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「変形性膝関節症」の痛みの理由を知って、膝痛とうまく付き合おう。認定スポーツ医に聞く膝痛対策<後編>

登山の「専門医」に聴く怪我の治療・予防の今
基礎知識 2021年01月26日

膝の酷使(オーバーユース)によって「変形性膝関節症」となり、膝痛に苦しむ登山者は少なくない。病院で診断すると「一生治らない」と言われることもあるが、悲観してはいけない。スポーツ医の小林哲士氏は、メカニズムを知ることで、膝痛とうまく付き合っていくことができるという。

 

軟骨がすり減った膝に起きること

変形性膝関節症との診断を受けても、十分に登山はできると言う小林先生。ただ、痛みの強い変形性膝関節症では苦痛は大きい。筆者を含めた、変形性膝関節症との診断を受けた登山者の多くは、3~4ヶ月後には痛みはおさまる傾向にあるのだが、また強く痛みだすのではないか? との不安はつきまとう。

そこで筆者の症状を小林先生にお伝えし、膝の中ではどのようなことが起きていたのか、そのメカニズムについて教えていただいた。

★前回記事:膝痛と上手に付き合い、対処していくために必要なこと。認定スポーツ医に聞く膝痛対策

まず、筆者の膝が最初に痛み始めたのは、2009年の2月だった。ちょうどその頃に引越をして、荷物の片付けをしている際に痛み出したのだ。ただし、その頃は我慢できる程度だった。それが4月に入ると、軽い痛みはズキズキした激しいものに変わり、同時に膝がパンパンに腫れ上がるようになった。いわゆる、膝に水(関節液)がたまった状態だった。

そうなったらもう放置はしておけず、整形外科を受診したところ、変形性膝関節症との診断を受けた。そして腫れた膝の水を抜き、ヒアルロン酸を入れるという治療を行なった。ただし膝の水はまたすぐに溜まった。水を抜く治療は、5~6回は繰り返した。やがて水が溜まることはなくなったが、まだまだ痛みは続いた。

それが、初めて水を抜いてから4ヶ月が経過した頃、北アルプスの稜線を歩いてほとんど痛みが出ないことに気づいた。その後数年間、ほとんど痛みのない状態が続いたが、これはいったいどういう状態だったのだろうか?

「変形性膝関節症という診断の元になったレントゲン写真を見ていないので、詳細は不明です。しかしお話を聞く限りでは、正に典型的な、変形性膝関節症の症状の推移ですね。体重がかかった状態で軟骨がすり減ってくると、圧力の受け皿となる上下の骨が痛みだすことがほとんどです。けれども、人間の体というのはうまくできていて、何とかしようと頑張るのです。
圧力を逃がす方法は2つあります。1つは面積を広くすること。そしてもう一つは、受け皿となる骨が硬くなること。面積が広くなって、土台の役割を果たす骨が硬くなれば、その関節は強くなってきます。この状態を繰り返すのが、変形性膝関節症なのです」

軟骨がすり減って上下の骨に圧力がかかるようになると(左)、次第に面積が広く、また硬くなって圧力を支えようとする(右)

「圧力がかかるようになると、まずは骨棘というものができて、受け皿になる部分の骨の面積が広がります。次に土台の役割を果たす骨が硬くなって骨硬化像というのが生じ、レントゲンで撮影すると白く写るようになります。この状態になれば、軟骨がすり減っても耐えられるようになるんです。そうすると痛みも次第に消えていくでしょう。その状態が、3ヶ月くらいで作られていくのです」


変形性膝関節症の場合、今までは軟骨がすり減ると、あとは筋肉を鍛えて耐えるしかないと聞かされていたが、そうではないという。3ヶ月ほどで、体のほうが対応していくというのだ。確かに、筆者の膝の痛みがなくなったときの感覚も、何か膝の構造が変わったのではないか?という印象もあったのだが、小林先生の、この説明を受けて納得した。

しかし、よく言われる変形性膝関節症は治らない、と言われるのはどういうことなのか?

