兵庫県で東京ドーム9個分の山林を購入し、理想のキャンプ場づくりに燃える20代夫妻

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ウィズコロナを背景に、キャンプブームが加速するなか、注目されている山林購入。人気Youtuberがプライベートキャンプ場のために山を購入したことも話題になりました。
理想のキャンプ場づくりのために、兵庫県で山林を購入した上山夫妻のケースを、『山を買う』より抜粋して紹介します。

 

東京ドーム9個分の山林で、キャンプ場オープン!

場所=兵庫県 面積=13万坪 価格=800万円

大阪在住の上山恭平さんと知沙子さん夫妻は、2018年に兵庫県に13万坪の山林を購入した。その広さは、およそ東京ドームに換算して9個分にも及ぶ。

「キャンプ歴は3年ほどなんですが、キャンプにハマったこともあって、自分たちのキャンプ場をつくりたいと思って山を探していました」と、明るく話す知沙子さん。 

夫婦ともに特にキャンプ場で働いた経験があるとか、林業関係の仕事をしていたわけではないという。夫の恭平さんは普通の会社員のため、週末の休みを利用して山林探しが始まった。

「最初はインターネットで、山の専門不動産屋である山林バンクにメールを送っていたのですが、なかなか返事が来なかったので、ほかをあたることにしました。岡山県に、『自然と暮らす』というサイト名で、田舎暮らしを応援する不動産会社を見つけて相談しました。そこで紹介された物件をいくつも見て、ここなら自分たちのキャンプ場ができそうだと思う場所に出会いました。その山林は、約1万1000坪で250万円ほど。最寄りのインターチェンジから30分程度ですし、キャンプ場として使いやすい平坦地がかなり多く、周りにブドウ畑が広がっていて、景色も申し分ない。陽当たりもよいし、聞けば近くに天文台があるほど星空もきれいに見えるとなれば、すべての条件が揃っている気がしました。しかもすぐ近くには、大阪から移住して来た年配の夫婦もいるという話で、暮らしやすさとかを聞くこともできて、もうここしかないと直感したこともあり、ほぼ買うことを決めていました。でも、その後どうしたと思いますか?」 

知沙子さんはこれまでにもテレビや新聞の取材を受けているようで、語り口も滑らかだ。聞けば、YouTube で『上山さん【兵庫でキャンプ場作り】』という動画配信もしていて、キャンプ場開設までのブログでも発信中だという。20代という若さもあるのだろうが、自分たちの夢に向かうプロセスまで楽しもうという、動画やブログを通じたそのひたむきな姿から上山夫妻の清々しい人柄が伝わってくる。

「地元の様子を聞いていたときに、ここらの畑を長年管理している方がいますので、とりあえずご挨拶しておくといいですよと親切なアドバイスまでもらいました。キャンプ場を開くとなれば、近隣とも親しくしておきたいですし、オープンしたあかつきには畑のブドウをタイアップして販売してもいいかなとか考えていました。電話番号を教えてもらっていたので夫がかけてみると、実に無愛想な対応でした。こちらの話を聞いてもくれず、『誰や、誰に聞いて電話かけたんや』と凄まれて、ブチッと切られる始末。その後、何回かかけてみても切られてしまいました。詳しいことは私のブログにも書いていますが、岡山県のキャンプ場は諦める結果になりました」 

知沙子さんの話は、さらに続く。その後、山林バンクと連絡が取れたことで兵庫県の日本海側に近い美方郡香美町で13万坪の山林を紹介され、800万円で購入。ここで「おじろじろキャンプ場」の開設を現在準備中だ(2021年の夏のオープンを目指している)。

「広さは東京ドーム9個分、大阪USJとほぼ同じ面積ですね。決め手は、平坦地が3万坪あったことです。そのほかは保安林が7割ほどです。キャンプ場を整備するための作業道がついていて、車の出入りが容易だったのもよかったですね。きれいな湧き水の出る場所が2カ所あるので、水場を確保できることもわかりました。また、民家が離れているので、キャンプ場が騒がしくても迷惑をかけないのも安心でした。そして、何より景色が美しいところが決め手でした」 

上山夫妻の所有する山林はダイナミックなスケールで、豊かな森に囲まれている。2021 年夏にオープン予定のキャンプ場づくりは着々と進んでいる。テントを張って夫婦でティータイムに興じることもある。
 

ただし、当初の予算をオーバーしていたため、不足分は両親に援助をお願いすることにしたという。ちなみに山林購入には住宅ローンは使えないため、資金計画は重要だ。フリーローンなどは、返済期限が短かったり金利が高かったりするし、審査をパスできずに融資が下りないケースも考えられる。 

