好きな山の仕事を続けるために――。やりがいと誇りを持って働くための「働き方改革2.0」

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団体ツアーに参加すると、登山ガイドのほかに添乗員が同行していることがある。登山ツアーの場合、その役割の違いがよくわからない人も多い。今回は知られざる、添乗員の役割と、その置かれた現状と未来について語り尽くす。

 

当コラムではこれまで2回、登山ガイドの仕事の概要登山ツアーの現状について記してきました。

「次の原稿、副業ではじめた漁師の話はどうでしょう? ヤマケイオンラインで海のネタはアリっすか?」などと、担当のTさんに相談していたのですが、よくよく考えてみたら連載のタイトルは「登山ガイド/添乗員は浮かばれない ~登山ガイド業の光と影~」。

そう、実は「添乗員」について、まだ何も触れていませんでした。全国1億人の添乗員ファンのみなさま、および添乗員のみなさん、大変申し訳ありません。今回のテーマは添乗員です。今回は、意外と知らない添乗員さんのお仕事、そして、コロナ禍で置かれた添乗員の厳しい現実について迫ってみます。

 

一般的に添乗員とはどんな仕事なのか

登山ツアーに限らず、添乗員とはツアーを滞りなく遂行するため団体旅行に同行するスタッフの事です。仕事をするにあたって旅程管理主任者という公的資格が必要ですが、国家資格というわけではなく、筆者の主観では試験はそんなに難しいものではありません。

旅行中の業務は、タイムスケジュールの管理をはじめ集合場所のアナウンス、ホテルのチェックイン作業など多岐にわたりますが、あくまで旅程管理とお客様のケアがメイン。よく勘違いされますが、バス会社に所属するバスガイドも含めて、車内や観光地で解説をする「ガイドさん」とは職種も業務内容も異なります。

そして登山ツアーは、旅行会社・登山ガイド・添乗員の「三位一体」で成り立っています。

気軽に海外へ行ける時代に戻ったら、再訪してみたいのがキリマンジャロ。添乗員の仕事としては、最強レベルにハードだが・・・

 

登山ツアーの「山岳添乗員」に任される仕事とは?

私が勤務している風の旅行社は、添乗員が同行しない少人数制の海外ツアーが売りの旅行会社です。そのため、最近は添乗に出る機会が乏しいものの、以前、所属していた登山専門旅行会社では、年間100日以上の頻度で日本各地、世界各国の山々をアテンド(同行)してきました。

観光ツアー以上に、登山ツアーにおける添乗員の役割は大きいものです。一般的な旅程管理に加え、山中では「バテてしまい途中下山するお客様を麓へお送りし、帰宅までの交通機関を手配。会社に電話で報告した後、稜線にいる本隊を走って追いかける」なんてことも珍しくなく、むしろ登山ガイド/山岳ガイドをサポートするサブガイドとしての存在に近いのかもしれません。

また、夏山シーズンともなれば、下山した翌日には新しいツアーへ同行するというハードスケジュールも頻発します。山岳添乗員は、添乗員という職種の中で最もマッチョな業態と言って良いでしょう。

剱岳・早月尾根。難所ではお客様のサポートが必須なのが登山ツアーの添乗員です

 

責任者だが立場は弱い添乗員

添乗員は英語では、「ツアコン(ツアーコンダクター/旅行の指揮者)」とも呼ばれますが、この言葉の通り、添乗員は指揮棒よろしく旅行会社の旗を振って旅程管理を行う責任者です。しかし、その実態は「責任者」という言葉から程遠いものです。

「A高速が事故で渋滞しているので、B高速経由で帰りたい」というケースですら、オフィスの担当者へ都度了承を得ないといけない会社があるほど、添乗員には裁量権が認められていません。

添乗員の立場が弱い理由、それは彼らの多くが非正規雇用者だからです。添乗員は人材会社から派遣される派遣スタッフがほとんどを占めており、「プロ添乗員」などと呼ばれるフリーランスの方も、業務委託契約で旅行会社の仕事を請け負います。

