子どもたちの声がこだまする豊かな森を次世代へ。「シオジ森の学校」|日本山岳遺産の横顔 vol.02

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。第2回は山梨県の小金沢シオジの森で環境教育に取り組むシオジ森の学校を紹介する。

写真=シオジ森の学校、取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年2月号掲載記事

写真=シオジ森の学校
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年2月号掲載記事

 

小金沢シオジの森

シオジ森の学校 〈 2010年度認定 〉

Area:小金沢シオジの森
Recent activity:シンポジウムの開催(2021年4月)
Group profile:
2006年に設立。「森で遊び、森に学び、森を育てよう」の志に賛同した地元有志がスタッフ。小金沢シオジの森などで体験プログラムを実施し、環境教育に取り組む。2012年には日本山岳遺産基金を活用し、フィールドマップを作成。
http://shioji.sakuraweb.com/ss/

富士山の眺望が美しい山梨百名山・雁ヶ腹摺山(山梨県大月市)北側の沢沿いに天然林のシオジ群生地がある。1998年、地域性を生かした森林整備を行なう県の「森林文化の森」に選ばれた際に、周辺一帯は「小金沢シオジの森」と名づけられた。また、シオジなど湿潤な環境を必要とする樹木を育む豊富な水資源に恵まれており、林野庁の「水源の森百選」にも選ばれている。

小金沢シオジの森には、時折、子どもたちの楽しそうな声がこだまする。この森をフィールドに環境教育に取り組んでいる「シオジ森の学校」の“生徒”たちだ。

シオジ森の学校

シオジは調査が行なわれた石小屋沢沿いだけで200本以上自生。大きい木で高さ30m、目通り直径4mになる
シオジは調査が行なわれた石小屋沢沿いだけで200本以上
自生。大きい木で高さ30m、目通り直径4mになる


自然を愛する地域住民ら約20人がスタッフを務めるシオジ森の学校は、2006年から体験プログラムをスタート。虫探しや探鳥会、間伐体験、水質調査など毎年趣向を凝らしたテーマを企画し、地元の小学生らの人気を集めている。校長を務める下澤直幸さんはこう説明する。

「スタッフには植物や動物、カメラ、キャンプなどそれぞれの分野に強い者がいるので、各人の強みを生かしながら講座を考えています。子どもたちが新たな疑問を抱いた場合、そのテーマを次回の企画にすることもありますよ。プログラムを通して、地元の自然のすばらしさに誇りを持ってほしいという願いがあります」

ところが約10年前に辺りのササが一斉に開花し枯れてから、この森に異変が起き始めた。ササを食べていたシカやカモシカ、サルがシオジを含めた樹木の皮や新芽、若葉を食べるようになった。食害により倒れたり、根元が見えたりしているシオジも出てきているという。

虫探しのプログラムに参加した小学生

シオジの森にはオコジョも住んでいる


被害を受け、スタッフでカメラやネットを設置して食害調査に乗り出したが、対策については検討中。スタッフには保全を訴える意見と自然の摂理の優先を求める声の両方があるからだ。

そこで、シオジ森の学校は方向性を見出すべく、有識者らと意見交換するシンポジウムの開催を決めた。2021年4月18日、大月市民会館に動・植物の研修者や行政職員らをパネリストとして招く。下澤さんは開催への思いを口にする。

「食害が深刻化する森をこれからどうしていけばいいのか、専門家の意見を聞きながらみんなで考えていきたいと思います。関心のある方はぜひ参加してください」

★日本山岳遺産認定地 詳細:小金沢シオジの森[ 山梨県 ]シオジ森の学校(2010年)

日本山岳遺産候補地および助成団体を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体。
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体。
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体。

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費。
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費。
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費。

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年4月号の特集は「全国 花と新緑の名低山」。木々や草花が芽吹き、山肌が華やかに彩られる季節となりました。うららかな春の日差しを浴びながら、花と新緑の低山をのんびり歩いてみませんか? 全国のガイド著者が厳選した春の名低山を紹介します。第2特集は、雪山登山、雪山ハイキング、山スキーの厳選コースを集めた「残雪の山」です。

Amazonで見る

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

編集部おすすめ記事