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九州自然歩道2,100kmをスルーハイク! 第2回「九州自然歩道を歩く計画、装備、準備」

齋藤正史 九州自然歩道 2100kmを歩く
ガイド・記録 2021年02月20日

ロングトレイルハイク装備

2020年9月、九州自然歩道2,100㎞の旅に出た、ロングトレイルハイカーの齋藤正史さん。2か月半にもわたるスルーハイクの旅は、どうやって計画し、何を準備するのか。ロングトレイルハイクの経験値が高い、齋藤さんならではの計画、装備、準備を紹介する。

 

齋藤正史(さいとうまさふみ)

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年生まれ。山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。

アメリカにあるロングトレイル、アパラチアン・トレイル(2005年)、パシフィック・クレスト・トレイル(2012年)、コンチネンタル・ディバイド・トレイル(2013年)を踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成。日本国内でロングトレイル文化の普及に務め、地元山形ではロングトレイル整備の活動も行う。

 

2,100㎞ものスルーハイク。ロングトレイルを歩く計画、準備とは?

ロングトレイルを歩く時、単年で全ルートを一気に歩き通すスルーハイクで歩くのか、区間を区切り、複数回に分けてちょっとずつ全区間を歩くセクションハイクで歩くのか、によっても、準備は大きく変わってくる。僕は、どんなトレイルでも、スルーハイクで歩くことにこだわっているので、今回の九州自然歩道2,100kmの行程も、スルーハイクでの計画を立てることにした。

次に、①季節の選択、②ガイドブックや地図の確認、③計画書作成、④装備、の順で準備を進めていく。

歩く季節が決まれば、装備が決まる。今回は、新型コロナウイルス感染症が冬場に拡大する可能性が予測できたので、既存のインフルエンザの流行をも考慮し、12月中旬には歩き終えたい。2,100kmの道のりでは道路を歩くケースが多いこと、歩かない日(休養する日)を含めて、2ヶ月半~3ヶ月はかかりそうだ。逆算すると、9月にはスタートしたい、と考えた。

が決まって、②の段階で早くもつまずいた。地図が無いのである。

九州自然歩道のガイドブック(上・中・下/西日本新聞社 刊)

九州自然歩道のガイドブック(上・中・下/西日本新聞社 刊)を入手したが…


ガイドブックは発見したのだが、1975年(昭和50年)に西日本新聞社から出版された九州自然歩道 上・中・下の3冊のみ。困った僕は、「九州自然フォーラム」に連絡を入れた。管理団体では無いらしく、僕が欲しかった情報は得られなかった。しかし、「九州自然歩道ポータル」という、オンライン上でルートを見ることができるサイトの存在を教えてもらった。

「九州自然歩道ポータル」にアクセスしてみたが、色々と不都合があった。オンラインでアクセスしなくては、位置情報も分からない。常に電波が入る場所にいるとは考えにくいし、印刷するにしても縮尺や印刷枚数など考えると、スルーハイクをする僕には現実的ではなかった。しかもGPSのデータ提供はされていなかった。

結局、九州自然歩道ポータルのオンライン地図を見ながら地図をなぞり、GPS機器で使えるデータを一から作ることにしたのだ。

とにかく地図が無いと歩けない。2,100kmのデータを作るのに、朝から深夜まで4日間を費やしたのだった。また、データを作る中で、疑問がふつふつと湧き出していった。

 

計画書を作る

作成したGPSデータを元に計画書を作った。計画書は、九州自然歩道のルート状況を考慮しながら、一日平均30kmほどを歩く前提で予定を組んだ。食料を補給する町や、その日テントを張れそうな場所まで、詳細に計画書を作りこんでいく。

九州自然歩道のように長距離であれば、なおさら必要になってくる作業だ。危険を回避して歩くためにも、そのトレイルの状況を知ったうえで計画を立てることが、一番重要な作業になる。

忘れ物対策として、一緒に装備表も作る。装備表を見ながらパッキングし、出発の前々日に最終確認を行うのが僕のスタイルだ。余裕を持って準備すれば、いろいろなことに気付き、対処する時間も作ることができるのだ。

実際に使用した予定表(熊本エリア分)

実際に使用した予定表(熊本エリア分)

 

ロングトレイルを歩く装備について

歩くルートがどんな場所かは、地図を辿りながらGPSデータを作成したので概ね把握した。次に取り掛かるのが装備選びになる。僕の場合、どこのトレイルを歩くかで、使用する道具は大きく変わる。例えば、アメリカを歩く場合、バーナーはガソリンストーブを愛用している。しかし、日本では、消防法上、ガソリンの購入には専用携行缶が必要になる。補給しながら一気に歩き通すスルーハイクでは荷物が増えてしまい、現実的ではない。

昨年歩いたみちのく潮風トレイルでは、ホームセンターやコンビニでも手に入りやすいCB缶が使えるガスストーブ(SOTOのフュージョン)を使用した。トレイルを歩く道具選びは、バーナーひとつ取ってみても、歩く国や環境によって大きく変わるのだ。

さて、今回はどんなイメージで道具を揃えればいいか条件を考えてみよう。

  • 季節:9月~12月 9月の平均気温は24℃、12月は10℃以下に下がり、気温差が大きい。
  • 道:自然の道もあるが、みちのく潮風トレイルと同じようにアスファルトの道も多い。
  • 食料補給の間隔:約4~5日に一度は食料品店がありそうな状況。水は山中での補充が必要。
  • テントを張る環境:キャンプ場はありそうだが、地面は様々な状況が考えられる。

