いよいよ尾瀬も冬じたく。小屋と見守ってくれてた燧ヶ岳に今シーズンの感謝を伝えます

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第5回は尾瀬での、はじめての小屋閉めのこと。小屋と見守ってくれてた燧ヶ岳に今シーズンの感謝を伝えます。

燧ヶ岳の懐に抱かれた尾瀬見晴地区に佇む「原の小屋」新管理人から、尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなどをお届けします。第5回は尾瀬での、はじめての小屋閉めのこと。小屋と見守ってくれてた燧ヶ岳に今シーズンの感謝を伝えます。

文・写真=髙妻潤一郎


小屋閉め。なんとも言えず切ない言葉である。数ある接客業や宿泊業の中でも休業期間がある特殊な環境の「山小屋」。もちろん通年営業の山小屋もあるが、多くの山小屋が春や初夏から秋までの期間営業としている。

そんな中、私たちは毎年、半年間お世話になった小屋に対する、お礼として隅々まで掃除をして、小屋を後にする。それは翌年、私たちがなんらかの理由で来られなくなる可能性もあるからで、もしそうなってもよいようにと考えてのことだ。つまりすべてにおいて一度リセットをする不思議な職業とも言える。また翌年、「小屋開け」という新たなスタートで新スタッフと共に入山する時には、彼らに少しでもきれいな小屋を最初に見てほしいというのも理由の一つである。

本来のシーズンであれば10月に入るといよいよ本格的な小屋閉め作業をスタートするが、2020年は新型コロナウイルスの影響で営業をしなかったため、9月末までをめどに小屋閉めを行った。私たちにとっては初めての「原の小屋」の小屋閉めでもあるため、丁寧に行うことを念頭において作業を進めていった。

尾瀬・原の小屋

鍋やフライパンなどの厨房器具も一つ一つ丁寧に洗い太陽光で消毒する
鍋やフライパンなどの厨房器具も
一つ一つ丁寧に洗い太陽光で消毒する

気になるのが冬の対策である。4月に小屋入りした時を思い出しながらまた元通りに戻していくようなものであるが、なぜそうするのか? もっとよい方法はないのか? などと一つ一つ自問自答していくと、さまざまな疑問にも答えが見えてくるから不思議だ。そして長年この小屋を守ってきた檜枝岐村の方々の知恵をほんの少しでも垣間見ることができるのがうれしい。さらに時間がある時に、どのように雪下ろしをしていたのか? など、疑問に思うことを見晴地区の5軒の小屋の先輩ご主人たちにも聞き、情報を得ようと努力してきた。秋は台風の影響はなかったものの、晴れの日が続かないシーズンでもあった。そのため、外作業が思うようにはかどらず、若干焦りも見え隠れしたが、10月上旬にヘリコプターによる最後のゴミの荷を下ろした後、私たちは山を下りることが出来た。

さて、その最後の下山ルートであるが、私たちは檜枝岐村の御池登山口、それも燧ヶ岳を越えて行こうと決めていた。これは来シーズンに向けて登山道の把握をするためだが、実はそれだけではない。私たちが初めて小屋と対面した4月のスタートも檜枝岐から入ったように、最後もそこでしめくくりとする。そして山頂で山の神様にもお礼をしたい。そんな気持ちから山越えの道を選んだのである。

最終日の朝。念入りに小屋閉めを行った後、小屋との別れを惜しみながら出発した。一歩一歩、私たちは今シーズンのさまざまな出来事を振り返りながら、足を山頂に進めていった。天候はまずまず。山頂からは尾瀬ヶ原はもちろん尾瀬沼方面も見える。まさに尾瀬全体を俯瞰する絶好のビューポイントである。「今シーズン、山でお仕事をさせていただいてありがとうございました」。お礼に手をあわせたのも束の間、さきほどまで展望の利いた山頂付近にも檜枝岐方面からのガスが徐々に上がり始めていた。私たちは静かな頂を後に、御池登山口に向かってガスの中に吸い込まれていった。

尾瀬・原の小屋

祠のある燧ヶ岳の双耳峰のひとつ俎嵓(まないたぐら)山頂にて
祠のある燧ヶ岳の双耳峰のひとつ
俎嵓(まないたぐら)山頂にて

山と溪谷2021年1月号より転載)

 - 尾瀬 - 原の小屋 OZE ・ HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。


宿泊料金と予約について

山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

※2021年度は5月22日からの営業を予定しています。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。

- 尾瀬 - 原の小屋 OZE・HARA NO KOYA

尾瀬「原の小屋」

本州最大級の高層湿原、尾瀬ケ原が広がり、日本百名山にも数えられる燧ヶ岳と至仏山の2座を有する特別保護地区、尾瀬国立公園。原の小屋は、ブナの原生林が広がる燧ヶ岳の山麓、6軒の山小屋が集まる福島県檜枝岐村見晴地区(下田代十字路)にあります。長きにわたり、厳しい冬の風雪にも耐えてきた重厚な建物の中は、静かで温かい山の時間が流れています。
※2021年度は5月22日からの営業を予定しています。最新情報はHPやSNSでご確認をお願いします。


山小屋直通電話:090-8921-8314
http://www.oze-haranokoya.com/
https://www.facebook.com/haranokoya/

宿泊料金と予約について

プロフィール

髙妻 潤一郎

1964年、愛知県生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド ステージⅢ。アルパインツアーサービス(株)、山岳写真家の故白簱史朗氏の助手を経て、2005年から15年間、南アルプスの山小屋の管理業務に携わる。2020年尾瀬・原の小屋の管理人に就任。
http://www.oze-haranokoya.com/

- 尾瀬 - 原の小屋 管理人便り

“尾瀬のおへそ”とも言うべき見晴地区に佇む「原の小屋」。60年以上の長きにわたり営業を続けているこの山小屋に、2020年、新しい管理人がやってきた。本連載では尾瀬のこと、人のこと、山小屋のことなど、新管理人から日々のたよりをお届けする。

編集部おすすめ記事