わる疾患の病態を正しく把握し、高い診療実践能力を有する医師である」とされる。

また日本整形外科学会認定スポーツ医とは、「スポーツ医学に関する十分な知識をもち、スポーツ外傷・障害の治療、予防、競技力向上、健康増進のための運動処方など、スポーツに関連する課題を医・科学的な面から進んで解決していこうという意欲をもっている医師」とされている。

スポーツマンの健康管理をはじめ、外傷や障害の診断、治療を行ない、早くそのスポーツに復帰できるようにリハビリテーションの指導も行なうなど、とても心強い存在だ。

なお、多岐にわたるスポーツの種目は、日本整形外科スポーツ医学会のウェブサイトで分類・表示されていて、その中には「山岳」という種目もある。さらにスポーツ医ごとの得意種目も表示されており、小林先生の得意種目にも山岳が含まれている。

小林先生は現在は、富士山山麓にある静岡県駿東郡の独立行政法人国立病院機構静岡医療センターの整形外科に、医長として勤務。外来診療や手術を中心に、若手の医師への指導など、多方面のお仕事を精力的にこなす日々を送っている。

 

変形性膝関節症と登山

小林先生は、変形性膝関節症と診断された人が登山をすることについて、どのように考えているのだろうか?

「変形性膝関節症の方に登山を止めるように言うことは、私は基本しません。よく変形性膝関節症で運動をやめましたとか、登山をやめましたとか口にする方がありますが、それを聴くと『えっ、何で?』と驚いてしまいます。人間の体は、そんなに脆くはありません。変形性膝関節症であっても、重症度がどのくらいなのかを知り、うまく付き合っていけば十分に登山はできます。
実際、私の勤める外来にも、他の医師に登山を止めなさいと言われたという方がやってくることがあります。そのような方でも、ある程度痛くても歩けるようであれば、どんどん登ることをお勧めしています。
変形性膝関節症が進んでいても、診察の中でストレッチ法や筋力トレーニングの方法もお伝えすることで症状が改善し、以前と同じように登山ができるようになったという方もいらっしゃいます」


これまでは、まるで不治の病のようにも感じていた変形性膝関節症。しかし決して悲観するべき病気ではないという。

「30歳を過ぎたら、何かしら体に不具合はでてくるでしょう。そのような状態でも登山を長く続けるには、痛みがでたらとにかくその原因を確かめること。そして自分自身の体を良く知ること。その上で、必要に応じて医師と相談しつつ、痛みや自分の体と上手に付き合うための方法を考えていくのが、長続きさせるための秘訣なのです」


変形性膝関節症のまま登山を続けていたら、いつか取り返しのつかない程の痛みに襲われるのではないか・・・そのような不安も抱いていた筆者にとって、登り続けることは十分可能というお言葉は、とても心強いものだ。

次回は変形性膝関節症の膝の中で起きていることや、注意すべきポイントについての、小林先生の解説を紹介する。

ボディケア ケガ・病気
教えてくれた人

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟海外委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。2009年から登山ガイドの仕事を始め、2011年から『山と溪谷』『ワンダーフォーゲル』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。

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