雲を見れば山の天気がわかる!? 遭難防止&山の楽しみを広げる「観天望気」をはじめてみよう!

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最新号の『山と溪谷』2021年5月号は、「読図」「ロープワーク」「観天望気」の三大技術を学び直す特集になっている。今回は「観天望気」に焦点を当て、特集の一部を紹介しよう(本記事は5月号に掲載した記事をWeb掲載用に再編集したものです)。

最新号の『山と溪谷』2021年5月号は、「読図」「ロープワーク」「観天望気」の三大技術を学び直す特集になっている。今回は「観天望気」に焦点を当て、特集の一部を紹介しよう(本記事は5月号に掲載した記事をWeb掲載用に再編集したものです)。


監修=猪熊隆之、文=大関直樹、イラスト=秋山貴世

監修=猪熊隆之
文=大関直樹
イラスト=秋山貴世

『山と溪谷』2021年5月号

山と溪谷2021年5月号 山と溪谷2021年5月号

特集「登山の三大技術を学び直す 読図・ロープワーク・観天望気」
・第1部 読図
・第2部 ロープワーク
・第3部 観天望気
第2特集「再発見・奥多摩」
綴じ込み付録「奥多摩ハイキングマップ」など


発売日:2021年4月15日 
価格:本体価格1210円(税込)
ページ数:208 商品ID:2821901558

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[ 教えてくれた人 ] 猪熊隆之さん
いのくま・たかゆき/気象予報士。日本初の山岳気象専門会社ヤマテンの代表取締役。主な登攀歴にエベレスト西稜(7700m付近まで)、剱岳北方稜線全山縦走など。豊富な登山経験を生かして、海外登山隊への気象予報によるサポートを行うなど、多方面で活躍。著書『山の観天望気 ~雲が教えてくれる山の天気~』(ヤマケイ新書)など。

山の天気は変わりやすいと言われるけど、どうして?

平地で天気が崩れるときは、台風や低気圧、前線が接近することが多い。これらの周辺では上昇気流が発生し雲ができるからだ。しかし、山は起伏に富んだ地形のため、低気圧などがなくても上昇気流が発生しやすく天気が変わりやすいと言われている。

下のイラストのように、「平地」では風が吹いても障害物となる「山」がなければそのまま吹き抜ける。しかし、「山」がある場合は、風が山の斜面に沿って上昇し「雲」が発生しやすくなる。特に海からの風は水蒸気が多いので雲ができやすい。

気象遭難が発生しやすいのは、平地では晴れているのに、山では荒天のとき。海側から風が吹いているときや、風が強く低体温症や転・滑落のリスクが高まるときにはその場合が多くなる。

このように山の天気は、同じ空の下でも平地とはかなり違ってくる。登山者はそれをしっかりと意識して、山で活用できる天気予報の見方や、観天望気の知識を身につけることが求められているのだ。

◇ 平地の天気

海から湿った風が吹いてきても、山がなければ上昇することなく吹き抜ける
海から湿った風が吹いてきても、山がなければ上昇することなく吹き抜ける

◇ 山の天気

海から山に湿った風が吹くと、山の斜面に沿って上昇し、雲が発生する
海から山に湿った風が吹くと、山の斜面に沿って上昇し、雲が発生する


山の天気がわかるようになるとどんなメリットがあるの?

◇ 気象遭難の防止に役立つ
2019年の長野県における山岳遭難の遭難態様を調べてみると、「転・滑落」が全体の32.8%と最も多く、次いで「転倒」(24.9%)、「道迷い」(15.5%)、「疲労凍死傷」(10.2%)となっている。

これらのうち転・滑落には、雨でスリップしたり、強風でバランスを崩したりという事例が含まれている。また、霧による視界不良で道迷い遭難に至ったケースもある。このような気象変化に起因する遭難は、平地の予報と山の天気が大きく異なるときに起こることが多い。山の天気の特徴や予測ができるようになると、気象遭難のリスク回避につながる。

◇ 登山の楽しみが広がる
山の上にはさえぎるものがなく、ときには雲を上から眺められるなど、空を観察する絶好のフィールドだ。山と飛行機からしか見られないブロッケン現象などの美しい光学現象もある。

登山中は、次の行程を考えてつい足を速めてしまうことも多いが、ときには立ち止まって空を見上げてみよう。大きく深呼吸をしながら、ぼんやりと眺め続けるだけでいい。刻一刻と形を変えていく雲は、一瞬として同じ姿を見せないことに気がつくだろう。そして、雲の名前を覚え、雲のでき方を知ることによって、空を眺める楽しさをさらに感じることができるようになるはずだ。


観天望気って何?

