厄除け登山で山の神仏から元気をいただく! ~あなたの「守り本尊」の山でご利益を授かろう~

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山岳ガイド&巡礼先達である太田昭彦ガイドの知識を通じて“新型コロナ退散を祈願し、心と身体の免疫力を上げる”新時代の登山スタイルを提唱する連載。最終回は十二支にフォーカスし、それぞれの守り本尊と、それらにちなんだ山をご紹介します。

文=鷲尾太輔

 

2021年の十二支は丑、実は太田さんも丑年生まれの歳男です。

福岡県の太宰府天満宮には菅原道真公の使いとされる御神牛像が安置されていたり、長野県の善光寺には“牛にひかれて善光寺参り”の伝承が残っていたりと、丑は日本人の信仰に深く結びついており、全国には名前に牛を冠した山がたくさんあります。

けれども、自分は丑年生まれではないから関係ないと思っていませんか? そこで知っていただきたいのが、誰にでも必ず付いている十二支の「守り本尊」の存在です。

今回はそんな「守り本尊」の紹介と、「守り本尊」にちなんだ山を全国からご紹介。あなたを守護してくださる仏さまの山が見つかります。

 

十二支と守り本尊の関わり

60種類の干支と様々な記号になった十二支

私たちにとって身近な生まれ年を表す「十二支」。しかし、この十二の動物は中国から日本に伝来した「陰陽五行思想」に基づいて、かつては様々な記号として使われてきました。

五行思想では、全ての物が「木・火・土・金・水」の5つの元素から構成されると考えられていました。この5つをさらに陰陽思想の「陽=兄(え)」「陰=弟(と)」で分けたものが「十干(じっかん)」で、「甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)」の10種類があります。大正時代の鬼退治がテーマとなり2020年に大ヒットしたアニメ・コミックでは、この十干が剣士の階級に当てられており、広い世代に認知されました。

10年周期の「十干」と12年周期の「十二支」を組み合わせると、60種類の「干支(えと)」になります。戊辰戦争は1868年の「戊辰(ぼしん)」の年に起こり、甲子園球場は1924年の「甲子(きのえね)」の年に完成したことから、名付けられました。ちなみに2021年の干支は「辛丑(かのとうし)」です。

この陰陽五行思想における干支は60年で1周することから「還暦」という言葉が生まれました。還暦を迎える太田さんは、この60種類の干支を経験してきたことになりますね。

また、旧暦を表す「月干支」では、現在の4月は旧暦3月にあたり、辰の月と呼ばれていました。時間を表す「十二時辰」では11時〜13時頃を「午の刻」と呼び、現在でも「正午」と言う表現は一般的ですね。

 

方角を表す十二支と守り本尊

月・時間と同様に、方角も東西南北を十二に区切って干支を記号としていました。これは、節分に食べる恵方巻きの「恵方」でもおなじみ。十二支を現在の8方位に当てはめると以下のようになります。

北=子・北東=艮(うしとら・丑と寅の間)・東=卯・南東=巽(たつみ・辰と巳の間)・南=牛・南西=坤(ひつじさる・未と申の間)・西=酉・北西=乾(いぬい・戌と亥の間)

各干支の守り本尊


この8方位に仏様を当てはめたものが「守り本尊」。「一代守本尊(いちだいまもりほんぞん)」とも呼ばれ、その年に生まれた人を一生涯に渡って守護してくださるとされています。

自分の開運・厄除けを司どる「守り本尊」を知り、その仏さまを祀るお寺に参拝することで、あなたの祈願もきっと成就することでしょう。それぞれの仏さまの「縁日」にお参りすると、さらにご利益がありますよ。

それでは、十二支それぞれの守り本尊を、ゆかりの山と共にご紹介していきましょう。

 

十二支の守り本尊と厄除け登山におすすめの山

子年の守り本尊・千手観音菩薩

救済や成就を願う悩みや願いは人それぞれ。その全ての人々を無数の目で見守り、無数の手で救いを差し伸べてくれる存在が「千手観音菩薩」。その慈悲を体現する姿として、11の御顔と42の御手を持つ特異な像容が生まれました。京都・三十三間堂にある千体の千手観音像は、その代表格ですね。縁日は毎月17日です。

子年の守り本尊ゆかりの山…男体山(2486m)

世界文化遺産・輪王寺の別院が奥日光・中禅寺湖のほとりにある中禅寺。日光を開山した勝道上人(しょうどうしょうにん)が、中禅寺湖の上空に見出した千手観音菩薩を桂の立木に彫ったとされる御本尊が「立木観音」です。この伝説から男体山そのものが千手観音菩薩として崇められており、輪王寺の三仏堂では阿弥陀如来(女峰山)・馬頭観音(太郎山)と共に祀られています。

