私の登山・クライミング活動 ~コロナの一年を振り返って~  好日山荘おとな女子登山部・つじまいさん

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好日山荘の女性スタッフ有志グループ「おとな女子登山部」のリレー連載。今回は、好日山荘なんば店勤務のつじまいさんが、コロナ禍でどんな登山・クライミングを行ってきたか、振り返ってくれました。コロナでありながらできる登山で、ご自身の世界を広げていることがわかります。

 

こんにちは。おとな女子登山部のつじまいです。新型コロナウィルスによって私たちの生活が脅かされてからちょうど1年が過ぎようとしています。

コロナ禍のキャンプ場


私は好日山荘に入社以降、休日はほとんど山や岩場、クライミングジムに行く生活を送ってきました。

その生活が、コロナによってどういう風に変わったか、また変わらなかったのか。コロナ禍だからこそ、自分自身と山の関係性を真剣に考えてみようと思いました。

「YAMAYA」を読まれている方々は心から山が好きな方ばかりだと思いますが、みなさんはこの1年間、どのような登山をされましたか? ご自身のことを振り返りながら、読んでいただければ幸いです。

 

春の緊急事態宣言下では…

2020年3月いっぱいくらいは、普通に山に行き、クライミングを楽しんでいました。大阪では4月7日に緊急事態宣言が発令され、5月21日に解除されるまで、個人単位で不要不急の外出を自粛する要請が出されました。

山にいることがもはや日常になっている私にとっては、「登山=不要不急」という流れに疑問を持ちましたが、立場的にも、世間の目を気にしていたのが本音です。

会社からは、アウトドア活動については、社員が自分自身でよく考えて行動するように、という主旨の通達がありました。

またその頃、月の半分くらいは神戸本社での勤務となり、たまに仕事帰りに六甲山でナイトハイキングするのが楽しみでした。

夜景が美しい六甲山


クライミングジムは1ヶ月半ほど完全休業。トレーニング不足を補うために自宅にホームウォールを設置しました。気を紛らわしてみても山への思いは募るばかり。

憧れのホームウォール

 

コロナ禍のクライミング

緊急事態宣言が解除されると、徐々に登山やクライミングの自粛も緩和されるような風潮となりましたが、やはり人の多いエリアなどは避けました。

夏はおとな女子登山部メンバーと沢登りを楽しむ


まわりの仲間の間でも、人に会うことがほとんど無い、沢登りが流行っていました。夏に剣岳へ登山した時には、さすがに人が多いな、と感じましたが、テント泊でバリエーションルートだったので、他人と接触することはほぼありませんでした。

夏山シーズンに行ったのは剱岳だけでした

 

開拓クライミング

国際ルートセッターで、岩場開拓のプロである東 秀磯さんと、人混みを避けてほとんど忘れ去られた岩場をめぐる遊びをしていました。東さんが昔の『岩と雪』の記事を拾ってきて、次はこの岩場へ行こう、と連絡をくれるのが楽しみでした。

武庫川オベリスク、小和田山、笠形山・・・どれもヤブの中を分け入ってたどり着くような岩場。

今ではほとんど記録のない武庫川オベリスク


ネットから記録を拾い、GPSログを辿って行くような登山やクライミングしか知らない私にとって、そんな秘境のクライミングは冒険のように思えました。

その流れで、一緒に岩場の開拓をしてみよう、とお誘いをいただきました。

ひとつは、東さんが既に開拓された非公開の岩場で、空いているスペースがあるからここにルートをつくろう、ということでした。ぶら下がりながらのボルト打ちを初めて体験しました。

初めてのボルト打ち。一生忘れられない思い出


秋には海岸にある岩峰を登りにいきました。これは既存のルートがあって初登は叶わなかったのですが、素晴らしい一日でした。

東さんからはクライマーにとって大切なことをたくさん教えていただきました。

「初登」というのは、世界で自分ひとりだけがなせること。そして、そのルートは自分が死んだあとも生き続け、たくさんの人が登る。だから、他の人がつくったどんなに難しいルートより自分のルートを作って登りたい、とおっしゃっていたのが印象的でした。

金床の鼻で辺境クライミング


そして今まで先人が作った既存のルートを登って、グレードが辛いとか甘いとか、面白いとかつまらないとか自由気ままに意見をしていたのが恥ずかしくなりました。

コロナ禍だからこそ、こんな希少な経験ができたのだと思います。

 

