九州自然歩道2,100kmをスルーハイク! 第8回 大分県から県境を縦走し英彦山へ。ついに九州一周!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

九州自然歩道を約2ヶ月かけて歩いてきたロングトレイルハイカーの齋藤正史さん。最後の大分県でも、ルートを探しながらの旅が続く。福岡との県境にある英彦山で、2ヶ月前に立ち寄りお世話になった宿坊に立ち寄り、2,100kmの旅を終えた。

 

齋藤正史(さいとうまさふみ)

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年生まれ。山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。

アメリカにあるロングトレイル、アパラチアン・トレイル(2005年)、パシフィック・クレスト・トレイル(2012年)、コンチネンタル・ディバイド・トレイル(2013年)を踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成。日本国内でロングトレイル文化の普及に務め、地元山形ではロングトレイル整備の活動も行う。

 

豪雨被害の大きなエリアで、九州自然歩道はつながっていなかった

九州自然歩道は、大分県竹田市からくじゅう連山のすそ野に入り、鉾立峠から入り、くじゅう連山を抜け、玖珠町、中津市へと続き、再び福岡県に入り英彦山へ続く。

高千穂峡周辺の登山道が十数年前から歩けない状況だったことから、念のため、くじゅう連山周辺の情報をネットで探していた。すると、「令和2年7月豪雨」の影響で、ほとんどの登山道で、崩落などが起こって大きく影響が出ているようだった。周辺道路の通行止めもあり、九州自然歩道で示されたルートは、事実上通行できない状況だった。

出典:NATS自然大好きクラブ(大分県図)


僕は、迂回ルートとして、くじゅう連山の裾野をぐるっと周るようなルートを選択した。そのため、熊本県に入ったり、大分県に入ったりと、何度か県境をまたいで忙しい感じがした。迂回したはずの国道でも、阿蘇くじゅう国立公園内には工事箇所がいくつもあった。また、国立公園園地内の川では氾濫した様子が伺える場所もあった。

遠くに、2ヶ月前に通った阿蘇の山が見えた。九州南部では「令和2年7月豪雨」の被害を見ていなかったので忘れていたのだが、阿蘇エリアも豪雨の被害が多くあったことを思い出した。

これまで歩いてきた経験では、九州北部の山岳エリアでは、沢筋に大きな被害が集中している。これは、阿蘇くじゅう国立公園のくじゅう連山を迂回し、九州自然歩道のルートに合流した後からも見られた。

阿蘇くじゅう国立公園

阿蘇くじゅう国立公園


特に、僕が1日「ゼロデイ(歩かない日)」を取った宝泉寺温泉では、温泉街を流れる町田川が氾濫した様子で、周辺にある宿が大きな被害を受けた跡を見ることができた。また、この町田川と合流する玖珠町中心部を通る鳴子川にも大きな被害があったと聞いた。

宝泉温泉付近

宝泉温泉付近の水害はかなり大きかった様子


宝泉温泉からは、万年山(はねやま)、伐株山(きりかぶさん)を通り、玖珠町へ入る。万年山と伐株山は、二重のメサ(卓上台地)と呼ばれ、玖珠町のシンボル的な山になる。特に、伐株山は、更に浸食が進んだビュート地形と呼ばれ、山頂付近にはパラグライダーの離発着所やオシャレな無料の展望台もある。山頂まで車で行けるので、僕が歩いている時も多くの人で賑わっていた。

無料展望台からは、玖珠の町並みが近く良く見える。それもそのはず、ここは玖珠城の跡地らしい。

伐株山無料展望台

オシャレな伐株山無料展望台


玖珠の町中を抜け、最後の宿、緑荘に泊まった。12月の足音が聞こえ始め、平地でも朝晩の寒さは厳しくなり始めていた。早朝、緑荘の女将さんの手作り弁当のトレイルマジックをいただいて出発した。手袋をしないと指先が凍えるほどの寒さだった。しばらく歩くと、九州自然歩道は人が入れないようにゲートが閉じられ、その先のルートは見る限り消失していた。

仕方なく、道路を歩いていったのだったが、深耶馬渓(しんやばけい)を通り、一目八景などの景勝地を見ることができたのは逆に良かったのかもしれない。

一目八景を過ぎ、木ノ子山の山麓の一部道が消失したルートを強引に通り、大平山へと向かっていった。

緑荘のおかみさんに持たせていただいたお弁当

 

大分・福岡県境の山道を歩く

九州自然歩道のルートは、大平山からの縦走路を進むことになるのだが、しばらくは大分県と福岡県の県境を歩くことになる。縦走路に入ると一気に人の姿は無くなっていった。急なアップダウンや鎖場が次々に現れる。正直、このアップダウンは、大きな荷物を背負う僕のようなハイカーには向いていないと感じた。

出典:NATS自然大好きクラブ(福岡県図)