そのため、仕事を発注する側であるプロパー社員との力関係は明白となってしまいます。

「やばい。乗継便が欠航した(っぽい)」の図。漢字を読み取り、必死に対応策を練るのも添乗員の仕事です

 

コロナによって添乗員の離職が急増

現在、新型コロナウイルスによって苦境に立たされている旅行業界ですが、中でも影響が大きいのは添乗員です。個人で山行を計画して集客できる登山ガイドと異なり、添乗員は旅行会社の“ツアーありき”の仕事です。コロナ禍で添乗できるツアーが減ったのは仕方ないこととは言え、派遣社員・契約社員という職務形態のため、雇用調整助成金を受給することが難しく、ここのところ添乗員の離職率が急増しています。

昨夏から始まり、冬には中断してしまったGo To事業。感染が拡大せずに継続していれば、添乗員がここまで追い込まれることもなかったのかもしれません。そもそも、Go To自体が旅行業界の足元を支えているスタッフ達のセーフティーネットとなる仕組みだったかどうかは議論の余地がありそうですが、いずれにせよ、添乗という仕事にやりがいと誇りを持っていた多くの方が、泣く泣く職を離れざるを得ない現状を悲しく思います。

 

好きな仕事を続けるため「副業」する

引き続き、コロナに立ち向かうことになった令和3年度。添乗員に限った話ではないのかもしれませんが、収入減にあえいでいる方は多いと思います。この困難を乗り越えるため、私たちは何をするべきか。その1つは、「好きな仕事を続けるために、副収入を得る手段を考える」ことではないでしょうか。

実は、私の妹の本業はプロの芸人です(※詳細はWiki参照)。そして、ロボットエンジニアをもう一つの本業として捉えています。収入面の不安を払拭し、無理なくお笑いを続けるため、時間に縛られないエンジニア職に就くべく、プログラミングを独学で覚えたというカニササレアヤコ氏。兄ながら賢いやり方だなぁと感心してしまいます。

昨年4月に風の旅行社でも副業が推奨され、私もこの1年ほど、漁師やポニー曳きなど様々なアルバイトにチャレンジしてきました。この話の詳細は、また別の機会にしたいと思います。もはや「海の物とも山の物ともつかぬ」感じになってきましたが、色々経験すると仕事の範囲が広がってくるもので、現にこうしてヤマケイオンラインに原稿を書いているのも、NHKにて「旅行会社スタッフが漁師になった」と放映されたことがきっかけの一つです。

昨今はギグワークやクラウドソーシングといった、スキマ時間で収入を得る新しい働き方にも注目が集まっていますが、最低賃金や労働基準、健康保険などの基準や補償が法整備されていないことが問題となっているようです。しかし、きっと近い将来にルール化され、「働き方改革2.0」と呼べるような自由な働き方を目指すムーブメントが起きるはずです。

カニササレアヤコ氏のように本業を複数持つのは難度が高いかもしれませんが、「やりたい仕事+副業」、もしくは「本業+やりたい仕事」というスタイルをとる人は、これから増えてくるのではないでしょうか。平日午前は漁師の仕事。お昼寝を挟んで夕食時間帯はUber Eatsの配達員。休漁日の日曜には添乗員として登山ツアーにアテンド――。

そんな働き方で普通に収入を得られる社会。ちょっと素敵だとは思いませんか?

 

プロフィール

川上哲朗

日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ、旅程管理主任者。(株)風の旅行社で主にネパールトレッキングの企画・販売を担当。
コロナ禍において山のライター、シラス漁師、鮮魚店の売り子、ポニーのお世話などの副業を始め、あらためて自分の好きなことを仕事にする喜びを感じている。1985年生まれの子育て世代。ペットは深海生物のオオグソクムシ 。

登山ガイド/添乗員は浮かばれない ~登山ガイド業の光と影~

旅行会社勤務の登山ガイドが語る、山と仕事に関するあれこれ。一見楽しそうに見えるガイド業、その実際は?

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