冬、再び緊急事態宣言に

冬の緊急事態宣言下では、春とは様子が違っていましたが、春と同様に登山の自粛をお願いした自治体もありました。

私自身はアイスクライミングをメインに山に入っていましたが、賑わう山小屋を横目に、雪中キャンプ泊でトライしていました。

毎週のようにアイスクライミングに行きました


冬の間、アイスクライミング目的で濁河温泉へ一度だけ宿泊まりで行きました。平日だったこともありますが旅館の宿泊者は私たちだけ。夏山シーズンには山小屋がピンチだと取り沙汰されましたが、登山口や山奥の旅館・民宿も大きな痛手となっていることを知りました。

宿のおじさんは、「今シーズンまだまだ登れるから、またおいで」と見送ってくれました。あの愛情でいっぱいの小さな旅館に、これからも泊まりにいけますように。

大好きになった濁河温泉・湯の谷荘

 

山に行くうえで気をつけたこと

私がコロナ禍で気をつけたのは、「人が少ない山」に行くこと、だけではありませんでした。もちろん、日常生活では外食を控えたり、公共の場所で長居したりしないことはもちろん、移動には必ずマイカーを使い、一緒に山に行くパートナーは、自分の行動に責任を持てる人に絞っていました。

今でも、山に行くときには、第一に地元の方の感情を考えなければいけないと思っています。

自分自身の体調管理は大前提ですが、地元・自治体がウェルカムなら胸を張って登山していいと思うんです。

秋に訪れた九州のキャンプ場では、関西からの私たちを歓迎してくれました


また、クライミングを行ううえでも配慮したことがあります。

それは、医療体制に負担をかけないこと、つまりは頑張りすぎないことです。普段より登るグレードを少し落としたり、自信が無ければトップロープにしたり、常に「安全」を意識して行動していました。

おとな女子登山部メンバーとの小川山クライミング

 

コロナで変わった私の考え。変わらない山への思い

今まで以上に山について考え、どうして私は山に行きたいのか? と考えるようになりました。

周囲には、コロナがきっかけで山から離れた人もいました。でも私は今までと変わらず真正面から山と向き合いたいと思いました。

山に入ると、マスクをとって美味しい空気を思う存分吸えます。何より、山に入ると、日常の嫌なことがすっぽりと消えてしまいますよね。コロナがあって、そんな山の素晴らしさをより一層感じるようになりました。

自然の中にいることで心身の健康を保つことができます


また、普段勤務している好日山荘なんば店では、繁華街の中にあることも影響して、お客様がかなり減りました。それでも来てくれるお客様に対しては、ソーシャルディスタンスは保ちながらも、今までよりも、お一人お一人に接する時間が増え、たくさんの山の話ができるようになりました。

登山用品を販売するのが仕事ですが、山の素晴らしさを伝えることも同じくらい大切なことなんだと改めて気付かされました。

混雑を避けた登山をしよう


これからもしばらくコロナがつきまとうかもしれませんが、登山者がうまく分散すれば、もっと山にも行けるようになるはず。私にできるのは、混雑の無い登山を目指して「あまり知られてはいないけど、いい山」をお客さまと共有することです。

コロナと向き合って、これからも私は山に登り続けます。

 

プロフィール

つじまい(好日山荘おとな女子登山部)

奈良県生まれ。26歳の頃に屋久島を訪れ、登山に目覚める。2018年夏に、焼岳~親不知まで13日間かけテント泊単独縦走を行う。好きな山域は、屋久島、北アルプス、奈良大峰。ジャンル問わずクライミング活動に休日を費やす。2021年現在、好日山荘なんば店勤務。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・奈良山岳自然ガイド協会所属。
⇒おとな女子登山部メンバーはこちら

好日山荘 なんば店

日帰りハイキングから長期縦走、クライミング、雪山登山、沢登りまでさまざまな登山スタイルに対応する品揃えを誇る登山用品店。同じビルにはクライミングジム「グラビティリサーチNAMBA」が併設されており、ロープワーク講習や岩稜帯の歩き方など、さらなるステップアップを目指す登山者に向けてさまざまな講習会を開催中。

所在地/大阪府大阪市中央区難波千日前12-35 スイングヨシモトビル3F
TEL/ 06-6645-0630
営業時間/ 11:00~21:00
アクセス/ 大阪市営地下鉄御堂筋線・千日前線・四ツ橋線難波駅より徒歩約5分、近鉄・阪神大阪難波駅より徒歩約6分、南海難波駅より徒歩約8分、JR難波駅より徒歩約10分

好日山荘おとな女子登山部 リレー連載

登山用品専門店の好日山荘で、2013年より女性スタッフ有志により立ち上がった「おとな女子登山部」。 「自分たちが山を真剣に楽しみ、次の山に挑戦すること」「お客様にもっと山を好きになってもらうこと」を目標に、ブログでの発信や登山イベントなどを行っている。 その活動の様子と女子目線での登山感を伝えていく。

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