丹沢山系・表尾根から塔ノ岳へ。稜線に咲くマメザクラを愛で、修験の歴史を巡る
塔ノ岳へは、大倉尾根からがポピュラーですが、今回は、表尾根から塔ノ岳へ、修験の歴史と点在するマメザクラを巡る春におすすめのコースを紹介します。
丹沢山系の山中や麓には、修験などの山岳宗教にかかわる社寺、峰、集落が多くあります。中世の日向修験の行所は八菅山を起点に大山、烏尾山、行者岳、大日、塔の峰(塔ノ岳)、竜ヶ馬場、不動ノ峰、蛭ヶ岳など丹沢表尾根や丹沢主脈等が修験の場となっていました。
マメザクラは山地に自生する山桜の一種で、丹沢では4月下旬から5月上旬に見ごろを迎えます。
小田急線秦野駅からバスに乗りヤビツ峠で下車したら、県道を下り、富士見橋を左に入ると公衆トイレがあります。登山前に少し下った左手に名水の秦野・護摩屋敷の水場で給水もいいでしょう(飲料には一度沸騰が推奨されています)。
公衆トイレ先の登山口から入山し、林道を横断して雑木林を登ります。途中ベンチが置かれ、意外と急な登りです。
上空が開ける頃、二ノ塔に飛び出します。秦野盆地を眼下にすると、稼いだ高度を実感できます。一度下り、三ノ塔を目指します。ガレ場を登っていくと、右手に三角形の大山が広がっています。
この辺りからマメザクラが点在して、青空が似合います。木橋を詰めると左に新設されたトイレ、正面にこれも新設された立派な休憩所が建つ三ノ塔へ到着です。休日には上空にパラグライダーが滑空し、眼下には秦野盆地が広がり相模湾が霞みます。
マメザクラの下を潜り、塔ノ岳へ続く表尾根を一望する台地から大下りが始まります。途中のガレ場やクサリ場は慎重に通過しましょう。
登り返すと三角形の小屋が建つ烏尾山です。山名の由来は、修験者が飛来したカラスに修行成就を祈願したため。広い山頂から振り返ると三ノ塔が高みとなっていました。
アセビが林立する尾根を下り、登山道を詰めると行者岳へ。三角点と、修験の祖・役行者が描かれる石碑が置かれた狭い山頂です。
ピークを一つ越えると、修験の場を思わせるクサリ場が現れます。登りと下りが交差して渋滞の時がありますが、焦らず慎重に。崩壊が進む丹沢山塊を象徴するかのようなガレ場の階段を登りました。
かつて名物おやじさんがいた書策小屋跡のピークに着きます。マメザクラの下でクサリ場の緊張をほぐして休憩です。表尾根も核心部に入ってきました。
しばらく登っていくと、札掛から延びる長尾尾根と合流する新大日にもマメザクラが迎えてくれました。ワンピッチで可愛い小屋が建つ木ノ又大日へ。さすが修験の山地、宗教名の山が続きます。
平坦となった登山道脇にマメザクラが点在して、左下の本谷から吹き上げる沢風が心地良く、塔ノ岳も間近になってきました。ガレ場に付いた階段を登り、岩場の急登を終えると大倉尾根から登ってきた登山者で賑わう塔ノ岳の頂上です。
往時の修験に思いを馳せて、点在する桜を愛でながら表尾根から塔ノ岳へ歩いてみてはいかがですか。
帰路はヤビツ峠まで往復、または、鍋割山経由や大倉尾根を下り大倉口へ。
プロフィール
白井源三
神奈川県相模原市生まれ。1989年ヒンドゥークシュ登山隊に参加、ゴッラゾム5100mに登頂。2005~2007年に南米取材。アコンカグアBCとインカ道をトレッキング。著書に『戸隠逍遙』(クレオ刊)、『北丹沢讃歌』(耕出版刊)、『冬の近郊低山案内』(山と溪谷社・共著)、『分県登山ガイド 神奈川県の山』(山と溪谷社・共著)など。丹沢の写真展を多数開催。
今がいい山、棚からひとつかみ
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