九州自然歩道2,100kmをスルーハイク! 第6回「鹿児島県は、開聞岳・桜島と海の絶景を見ながら。霧島では驚きのトレイルマジック」

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齋藤正史さんの九州自然歩道2,100㎞のスルーハイクは、5県目の鹿児島県へ。山岳エリアから海沿いへ、開聞岳と桜島を見ながらの大隅半島一周など、500kmを超える道のりと出会いを振り返る。

 

齋藤正史(さいとうまさふみ)

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年生まれ。山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。

アメリカにあるロングトレイル、アパラチアン・トレイル(2005年)、パシフィック・クレスト・トレイル(2012年)、コンチネンタル・ディバイド・トレイル(2013年)を踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成。日本国内でロングトレイル文化の普及に務め、地元山形ではロングトレイル整備の活動も行う。

 

500kmを超える長距離を歩く鹿児島県

九州自然歩道の鹿児島県のルートは517km。10月24日から11月12日までかかった。熊本県に次ぐ2番目の長さだ。熊本県と鹿児島県の2県分で1,000㎞を越えるので、九州自然歩道2,100kmの実に半分ほどの距離を歩くことになるのだ。

九州自然歩道は、伊佐市からいちき串木野市までは山岳エリアを通り、枕崎市から指宿市までは海沿いのエリアを歩く。フェリーで大隅半島にわたり、九州最南端の佐多岬を通り、鹿屋市・霧島市を抜け、霧島錦江湾国立公園内、高千穂峰までがルートとなる。

出典:NATS自然大好きクラブ(鹿児島県図)

 

いちき串木野市での出会いが、鹿児島県での旅を大きく変えた

10月24日に鹿児島県に入ると、九州自然歩道のルートからは、令和2年7月豪雨の被害も目にすることが少なくなっていった。熊本との県境の伊佐市から、東シナ海の海沿いのいちき串木野市へは山岳地のルートが続く。道路を歩いている時には、地域の人に出会い、缶コーヒーをいただいたりした。道すがら、無人販売所が点在しており、水分補給にミカンを買ったり、夕食用に野菜を買ったりすることもしばしばだった。びっくりしたのは、カニの無人販売所があったことだった。網の中でもさもさ動いているのを見ると、さすがに買う勇気は出なかった。いちき串木野市に入ると、山岳地から町中を通り、海まで歩いた。

カニの無人販売所

初めて見たカニの無人販売所


ふと、さつま揚げ屋さんの看板を見つけた。鹿児島に入って3日目で、まだ鹿児島の地のものを口にしていなかった。九州自然歩道のルート上で本場のさつま揚げを作っているお店があるとは思いもしなかった。

マスクをしてお店のドアを開けて中に入ると、ご主人がいたので、九州自然歩道を歩いていることや、お店の目の前の道が、その九州自然歩道のルートであることなど、しばらく立ち話をした。

曽木の滝

「九州のナイアガラ」と呼ばれる曽木の滝も、九州自然歩道の一部


ちょうど、時計もお昼を指していたので、お昼ご飯にとさつま揚げを選ぼうとすると、「もし、良かったらこれ持っていかない?」と、ご主人が袋に入った数種類のさつま揚げを奥の冷蔵庫から取り出してきた。「さつま揚げを作っていると、規格外がでてね、良かったら食べてよ」と言って僕に渡してくれるのだ。僕がお代を払おうとすると、「規格外だし、売りのものじゃないから。もしよかったらSNSとかで宣伝してね」と、笑顔で言ってくれた。僕はお礼を言い、外に置いたバックパックを背負い出発した。少し歩いて公園を見つけると、テーブルに座り、さつま揚げを食べた。本場のさつま揚げは、こんなにも美味しいものかと驚いたと同時に、急に冷たいビールが欲しくなった。

規格外のさつま揚げをいただいた寺田屋のご主人


寺田屋さんから1時間ほど歩いたところで、道の駅のような「市来えびす市場」の前を通過した。

ロングトレイル・ハイキングでは、町に入るとトイレの問題が浮上する。ルート上に公衆トイレがあるとも限らないので、用を足せるときには足しておきたい。僕は市来えびす市場でトイレを借りることにした。

バックパックを置いて、トイレに入ろうとするとひとりの男性に声を掛けられた。「どこから来て、どこに行くのですか?」。この方は、旅人を見かけると、必ずそう話しかけるそうで、僕が九州自然歩道を歩いていることを簡単に説明した。霧島から来たという男性だった。連れの男性が「もし霧島に来ることがあったら僕の秘密基地を案内するよ!」というので、連絡先を交換して別れた。

県立吹上浜海浜公園キャンプ場サンセットブリッジ

県立吹上浜海浜公園キャンプ場サンセットブリッジにて


九州自然歩道は、この先、霧島を通るのだったか・・・。この時点で僕は、鹿児島県の後半のルートを頭に描き切れずにいた。その後、指宿で泊まっている時に、残りの鹿児島県の行程をチェックしたところ、九州自然歩道は霧島市の中心部を通っているのだった。男性の「秘密基地を案内する」という言葉がずっと気になっていた。

 

きれいな円錐形の開聞岳を見ながら、歩き旅は進んでいく

枕崎市に入ると、九州自然歩道のルートは火之神公園近くを通過する。火之神公園には無料のきれいなキャンプ場がある。もちろんトイレも炊事場もある。僕がテントを張った日は、天気がさほど良くなく、遠くにきれいな円錐形の開聞岳が霞んで見えた。まだ遠いのか、と思ったのだが、その後、歩くたびにどんどん開聞岳に近づいていった。