男体山から望む中禅寺湖(写真:ブナ太郎さんの登山記録より)

 

丑年・寅年の守り本尊・虚空蔵菩薩

無限の慈悲と智慧の心を虚空蔵という蔵に納め、人々の願いを叶えてくれるのが「虚空蔵菩薩」。虚空蔵から知恵や知識を取り出して与えてくれることから、学業や芸事を成就させてくれるご利益があるとされており、京都・神護寺にある5体の五大虚空蔵菩薩坐像が特に有名です。縁日は毎月13日です。

丑年・寅年の守り本尊ゆかりの山…虚空蔵山(長崎県/佐賀県・609m)

九州のマッターホルンとも呼ばれる尖った姿が特徴の山で、山頂の祠に虚空蔵菩薩が祀られ古くから信仰の対象となって来ました。コンパクトな低山ながら山容の通りに痩せ尾根や断崖もあり、スリルある登山と雲仙岳や大村湾など360度の展望がが楽しめます。東麓の嬉野温泉を筆頭に、温泉天国・九州ならではの登山と温泉を楽しむ山旅もおすすめですよ。

大隅半島から臨む尖った山容の虚空蔵山(写真:シンゴさんの登山記録より)

 

卯年の守り本尊・文殊菩薩

「文殊」は古代インドに実在した人物で、優れた知恵を持ち釈迦の教えを経典に編纂したとされます。この由来から学業成就にご利益があるとされ「三人寄れば文殊の知恵」という言葉が生まれました。奈良・安倍文殊院の騎獅文殊菩薩像は、鎌倉時代の仏師・快慶の作として有名。縁日は毎月25日です。

卯年の守り本尊ゆかりの山…文殊山(福井県・365m)

白山を開山し、平泉寺白山神社の開祖としても知られる地元・越前出身の泰澄大師(たいちょうだいし)が開いた霊山が文殊山。小文殊(室堂)・大文殊(本道)・奥の院(大汝)の3つの峰から構成され、最高峰である大文殊にある本堂には泰澄大師作の文殊菩薩が祀られています。2つの巨岩が密接して岩門となり潜ればご利益があるとされる胎内くぐりをはじめ、御題目岩・山婆の岩堂などの奇岩が点在し、春のカタクリや秋の紅葉も美しい山です。

文殊山の胎内くぐり(写真:Yamakaeru さんの登山記録より)

 

辰年・巳年の守り本尊・普賢菩薩

普(あまね)く賢いという名の通り、優れた智慧で現世のあらゆる場所で人々を救済する仏さま。幸せを増大させる増益(ぞうえき)にご利益があるとされています。また、女性でも悟りを開けるという「女人成仏」を説く法華経に登場するため、女性からの信仰が篤い存在でもあります。縁日は毎月24日です。

辰年・巳年の守り本尊ゆかりの山…普賢岳(長崎県・1359m)

雲仙岳の主峰のひとつで、1991年に大火砕流を起こした山として知られています。この時の噴火で山頂近くの普賢神社も消滅してしまいましたが、2004年に新しく作られた普賢菩薩を御神体として再建され、地元の人々の信仰のよりどころである「お普賢様」が復活しました。山頂からは日本一新しい山である平成新山(1483m)を間近に望むことができ、登山口の仁田峠周辺は例年5月にピンクのミヤマキリシマで埋め尽くされます。

雲仙岳のミヤマキリシマ(写真:シンゴさんの登山記録より)

 

午年の守り本尊・勢至菩薩

智慧の光で現世の全てを照らし、人々を迷いや苦難から救済する仏さま。観音菩薩と共に阿弥陀如来の脇侍として祀られることが多く、三仏を合わせて阿弥陀三尊と呼ばれます。縁日は毎月23日、特定の月齢に集い祈りを捧げる「月待ち」行事の中でも、勢至菩薩に祈る二十三夜は特別な日とされています。

午年の守り本尊ゆかりの山…蓑山(埼玉県・587m)

関東の吉野山とも呼ばれる桜の名所・蓑山。山頂付近は美の山公園として整備され、5月にはツツジ、6月にはアジサイと様々な花を楽しむことができます。そして、東側の高原牧場バス停から蓑山に向かう途中にあるのが二十三夜寺とも呼ばれる師慶山・医王寺。秩父十三仏霊場のひとつで、勢至菩薩をご本尊とする珍しいお寺です。午年の方は、ぜひこちらに参拝してから蓑山に登ることをおすすめします。

ツツジ咲き乱れる蓑山

 

未年・申年の守り本尊・大日如来

真言密教の本尊であり、多くの曼荼羅の中心に描かれる仏さま。全ての生き物の根源で、仏教の祖・釈迦如来をはじめ数多の仏さまもその化身とされています。背負っている光背は太陽の日輪を表すことから、密教においては宇宙そのものと言える大いなる存在。縁日は毎月8日です。