実際にフィールドで空にある雲を見たり風を感じたりしながら、天気がどのように変わっていくかを予測することを「観天望気」という。ただし、漠然と空を見上げるだけでは何もわからない。まずは風上側から雲が近づいていないかをチェックしてみよう。その際、後ほど解説する「十種雲形」を覚えておくと雲の種類を判別できる。

また、どんな雲が近づくと悪天の予兆になるのかも知っておこう。

たとえば、夏をのぞいた春、秋、冬なら西の空に現れる雲を見ることで天気の崩れを判断できる。また、北アルプスなど日本海に近い山にいる場合、日本海側の空に天気を崩す雲がないかを確認することも必要だ。

加えて、空の高いところと低いところに別々の雲が出ている場合は、低い雲に注目するとよい。高い雲よりも低い雲のほうが動きが見やすく、そこから風向きを知ることができる。海側から雲が近づいてくるときは天気の崩れに直結するので、注意が必要だ。

◇ 観天望気で注目する「3方向の雲」

観天望気で注目する「3方向の雲」

【風上側の雲】 風上側に発達した雲があると、風に乗って雲が近づく可能性が高い。雲が風上側にあるの か風下側にあるのかを、常に見極めることが大切だ。ただし、登山口や谷の中では、風は地形の影響を受けてしまう。風向きは、周囲に高い山などがない開けた場所で確かめよう。

【日本海側の雲】 北アルプスのように日本海に近い山岳地帯では、日本海側に積乱雲が現われると天候が急変することがある。日本海を見渡せる場所に出たら、必ず日本海側に厚みのある雲がないかを確認しよう。帯状に連なった雲が接近してくる場合は、天気が急変する予兆だ。

【西側の雲】 日本付近の上空では、夏を除いて偏西風が吹くため、低気圧や前線などは西から東へ進んでいく。天気が西から変化して東に移るのもそのためだ。もし西の空から巻層雲が広がり、高層雲に変わっていくと、天気は崩れていく可能性が高い。


◇十種雲形(代表的な雲の種類)

十種雲形(代表的な雲の種類)

【巻雲】 空高くに現われ、カーブを描く半透明な雲。乾いたすじ状だと好天、湿った感じで、かぎ状だと悪天の前兆になる

【巻層雲】 空一面に広がる薄い雲。この雲が高層雲に変わると天気は崩れやすい。巻積雲が巻層雲に変わるときは天気に無関係なことが多い

【巻積雲】 魚のうろこのような塊状の雲。ひとつひとつの塊が大きくなり、高度が低くなるようだと天気が崩れる恐れがある

【高層雲】 「曇り空」のときに見られる、空全体を覆う灰色の雲。巻層雲が厚みを増し高層雲に変わると、数時間後に雨が降り出すことが多い

【高積雲】 巻積雲に似ているが、ひとつひとつの塊が大きいのが特徴。雲量が増えて空全体に広がると天気は悪くなる

【積乱雲】 大雨や雷雨をもたらす非常に危険な雲。上空に寒気が入るなど大気の状態が不安定なときに現われることが多い

【乱層雲】 空一面に広がる暗い灰色の雲で、雨や雪をもたらす。しとしとと長時間降るのが特徴で、雲底が暗いほど強く降る

【層積雲】 畑のうねのように見える雲。雲頂高度が2㎞以下のことがほとんどなので標高2000m以上の山では晴れることが多い

【積雲】 「わた雲」とも呼ばれ、白い綿のように見える雲。大気が安定しているとすぐに消えるが、不安定だと積乱雲に成長する

【層雲】 霧が発生するときにできる、通称「きり雲」。ただし山ではほかの雲でも霧ができるので、「きり雲」かどうかの判別が難しい

…と、今回はここまで。山の天気の特徴と観天望気の基礎知識について紹介した。5月号では、観天望気に関するさらなるハウツーに加え、読図とロープワークの基礎知識も紹介しているのであわせて楽しんでほしい。

また、観天望気に興味をもった人は、今回教えてくれた猪熊さんが執筆した書籍もおすすめだ。

ヤマケイ新書 山の観天望気 雲が教えてくれる山の天気

ヤマケイ新書 山の観天望気 雲が教えてくれる山の天気

山で見かける雲の特徴を知る楽しみや、急変する山の天気から身を守るリスクマネジメントを紹介します。株式会社ヤマテンの代表・猪熊隆之さんが日本中で行ってきた人気の講習会「山の観天望気」をまとめたテクニック集。

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『山と溪谷』2021年5月号

山と溪谷2021年5月号 山と溪谷2021年5月号

特集「登山の三大技術を学び直す 読図・ロープワーク・観天望気」
 ・第1部 読図
 ・第2部 ロープワーク
 ・第3部 観天望気
第2特集「再発見・奥多摩」
綴じ込み付録「奥多摩ハイキングマップ」など


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発売日:2021年4月15日  価格:本体価格1210円(税込)
ページ数:208 商品ID:2821901558
https://yamakei.co.jp/products/2821901558.html

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年4月号の特集は「全国 花と新緑の名低山」。木々や草花が芽吹き、山肌が華やかに彩られる季節となりました。うららかな春の日差しを浴びながら、花と新緑の低山をのんびり歩いてみませんか? 全国のガイド著者が厳選した春の名低山を紹介します。第2特集は、雪山登山、雪山ハイキング、山スキーの厳選コースを集めた「残雪の山」です。

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From 山と溪谷編集部

発刊から約90年、1000号を超える月刊誌『山と溪谷』。編集部から、月刊山と溪谷の紹介をはじめ、様々な情報を読者の皆さんにお送りいたします。

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