たとえ低山でも手応え十分! より充実した日帰り登山の可能性を示す『続 藪岩魂』

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評者=木元康晴

続・藪岩魂 いつまでもハイグレード・ハイキング

著:打田 鍈一
発行:山と溪谷社
価格:2,420円(税込)


1980年代から、月刊誌『山と溪谷』を中心に精力的に記事を執筆し続けている、低山専門山岳ライターの打田鍈一さん。得意としているのが、主に群馬県西上州の日帰りで登れる岩の山のコースガイドで、そのような山が好きな登山者からの支持は強い。

その打田さん選りすぐりのコースをまとめた『藪岩魂』という本が出たのは、2013年。ボリュームたっぷりの一冊で、多くの打田さんファンに愛読されてきた。そしてその続編となる『続・藪岩魂』が、2020年秋に出版された。

取り上げられている山は、埼玉、群馬、新潟と東北の一部。それらが、「初級・中級」「上級」「雪山」「日本海 島の山旅」の4つのカテゴリーに分けて紹介されている。

注目すべきはやはり「上級」で、前著にもれた藪岩の山が、まだこんなに残っていたことに驚いた。さらにその内容も多彩で、自転車で回る下仁田三山から、「東北最悪の登山道」なる摩耶山まで、さまざま。中には灌木を束ねてての懸垂下降を要する横畑など、私だったら絶対に敬遠したいハードなコースまでも含まれている。

また今回はハードコースだけでなく、東日本大震災や中越地震で被災した、岩手県三陸南部や新潟県山古志村の山も紹介されていて、復興へ向かう地元の皆さんを応援する気持ちも伝わってくる。コースガイドの合間に挿入されたグルメマップなども充実し、より多くの皆さんが、手にして楽しめるに違いない。

近頃の人気の高い山では、ベストシーズンの週末の天気がよいと、非常に多くの登山者が集中するようになった。インターネット、特にSNSで的確な山の情報が入手できるようになったと同時に、天気予報の精度も上がったことにより、皆が同じタイミングで同じ山を目指すようになったのではないだろうか?

登るのなら名の通った良い山を最高の日に、と考える気持ちはわかるが、長く続く登山者の列に出くわすと、呆然としてしまう。

そのいっぽうで、この『続・藪岩魂』で打田さんが求めているのは、「寂名山」。重視しているのは、人混み少なくて緊張感と達成感はほどほど、展望広大で季節感豊か、穏やかな山里風景や山麓の味などの要素。混雑する名山よりも、思い出に残る楽しい登山ができそうだ。

本書は単なるコース紹介にとどまらず、そのような登山を実践するためのHow toも多く記されている。まだしばらくは続くであろうコロナ渦の中、これまでとは違う視点で、より充実した登山への取り組み方を考えるためにも、じっくりと読んでほしいオススメの一冊だ。

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

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