当初は開聞岳を登る計画だったが、山は登ってしまうと形が見えない。一周してその姿を見たいと思い、ルート通り、開聞岳の周りを歩き、指宿に着いた。指宿ではでゆっくり「ゼロデイ(=全く歩かない休養日)」を2日、取ることにしていた。

西大山駅と開聞岳

JRで最も南にある西大山駅と開聞岳


ルートでは、山川港から大隅半島の根占港へとフェリーで渡るルートになっているのだが、山川港付近も、対岸の根占港も宿があまりなかった。どうするか悩んだ末、山川港からバスで10分ほどの指宿へ行くことになったのだ。指宿なら、宿もあるし、お店もある。観光もできるので、「ゼロデイ」を取るには最適だった。

予約を入れていたバス停から直ぐの宿に行くと、宿のみなさんはとてもフレンドリーだった。元は介護施設だったという建物で、廊下もエレベーターも部屋もゆったりしている。広いオープンスペースもあり、僕のように大きな荷物を背負うハイカーには最高の宿だった。24時間入れる温泉もありがたかった。フェリーが強風で欠航したこともあり、指宿では、3日間の「ゼロデイ」を取ることになった。スルーハイクをしていて、一か所で3日を過ごすことはあまり経験がなかった。

開聞岳と指宿の町の夕景

開聞岳と指宿の町の夕景


最終日、宿の方にフェリー乗り場まで乗せていただいた時には、3日過ごした指宿を経つのが急に寂しくなっていた。手を振って別れてから、フェリーで根占に渡った。ここからは、大隅半島を一周して歩いていくのだが、この間も開聞岳はその美しさを見せ続けていた。そして、開聞岳に別れを告げると、やがてあの桜島を見ながら九州自然歩道は北上していく。

根占漁港から大隅半島を一周するルートは、舗装路を多く歩く。九州最南端・佐多岬の手前5kmのところには、九州最南端の大泊キャンプ場がある。ここは、無料のキャンプ場で、水しか出ないがシャワーも付いていた。平常時は、隣接するホテル佐多岬でお風呂や食料を仕入れることも可能なのだが、新型コロナウイルスの影響もあり、当面の間、キャンプ客は利用できないという張り紙がされていた。

大泊野営キャンプ場

九州最南端大泊野営キャンプ場


ここでは、目的の無い車旅をしている男性に出会った。彼はこのキャンプ場が気に入ったらしく、10日も泊まっているそうなのだが、快適なので、もうしばらくこのキャンプ場で過ごす予定だと言っていた。景色もいいし、静かだし、最高のキャンプ場だと思う。

 

鹿児島県をひと回りして霧島市へ。男性と再会し、最高のおもてなしを受ける

さて、大隅半島を歩いている間も、市来で出会った男性・宝楽さんとは、メールのやり取りを続けていた。11月10日に、霧島市に入って「ゼロデイ」を取ることにして、宝楽さんの秘密基地へ行くことになった。

宿に迎えに来てくれた宝楽さんからは「せっかくだから、霧島を案内しようか?」と言われたのだが、僕は「秘密基地」の方が、どうしようもなく気になっていたので、「秘密基地」の案内をお願いしたのだった。

話を聞くと、以前は自宅とガレージが一緒になっていたそうだが、今では、自宅とは別にガレージを作ったのだという。到着して驚いた。それは、僕の想像を大きく超えていて、秘密基地やガレージというレベルではなく、まるで博物館のようだったのだ。

入ってみると、目の前には、クラシックカーの「スーパーセブン」が2台も置いてあった。実物を、こんなに近くで見られるとは思いもしなかった。しかも、奥には整備のためのリフト設備もあり、車の整備をひと通りここですることができるという。スーパーセブンのエンジン音を聞かせていただく。心地よいサウンドがガレージ内に響いた。ついで2階も見せていただいた。珍しい「モンキー(オートバイ)」があり、オープンカーに乗る時には欠かせない「フライトジャケット」が並んでいた。ほかにも、古い電化製品やジオラマまであって、「男のあこがれ」が詰まった博物館のような場所だった。

夕方には、最初に声を掛けてくれた久保田さんが仕事を終えて合流し、宝楽さんのお宅で鹿児島の名物をご馳走になった。あの時の一瞬の出会いが、こんな風に繋がっていくとは。

翌日も、宝楽さんと久保田さん、さらにそのご友人の島田さんに、霧島の名物店に連れて行っていただいた。「ゼロデイ」はあっという間に過ぎ、夢のような霧島での滞在になった。

桜島の景色も、霧島の方々の優しさも、美味しい食事も、心に刺さった。また、いつか必ず鹿児島に戻ってくることを約束して、僕は鹿児島県ルートの最後として、高千穂峰を目指して歩いた。

市来で声をかけてくれた久保田さん、私、宝楽さんご家族と。

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次回は、九州自然歩道、宮崎県の旅を紹介していきます。

 

九州自然歩道、鹿児島県のおすすめと情報

  • 寺田屋(さつま揚げをいただいたお店)
    〒896-0035 鹿児島県いちき串木野市新生町55
    TEL 0120-182-513

プロフィール

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成した。日本国内でロングトレイル文化の普及に努め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行なっている。

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