そんな中、数名の登山者と出会ったのが、犬ヶ岳のシャクナゲ群生地あたりだった。急な天候の変化で、犬ヶ岳の山頂では雹が降り付けたそうだった。かなりの寒さだったが、幸い、僕が通過する時には、暗く重い雲が過ぎ去ったところだった。犬ヶ岳を過ぎると、また一気に人の姿が無くなっていった。

犬ヶ岳から眺める英彦山エリア

ストームが過ぎ去った犬ヶ岳から眺める英彦山エリア


この日は、早朝から歩き始め、英彦山に近い野峠に着いたのは夕方だった。九州自然歩道の旅も終盤で、ハイカーとして体ができ上がっている状態でも、丸1日歩いて僅か16㎞ほどしか歩けなかった。それ程、険しく荒れた道のりだったのだ。

英彦山までの縦走路からの景色

英彦山までの縦走路からの景色

 

九州を一周し、再び英彦山へ。ゴールをどこにするのか・・・

野峠の九州自然歩道登山口にテントを張った僕は、11月30日の朝、寒さに目が覚め、夜明けとともに出発した。前日、テントの中で地図を確認したのだが、複数の道が付いていて、どのルートを歩けばよいかわからなかった。そこで考えたのは、実際の看板や道標の示す通りに歩こう、ということ。歩き始めた時はまだ薄暗かった。

野峠からは、国道500号線を歩いていく。国道とはいえ、山の中の細い道路で、早朝に通る車など無かった。看板も全く目にしないまま、国道を歩いていくと、豊前坊という、営業しているかどうか分からない土産物屋とトイレがあり、九州自然歩道の看板もあった。

看板には、いくつかのルートが書かれていて、どれも九州自然歩道だという。その中の1つだけに九州自然歩道と書かれていたので、他のルートは、いわゆる支線ルートなのだろうと思った。僕は、九州自然歩道の主線を辿ることにし、道標が示すままに進んだ。

高住神社参道付近

高住神社参道付近の道


高住神社からは古い石畳を通り、福岡県英彦山青年の家の裏手を通り、英彦山野営場を通過した。水害で壊れた、石畳だったと思われる道を下っていった。看板で見る感じでは、この先にある別所駐車場が大分方向と佐賀方向へ向かう分岐点のように思えた。

僕は、古い民家の脇を、道標が示す通りに進み、右が別所駐車場という看板に従い、右に曲がったところで、足を止めて左右を見渡した。

見覚えがある景色だった。僕は、九州自然歩道を歩き始めた2ヶ月ほど前、この場所で道に迷っていたのだった。ここに、大分県方向に曲がる道標があったとは気が付かなかった。

僕は、九州自然歩道を周回したゴールにふさわしい場所を探していた。そして、名もないこの道標をゴールにしようと思った。三脚を立て、カメラをセットして写真を撮る。

長い長い歩き旅のゴールとして、こんなに不確かな場所でのゴールは初めてだ。時計を見ると、まだ、午前8時30分を過ぎたばかりだった。

僕の中で決めた九州自然歩道一周の旅のゴール地点


ネットで調べると、別所駐車場から最寄りの駅まではバスが出ていた。次のバスの時間を確かめ、福岡までの乗り継ぎを確認して、僕は参道へ歩き始めた。

九州自然歩道の旅の序盤、英彦山では、松養坊のみなさんにお世話になった

一周したらまた立ち寄ろうと決めていたが、予定より15日も早かったので、ご挨拶だけでもしようと思っていた。あの時歩いたように、参道を下っていく。工事は終わり、きれいな参道に変わっていた。

入り口は閉まっていたが、間違いなく松養坊はここだと思い、門を開けて中に入る。すると奥さんが出てきた。「もう、戻ってきたの? 妹と、そろそろ帰ってくるころだから、12月になったら電話してみるねって言ってたとこなのよ!」「寒いから入って! まずはコーヒーでも!」と、松養さんは、2ヶ月前と変わらず暖かく迎えてくれたのだった。

テント泊の朝はパンを食べるのが定番


僕は、ここでの出会いをきっかけに、九州自然歩道で多くの方に出会った。ここでの出会いが次の出会いを生んでくれて、そして僕は九州を一周し、またここに戻ってきたのだ。

僕にとって、本当の意味での、九州自然歩道のゴールは、あの看板ではなく、松養坊だったのかもしれない。

*****

次回は、最終回。九州自然歩道への提案、九州自然歩道を歩きたいという人へのアドバイスを掲載します。

 

九州自然歩道、大分県・福岡県のおすすめと情報

  • 松養坊(しょうようぼう)
    〒824-0721 福岡県田川郡添田町英彦山1305
    電話0947-31-4000
    ※見学もできます

プロフィール

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成した。日本国内でロングトレイル文化の普及に努め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行なっている。

齋藤正史 九州自然歩道 2100kmを歩く

ロングトレイルハイカーの齋藤正史さんが、2,100kmにおよぶ九州自然歩道を2か月半かけて歩いたレポート。本場アメリカのロングトレイルにも匹敵する道のりの全貌とは。

編集部おすすめ記事