未年・申年の守り本尊ゆかりの山…大日ヶ岳(岐阜県・1709m)

文殊菩薩の項でも紹介した白山開山の祖・泰澄大師(たいちょうだいし)が、その頂を目指すために歩いたのが峰のひとつが大日ヶ岳。山頂で泰澄大師が一夜を明かす際に見た夢に大日如来が現れたことから、大日如来を祀ったとされています。山頂からは白山はもちろん、木曽御嶽山や北アルプスを望むことができます。

大日ヶ岳から望む白山(写真:NAKA-Pさんの登山記録より)

 

酉年の守り本尊・不動明王

古代インドの破壊神・シヴァ神が起源の仏さま。威厳ある険しい表情で悪人をも正しい仏道へと導き、手に持った剣で煩悩を断ち切り、災いを切り刻んでくれるとされる力強い存在です。その光背は火炎であり、焚いた炎に祈願を込めた護摩木をくべる「護摩祈祷」は不動明王ならでは。縁日は毎月28日です。

酉年の守り本尊ゆかりの山…明王山(岐阜県・380m)

岐阜県・各務ヶ原市・関市・岐阜市の境界線にそびえる通称・各務原アルプスは、標高300〜400mの低山ながら、展望にすぐれた縦走コース。その一座である明王山の麓には、美濃三不動に数えられる迫間(はさま)不動尊があり、修行のための滝や岩窟があります。ここから迫間山を経由して、展望台のある明王山へ。木曽御嶽山をはじめ、絶景の眺望が広がります。

明王山から望む木曽御嶽山(写真:(hotyさんの登山記録より)

 

戌年・亥年の守り本尊・阿弥陀如来

無量寿如来の別名の通り無限の寿命を持ち、西方極楽浄土にいらっしゃる仏さま。「南無阿弥陀仏」とお唱えした人を必ず極楽浄土へ導いてくれることから、極楽往生にご利益があるとされています。鎌倉・高徳院に座する大仏も阿弥陀如来。縁日は毎月15日です。

戌年・亥年の守り本尊ゆかりの山…阿弥陀岳(長野県・2805m)

八ヶ岳最高峰・赤岳(2899m)のまさに西方にそびえる阿弥陀岳。その山頂には阿弥陀如来が祀られており、山中の数多の石碑と共に信仰の山であることを体感できます。茅野市・富士見町・原村など西麓から望む勇姿は、赤岳以上の存在感。西に伸びる稜線上にある御小屋山(おこやさん)は、諏訪大社上社の御柱を切り出す森があることでも知られています。

赤岳から続く稜線の先にそびえる阿弥陀岳

 

「守り本尊」の山で厄除け登山を!

今回は十二支の影であまり知られていない「守り本尊」と、ゆかりの山をご紹介しました。まずは誰にでもある自分の「守り本尊」を知って、その仏さまを想うことが第一歩。

今回ご紹介した山の中には難易度が高いものも含まれますが、山麓や中腹からの遥拝でも、きっとそのご利益を授かることができるでしょう。5回に渡った連載を読んでくださったみなさまに、山の神仏からのご加護がありますよう、お祈りしながら筆を置かせていただきます。ありがとうございました。

 

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山登りがもっと楽しくなる「山と神仏」の雑学集。人気登山ガイド、太田昭彦さんによる「山と神仏」にまつわる書き下ろしエッセイ。山に関連する神様の話や、登山道で見かける宗教遺跡の謎、山麓に伝わる伝説などについて、わかりやすい語り口で解説。

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ISBN:9784635510110
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プロフィール

太田昭彦

高校ワンダーフォーゲル部時代に登山の魅力に目覚め、社会人山岳会で経験を積み、旅行業から山岳ガイドに転身。また、20歳の時に高野山で十善戒を授かってから神仏とのご縁が少しずつ深まり、42歳で巡礼先達の道を歩み始める。登山教室「歩きにすと倶楽部」を主宰して登山者に安全で正しい登山知識・技術を伝達しつつ、地元埼玉の秩父三十四観音霊場をはじめとする巡礼の道を歩く人々を先導する「語り部」としても活躍中。著書に『ヤマケイ新書 山の神さま・仏さま 面白くてためになる山の神仏の話』(山と溪谷社)ほか。

(公社)日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・埼玉山岳ガイド協会会長・四国石鎚神社公認先達・四国八十八ヶ所霊場会公認先達・秩父三十四ヶ所公認先達。
https://www.facebook.com/alkinistclub

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山岳ガイド&巡礼先達である太田昭彦ガイドの知識を通じて“新型コロナウイルス退散を祈願し、心と身体の免疫力を上げる”新時代の登山スタイルを提唱する連載。

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