上山夫妻の場合、ご両親から購入代金の一部借り入れることもできたので、現地見学から売買契約までスピーディに進められた点も恵まれていた。 

実際に購入した山林は兵庫県美方郡香美町小代区に位置する。キャンプ場のオープンまでにはまだまだやることが山積みだ。

「日本中にあるキャンプ場のいいとこ取りをした最高のキャンプ場を目指しているので、あれもあれば、これもあればと思うと用意したくなります。露天風呂もつくりたいし、きれいで清潔なトイレも欲しいですから」 

キャンプ場のアイデアは次から次へと湧き上がってくるという上山夫妻。そのアイデアをひとつひとつ実現するために、恭平さんは林業講習を受けて電動ノコで工作することにも慣れた。さらに知沙子さんは、第二種電気工事士の資格を取得し、管理棟の配線などを自ら施工するまでになっている。夏のオープンに向けて、えんえんと作業は続く。どんなに疲れていても、キャンプ場を開くという目標と山に癒やされているからヤル気は尽きないのだろう。 

冬は雪が意外に積もるので、スノーシューで雪山ハイキングが楽しめる。幻想 的で雪景色が美しい山をバックに歩くのは格別。キャンプ場の景色も一変する。
 

2021年1月1日の神戸新聞に「20代夫婦 山、買いました」という見出しで、二人の話が大きく取り上げられた。その中で恭平さんは「都会だと毎日、息苦しいマスクをつけて、人との距離を気にして生活しているだけで疲れてしまう。山に来ると、そういうもの全部、吹き飛んでいく気がするんです」と語っている。 

山林を購入し、やり甲斐を手に入れた上山夫妻だが、金銭面でも思わぬ収入があったと知沙子さんがうれしそうに話してくれた。

「森林組合に保安林の間伐をしてもらったら、200万円ほど利益が出たので入金がありました」 

間伐材を売却して、手数料を差し引かれた売り上げが山主のところに入ったのである。広大な山林を所有すると、こうした間伐による臨時収入があるのも楽しみになる。

最後に、キャンプ場づくりのために山林を買いたい人へ向けてポイントを挙げてみよう(恭平さんが書いているブログ「Teddy boy blog」(https://teddyboy8.com)でもアドバイスしている。

 山林を買うときのチェックポイント 

  • 「都市計画区域」外かどうか
  • 電気・水道はひけるか
  • ハザードマップ避難区域外か
  • 車での進入は可能か(アクセスしやすいか)
  • 携帯電話の電波は入るか
  • 平坦地は多いか
  • 飛び地になっていないか
  • 地籍調査は行われているか

 

自分の利用目的にかなうかどうか、これは山林を購入する前に確認すべき事項だろう。

山林の環境がいくら素晴らしくてもキャンプ場に活用したい人にとっては、水道や電気の供給をどうするかは重要な問題だろう。

電話回線、携帯電話の通信エリアに含まれるのか。現代人に必須のインフラが整わなければ、キャンプ場としての満足度は下がる。

また、どの程度の建築物や設備をしつらえるか、それらについて制限や許可が必要なのかを確認しておく必要もある。

山林の場合、ひとかたまりになっていない場合もあり、飛び地になっていると広さがあっても利用しにくい。

さらに、隣接する山林との境界線が不明確な物件の場合、境界線を巡ってトラブルになるので、 地籍調査が実施済みであることを確認しておくことが望ましい。

 

『山を買う』

実際に山を買った人たちの話を紹介しながら、山を買うブームの考察や山林購入を取り巻く諸問題も解説。
山を買うことのさまざまな情報をまとめた気になる一冊です。


著者:福崎 剛
発売日:2021年2月19日
価格:本体価格1000円(税別)
仕様:新書判224ページ
ISBNコード:9784635510738
詳細URL:www.yamakei.co.jp/products/2820510730.html

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【著者略歴】
福崎 剛(ふくさき・ごう)
鹿児島県生まれ。東京大学大学院修了(都市工学専攻)。日本ペンクラブ会員。登山歴は、アイガー、マッターホルン、モンブラン、エトナ火山など。メドック・マラソンを5回完走したボルドーワイン騎士(コマンドリー・ド・ボルドー)。マンション管理問題から、景観保全のまちづくり、資産価値の高い住宅選びなど、都市計画的な視点でわかりやすく解説。『マンションは偏差値で選べ!』(河出書房新社)、『本当にいいマンションの選び方』(住宅新報社)など、著書多数。

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