「山や山小屋を大切に」という意識を共有して。「飯豊朝日を愛する会」|日本山岳遺産の横顔 vol.03
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。第3回は山形、新潟、福島の3県に位置する飯豊・朝日連峰で登山道整備や遭難対策などに取り組むNPO法人飯豊朝日を愛する会を紹介する。
『山と溪谷』2021年3月号掲載記事
写真=飯豊朝日を愛する会
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年3月号掲載記事
飯豊朝日を愛する会 〈 2018年度認定 〉
Area:飯豊・朝日連峰Recent activity:オリジナルTシャツの作成
Group profile:
ニュージーランドの国立公園を視察し、先進的な維持管理に刺激を受けた官民の関係者で1992年に発足。2007年にNPO法人化し、現在は正会員と賛助会員の約170人で活動。2019年に日本山岳遺産基金を活用し、植生復元に取り組んだ。
https://www.ic-net.or.jp/home/iide/
「登山者自らが保全活動に関わることで、山を愛おしむ気持ちが広まっていくと思うんです」
NPO法人「飯豊朝日を愛する会」の井上邦彦副理事長は、活動理念をこのように語る。
同会の活動範囲は、飯豊・朝日連峰。山形、新潟、福島3県にまたがる国立公園「磐梯朝日国立公園」内に位置する有数の豪雪地帯だ。高山帯の厳しい環境下で登山道整備や植生の復元、避難小屋の維持管理などを行なっている。作業後の親睦会も多く、メンバー同士の交流も盛んだ。
今、その活動の輪はますます広がりを見せている。同会は地元の小国山岳会約30人が正会員となっているほか、賛助会員制度がある。長年の支援者に加えて、新規入会も多いという。賛助会員は140人を突破し、ますます増加中だ。
作業方法を確認する講習会
一役買っているのが、賛助会員に贈られるオリジナルTシャツ。左胸には飯豊固有の高山植物イイデリンドウ、背中には御西小屋や大日岳のイラストがあしらわれている。会員がTシャツを着て各地の山を登ったり、写真をフェイスブックなどのSNSで紹介したりすることで、活動が認知された。井上さんは手応えを感じている。
「Tシャツをきっかけに山で会話が始まり活動内容が話題になることで、『山や山小屋を大切に』という意識が共有される。同時に人とのつながりも生まれています」
Tシャツが評判になっている
一方で、課題も多い。一つは、登山者の登り方の変化。ピッケル使用やルートファインディングなど必要な技術を身につけないまま訪れる人が目立つという。「遺体を担ぐのはもう嫌だ」との切実な思いで、同会は雪山などの登山技術講習会を開いている。
テント泊の問題もある。飯豊・朝日連峰ではテント泊が原則禁止とされているが、飯豊の山小屋周辺のみで行なわれてきた経緯がある。しかし近年、ソロテント泊の急増により幕営エリアが広がり、植生への影響が懸念されている。
そこで同会は今年、登山者や行政関係者らから意見を聞くフォーラムを開催する。テント泊のほか、山小屋のし尿処理などの問題をテーマに議論する予定だ。
「宝である山をずっと歩き続けたい」との思いが企画の背景にある。
★日本山岳遺産認定地 詳細:飯豊山 [ 山形県・新潟県・福島県 ]特定非営利活動法人 飯豊朝日を愛する会(2018年)
日本山岳遺産候補地および助成団体を募集中! みなさまの活動を支援します
日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体。
- 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体。
- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体。
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費。
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費。
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費。
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!