山を購入し所有するメリットとデメリットとは? 京都市内の山を購入した男性の場合

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ウィズコロナを背景に、キャンプブームが加速するなか、注目されている山林購入。人気Youtuberがプライベートキャンプ場のために山を購入したことも話題になりました。
京都市内の山を買った男性の楽しみとお悩みを、『山を買う』より抜粋して紹介します。

 

京都市内の山林を守りたい

場所=京都府 面積=1万坪 価格=300万円

京都の山林は、格が違う。そんなイメージを勝手に持ってしまうのは、古都の町並みとの距離が近いからだろうか。藤澤恒雄さんは、自然に親しむことが昔から好きだったという。

「両親の介護もあっていまは滋賀県大津市に住んでいますが、購入した山は京都の鞍馬です。数年前から大津市の非営利団体が所有する山の整備をする仕事を手伝っていて、山っていいなとしみじみ思っていました。手伝いを始めた頃から山に入るのが楽しみで、いつか自分の山林を持てるといいなと考えていたくらいです。そんなときに、ちょうど京都の鞍馬に物件があると知りました。最初に購入したのは2015年です」

標高569メートルの鞍馬山は京都市左京区鞍馬にある。東の鞍馬川、西の貴船川に挟まれた分水界をなすこともあり、いまではパワースポットとしても親しまれている。『更級日記』でも触れられるほど、昔から桜や紅葉の名所でもあり、シーズンになると国内外から多くの観光客が訪れる山である。元々は霊山として知られ、密教による山岳修験の場であった。その山の南中腹に鞍馬寺が創建され、ここで源義経が牛若丸と名乗っていた若かりしときに鞍馬天狗から剣術を学んで修行した伝説も残っている。藤澤さんにすれば、由緒ある鞍馬寺を擁する山林の一部を所有できることに興奮を覚えたのだ。

「山仕事の手伝いで自然保護というか、山林を守ることは大切だと実感していました。鞍馬山という特別な場所も大いに気に入りました。鞍馬温泉も近いし、場所としても申し分ありません。歴史のある山ですから、森林組合にも加入しています。維持管理をする上で森林組合に入会しなければ、山林を初めて購入した者には、すべきことがわかりませんから」

藤澤さん自身、東京で40年近く暮らし、密度の高い都市生活に疲弊する部分があったという。山の会に参加して、山に親しむと森のよさがわかって心が落ち着いた。むしろ山仕事が楽しみになっていたことに気づいた。そんなときに山林バンクのサイトで京都の山を見つけて、すぐに連絡したのである。

「京都の鞍馬山なんて、めったに売りに出ない貴重な山です。それが本当に300万円ほどで購入できるのか不安でした。実際に現地を見ると樹木も多かったし、これは資産にもなると思いました。林業をやるわけではありませんが、せっかく購入するなら資産価値は維持したいですから。森林を健全に守るためには、莫大な投資はしなくても私のように個人で少しずつ買って保全する方法もあると思います」

鞍馬山では主に杉や檜が森を形成しており、地域資源としても貴重な存在である。自分の山林であっても京都の景観の一部をなす山林は公共性を持っていることを意識しているのだろう。藤澤さんにとって鞍馬山は、大事な公共山林であり、それを一時的に私財として預かっているという思いがある。だからこそ、ふたつ目の山林も鞍馬山に求めたのだ。

「ふたつ目の山は、4000から5000平方メートル(1500坪)ほどで、価格は200万円か300万円ほど。最初の山に比べると、広くはありません。実は、こちらの山は現地を見ないで購入を決めました。同じ鞍馬の山ですし、山の様子はだいたいわかります。ただし、後で現地の写真をグーグルマップで見たら、樹木が見当たらない場所でした。植林して育つまでには何十年もかかりますが、それもまた山の楽しみです」と藤澤さんは話す。