こんな条件から僕が導き出した道具を具体的に紹介していこう。


●ウエア類

ウエア類

九州といえども、9月から12月までは気温差が激しい。重ね着で対応できるように、レギュラーフィットのウエアで速乾性のあるものを中心に選んだ。ハイカーとしての僕のこだわりは、シャツスタイル。トレイルを歩く時も、街に下りた時も、着回ししやすいシャツは必需品だ。

洗濯は4~5日に一度、町に着いた時に行うので、着替え1セットと就寝用のウエアを持つ。アメリカのトレイルを歩くときは、毎回乾燥機でガンガン乾かしているが、ウエア類の耐久性は申し分ない。

ハイカーの中には、着替えを持たない人もいるが、僕の場合、しっかり着替えを持つ。急な天候の変化なども考慮して防寒の準備も加えている。数か月歩いているうちに季節が変わる、長距離のスルーハイクにおいて、ウエア選びは重要である。


●小物類

小物類

僕がトレイルを歩く上で、固定している数少ないアイテムがソックスとトレッキングポールだ(ともにFoxfire製)。ソックス選びはブーツと同じくらい重要だ。内側のパイルがポリプロピレンでできたソックスは、2013年から愛用している。長時間履き続けていても蒸れによる足の不快感がなく、マメもできにくく、耐久性も実証済みだ。

ほかに、新型コロナウイルス対策として、除菌アイテムや手袋なども準備した。


●バーナー、コッヘルなどの食事まわり

バーナー、コッヘルなどの食事まわり

前述した通り、燃料入手の容易さを考えて、バーナーは、CB缶の使用できるものを選んだ(SOTOのフュージョン)。僕は、食事をしっかり調理するタイプなので、大きめサイズで保温調理もできるクッカー(SOTOナビゲータークックシステム・小)を用意した。

また、山岳エリアでの水質を考えて、軽量で使いやすい浄水器(KatadinのBEFREE)を加えた。


●撮影機材などの電子機器

撮影機材などの電子機器

撮影する、編集することも、ロングトレイルを歩くうえで欠かせない。撮影機材やバッテリー、関連する電子機器も少なくない。

写真はSONYのミラーレスとコンデジ、動画はDJIのOZMO POCKET、さらに知人に安く譲ってもらったドローン(DJIのMAVIC-MINI)が加わった。三脚、ジンバルなどもあり、かなりの荷物になった。

日本を歩くので、送り返すことはいつでもできる。多めに持っていき、使わないモノは返却することを前提にチョイスした。


●テント、シュラフなど居住まわり

テント、シュラフなど居住まわり

キャンプ場の事情、季節などを考えて、風に強く、地面の状況に左右されない自立式のテントとして、HILLEBERGのルーガン2.0 を持っていくことにした。長期間テントで過ごす僕にとっては、軽さもさることながら、1.5~2人用のサイズで、ゆったりと泊まれることも大切だ。広さに余裕があれば、バックパックごとテントに入れられるので動物から狙われるのを回避できる。

また、寝袋・マット・ピローは共にNEMOのアイテムを持った。9月から12月までの日本の気候、長期間にわたってテント泊を繰り返すことを考慮すると、寝袋は化繊のものが良い。これまでの経験から、NEMOの寝袋はある程度小さく収納できるのを知っていた。さらに、温度域の調整、防虫性能を考え、Foxfireの「スコーロン」のシーツを加えた。暑すぎる夜は、シーツに入り、寝袋を布団代わりにかけて使う。マットは、昨年から使用していて地面の状況を選ばない蛇腹式のウレタンマット(NEMOのスイッチバック)を引き続き利用した。


●バックパック

バックパック

長距離、長期間のロングトレイルでは、ここまで紹介したような多くの荷物を背負うことになる。通常ならば80Lクラスのバックパックにするところだが、今回の旅では、MYSTERY RANCHのテラフレーム65を選んだ。容量は65Lなのだが、いざという時は、フレームとパック本体の間に、荷物を挟むことができる構造なのだ。

計画にも書いた通り、3~7日分の食料を背負う僕にとって、初日と7日目では、重さも容量も大きく変わる。オーバーロードできる構造のバックパックは、理に適っている。また、MYSTERY RANCHのマウンテンフレームは、山岳用モデルでありながら、40㎏もの荷物を背負え、長時間歩けるよう設計されている。その耐久性と背負い心地の良さは、今まで背負ってきたバックパックの中でも飛び抜けている。

バックパックと併用して使用するのがサコッシュ。トレイルで、地図やスマホなど、頻繁に使用するアイテムを取り出しやすいように収納するには必須になった。

また、傘も持って行った。強風でも耐えられる構造の傘(EuroSCHIRMのスイングバック)は、ちょっとした雨で雨具を着ることもなく、日差しの強い日は日陰を作ることができる。


●シューズ

シューズ

最後まで決まらなかったのがシューズだった。九州自然歩道の道路状況、2か月半、2,100kmの長丁場であることなどから、耐久性も考えなくてはならない。

かなり悩んだ末、舗装路やダートロードがかなり多いという予測から、LOWAのイノックス・プロ・ミッドGTXにした。LOWAのブーツの耐久性に関しては、前年に歩いたみちのく潮風トレイルで確認していたことが、一番の決め手になった。

コロナ禍でなければ、本来、各メーカーに伺い、意見交換をし、フィッティングなどをさせていただいて、装備を選んでいくのだが、今回は実物を触れる機会すらないまま装備を手配し、実際に歩くことにしたのだった。

九州自然歩道2,100㎞踏破に商品協力をいただいた企業

 

*****

※第3回はいよいよ九州自然歩道2,100㎞の旅。旅の出発点、福岡県のレポートです。

 

教えてくれた人

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成た。日本国内でロングトレイル文化の普及に務め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行っている。

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