原動力は「地域の山を愛そうや」という地元愛。「嘉穂三山愛会」|日本山岳遺産の横顔 vol.04
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。第4回は、福岡県の中央に位置する「嘉穂アルプス」で登山イベントの開催や登山道整備などに取り組む嘉穂三山愛会を紹介する。
『山と溪谷』2021年4月号掲載記事
写真=嘉穂三山愛会
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年4月号掲載記事
嘉穂三山愛会 〈 2016年度認定 〉
Area:嘉穂アルプスRecent activity:避難小屋の建設
Group profile:
1980年代から山好きな地域住民が集まって嘉穂アルプスで活動。会としては2010年設立。現在20~70代の約20人の会員で、若手メンバーの結婚式を山で挙げるほど交流が盛ん。2018年に日本山岳遺産基金を活用し、避難小屋を建設。
https://twitter.com/OfficialSanzan
福岡県のほぼ中央部、嘉麻、朝倉両市境にそびえる嘉穂アルプス。馬見山(978m)、屏山(927m)、古処山(860m)の三山が東西に連なっている。
三山のうち、昔から特に登山が盛んなのが古処山。約1時間で登れる手軽さに加え、オオキツネノカミソリやシュウメイギクなど多彩な花・植物が自生し、「新・花の百名山」に選ばれている。国の特別天然記念物のツゲ原始林や希少な昆虫など見どころ豊富だ。
今から三十数年前、馬見山の魅力も伝えようと地元有志が元旦の〝初日の出登山〞を企画したのが、嘉穂三山愛会の始まりだった。馬見山は古処山に比べ、所要時間が長く道もハードだが、古い伝承や、高さ約24mの「御神所岩」と呼ばれる巨石があり、山頂からの展望も見事。初日の出登山は多い年で200人ほどが参加する人気の恒例イベントになっている。
古処山に生息するニシキキンカメムシ(下)
同会は長年、三山の登山道整備、山開きや登山イベントの開催、子どもたちの学校登山のガイドなどを行ない、地域の自然と人を結ぶ役割を担ってきた。
2018年には馬見山山頂に避難小屋「うまみ」を建設。前年に発生した九州北部豪雨により登山道が崩壊する困難に直面するも、道の再整備から資材運搬までを自力で行ない完成させた。同会事務局長の有田芳行さんはこう話す。
「中高年を中心に登山者が年々増えているので、休憩したり、緊急時に利用できる場所を作りたかった。ちょっとしたケガの応急手当てができる準備もしています。イベント開催時にも大活躍です」
メンバーたちの記念写真
植物の保護にも取り組む。古処山ではシカの食害による花の減少を受け、ネットを張って対策を講じた。また、盗掘被害でなくなりかけている花を、専門家や地元の高校生と協力して増殖させる計画も進行中だという。
これまであまり注目されていなかった屏山についても、自生する大きな山桜を切り口に、登山イベントをもくろむ。新しいチャレンジにも積極的だが、その原動力は何か。有田さんはこう言って笑う。「地元愛だと思います。大きな山もいいですが、『地域の山を愛そうや』っていう〝バカモン〞の集まりなんです」
★日本山岳遺産認定地 詳細:嘉穂アルプス [ 福岡県 ]嘉穂三山愛会 (2017年)
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日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
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助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
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プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2024年4月号の特集は「全国 花と新緑の名低山」。木々や草花が芽吹き、山肌が華やかに彩られる季節となりました。うららかな春の日差しを浴びながら、花と新緑の低山をのんびり歩いてみませんか? 全国のガイド著者が厳選した春の名低山を紹介します。第2特集は、雪山登山、雪山ハイキング、山スキーの厳選コースを集めた「残雪の山」です。
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!