山林で過ごす時間や整備する作業のひとつひとつが心地いいのだと、山の魅力を語る藤澤さんの口調が少し熱を帯びる。

「森に入って、木を伐り、ひと休みする時間。静まり返った山の中の空気感というか、そういう中に身を置いているときがいいですね。自然の音以外、何もしませんから、畏れを感じるほどです。そういう感覚は好きですね。人との付き合いの煩わしさも忘れられますから(笑)」

山の魅力を懸命に説明しようとしてくれる藤澤さんだが、京都の由緒ある山林を所有していることによる安堵感もあると話してくれた。自然を守りたい気持ちがあり、同時に財産にもなると思っているというわけだ。

「杉を植林して成長させるまでには、50年から60年近くかかります。時間はかかりますが、わが家の木だと眺めることができれば、それも楽しみになります。あと何十年かかるかわかりませんが、よし、育てるぞと意気込みも出ます」

山林を所有する楽しみがある一方、不安も少しあるという。昨年の夏の大雨で山沿いの道路が崩れ、市の土木事務所経由で森林組合から連絡を受けたときのことだ。

「隣の山で伐採した残りの木が、たまたま流されて道路にを堰き止めているという知らせでした。私の山林の木が流されたとすれば責任問題になりかねないので、ちょっとドキッとしましたね。土木事務所の人たちが調査や処理をするために私の山に入る許可を欲しいということでした。結局は、自然災害であり通行する車や人にも被害はなく、すべて市のほうで対処したみたいです」

大雨や台風による土砂崩れや倒木があると、山主は不安になる。自分の山林は大丈夫だろうかという思いと、被害が出ないようにと祈る気持ちが強くなる。

「もうひとつ怖いなと思ったことがありました。自分の山の立木が台風で倒れ、近くのアパートの屋根を擦ってしまって、そのアパートの管理会社から修繕費を出してほしいと連絡が入りました。自然災害ですから、そちらの保険で対処してくださいとお願いしましたが、責任は山主にあると言われて数十万円を支払いました。弁護士にも相談したのですが、倒れた木は私の山に植わっていたわけですし、山主の責任になるという判断でしたね。民家が近い山は怖いなと思いました。それで、民家が近くにある山林を購入するときには、どんな自然災害が起きるかわからないので、周辺を調査することが必要だと改めて考えさせられました」

自然災害でも状況によっては山主が責任を問われることになるのである。藤澤さんの言葉は、山主ならではの実感がこもっている。トラブルを回避するために、できるだけ近隣の山主と顔見知りになっておくべきだし、地元の森林組合に加入する必要もあると藤澤さんはアドバイスする。

「山は代々受け継いで育て上げるものだと思っているので、買った山だから何をしてもいいと思い違いをされると残念ですね。周りにはほかの山主さんもいれば、山で仕事をしている人たちもいますので、たとえ自分の山でも焚き火の始末に留意し、騒ぎ過ぎないでほしいですね」

 

『山を買う』

実際に山を買った人たちの話を紹介しながら、山を買うブームの考察や山林購入を取り巻く諸問題も解説。
山を買うことのさまざまな情報をまとめた気になる一冊です。


著者:福崎 剛
発売日:2021年2月19日
価格:本体価格1000円(税別)
仕様:新書判224ページ
ISBNコード:9784635510738
詳細URL:www.yamakei.co.jp/products/2820510730.html

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【著者略歴】
福崎 剛(ふくさき・ごう)
鹿児島県生まれ。東京大学大学院修了(都市工学専攻)。日本ペンクラブ会員。登山歴は、アイガー、マッターホルン、モンブラン、エトナ火山など。メドック・マラソンを5回完走したボルドーワイン騎士(コマンドリー・ド・ボルドー)。マンション管理問題から、景観保全のまちづくり、資産価値の高い住宅選びなど、都市計画的な視点でわかりやすく解説。『マンションは偏差値で選べ!』(河出書房新社)、『本当にいいマンションの選び方』(住宅新報社)など、著書多数。

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