「要するに、面積が広くなって骨が硬くなった、形が変わったものは治らないということなのです。しかし、待てば痛みはとれます。そして痛みがなくなれば、登山を行なうことも十分に可能です」


とは言え、腫れるほど症状が出ているときの膝の痛さには、耐え難いものがある。そのような痛みはなぜ生じるのか? そして、登山をすることで、その痛みがぶり返すことはないのだろうか?

「変形性膝関節症で痛む膝の中では、実は炎症が起きています。水が溜まる状態も、炎症によって引き起こされます」


傷口や捻挫をした部位などが、赤く腫れ上がって痛む炎症。非常に不快であり、できる限り回避したい症状だ。変形性膝関節症では、膝関節の中でそれが起きているというのだ。

 

炎症とはどういうものか?

「人の体はケガをしたりすると、それを治そうとする物質が出てきます。その物質は、治すことに働くと同時に、周辺組織に痛み、腫れ、発赤、発熱という4つの症状も引き起こします。これが炎症です。この段階で出てくる物質は、ケガを治すための細胞を持ってきてくれる。その結果、ケガが治っていくので、炎症というのは実は体にとっては必要なことなのです」

炎症によって体に起きること

「変形性膝関節症の場合は、受け皿となる骨の面積を広くする、そして土台となる骨を硬くするためには炎症が必要なのです。炎症があるからこそ、治すための物質が出て、骨の細胞が圧力に耐えられるようなる。その結果、最終的には痛みが消えていくのですよ」


これまでの経験では、嫌なイメージしかない炎症。しかしその炎症こそが、ケガなどの不具合を治すための体の大切な反応なのだという。

とは言え、腫れがあって病院を受診すると湿布薬が処方される。また筆者が変形性膝関節症との診断を受けたときは、炎症を抑える飲み薬も処方された。これらの薬を使ったりすることで、炎症を抑えるというのは、回復を遅らせることになってしまうのではないだろうか?

「損傷初期の炎症は、治るためには必要なもので、多少の痛みは仕方ないと考えてください。炎症を完全に抑えてしまうと、逆に治りが遅くなることも知られています。とはいえ、腫れや痛みが強いと苦痛は大きいでしょう。その場合は、炎症を抑える薬は使っていただいても構いません。
湿布剤のほか、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンやロキソプロフェンナトリウムが一般的で、どちらも薬局で入手できます。これらの薬を使用しても体の治りを遅らせることは無いので安心して使用していただいて構いません。
ただしどの薬も、アレルギー症状を起こすことがありますので注意が必要です。使用に際し不安がある方は、医師に相談するようにしてください。」

 

膝の痛みが強いときに注意すべきこと

痛みが強くて辛い場合でも、必要に応じて鎮痛薬などを使って、うまく炎症と付き合っていくことの大切さを強調する小林先生。この、膝の痛みが強い期間に、他に注意が必要なことはあるだろうか?

「炎症が起きると同時に、組織を治そうとする物質が出ることをお話しました。ところが炎症が長引くと、次は治すことを阻害する物質も出てきます。しかし、その阻害する物質をブロックする手段はありません。
したがって、炎症を長引かせることは避けるべきで、痛みはじめから目安として2週間くらいまでは無理をせずに、なるべく早く治るようにするための環境を整えてあげることが大切になってきます。

ただ、変形性膝関節症の膝の痛みに悩む多くの方は、このように典型的な症状を経ることで、3ヶ月を過ぎるくらいで痛みはとれてきます。ですが、そうでない方もいます。もっと深刻な、骨などの病気を患っている可能性があります。そこで痛みが長引くときは、原因を追求しておくことが大切です。

我々整形外科専門医は、そのような原因を見落とすことのないようにと思って仕事をしています。よって、膝が痛いまま何とかごまかし、不安を抱きつつ登山をすることは避けて、ぜひ一度整形外科を受診してほしいと思います」


変形性膝関節症の不安を取り除いていただくと同時に、しっかりと治療することの大切さと、原因追求の大切さを知った小林先生のお話だった。

*   *   *

次回は、変形性膝関節症以外で登山者に多い関節外の膝の痛みと、その予防法についての小林先生の解説を紹介する。

教えてくれた人

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟海外委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。2009年から登山ガイドの仕事を始め、2011年から『山と溪谷』『ワンダーフォーゲル』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。

 ⇒ホームページ

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