将来的な目標は、持続可能な保全システムの確立。登山道整備に取り組む「大雪山・山守隊」|日本山岳遺産の横顔 vol.06

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行われている。第6回は、北海道の巨大な大雪山エリアで、登山道整備に取り組んでいる一般社団法人大雪山・山守隊を紹介する。

写真=大雪山・山守隊、取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年6月号掲載記事

写真=大雪山・山守隊
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年6月号掲載記事

 

★日本山岳遺産基金 × ヴィブラムジャパン登山道整備プロジェクト助成を希望する団体募集

大雪山系間宮岳で石組崩落箇所の修復作業をする山守隊メンバーら

大雪山・山守隊 〈 2018年度認定 〉

Area:大雪山
Recent activity:登山道整備
Group profile:
官民協働で2011年に始まった登山道整備イベント「たまには山へ恩返し」の企画メンバーが集まり、2018年に一般社団法人化。生態系の底辺の生物がすめる環境復元を提唱する「近自然工法」の考えのもとに活動する。
https://www.yamamoritai.com/


北海道の中央部に位置する広大な大雪山系で、総延長約30kmにも及ぶ登山道を地道に整備し続けているのが、一般社団法人「大雪山・山守隊」だ。

同法人が主催する「たまには山へ恩返し」と題した登山道整備イベントは今年で11年目。無雪期にほぼ毎月開催し、木道や看板の修復、資材運搬、植生復元などの作業を行っている。ホームページやSNSで告知すればすぐに道内外から多数の参加者が集まる人気ぶりで、リピーターも多いという。コロナ禍では、人数制限などの感染対策を講じている。

参加者の中心は「恩返し」の趣旨に賛同する登山愛好家。もともと山岳整備の民間企業を経営し、山の利用と保全のバランスを模索していた岡崎哲三代表は、イベントで〝楽しそうに〞作業する参加者の姿に気づかされたことがあった。

「整備の技術が上がっても、それを使うシステムが構築されないかぎり、荒れた山は直りません。活動にすごく協力的な登山者の様子を見て、システムの根底を支えるのは山を利用する彼らであると考えるようになりました」

そして、その気づきは手応えに変わってきている。

「作業をしていくうちに植生が回復し山がよみがえると、参加者が喜びや、やりがいを感じます。そして、『本当に山のためになっているんだ』と実感した各自ができることを続けてくれています」

登山道の整備イベントには子どもたちの参加も多い

整備イベントには子どもたちの参加も多い

活動への共感は広がりを見せ、2020年には知床でも整備イベントを開催。今後、北アルプスでの実施も計画している。

同法人の取り組みは多岐にわたる。地元の中学生と協働で整備したり、積雪期にスノーモービルを使った荷上げを試みたり。大雪山の歴史や文化、課題を伝える写真展も開いてきた。

低予算で多くの資材を運搬しようと積雪期にスノーモービルを活用。大雪山山守隊

低予算で多くの資材を運搬しようと
積雪期にスノーモービルを活用した

将来的な目標は、大雪山国立公園の公園管理団体となり、登山道の維持・管理や利用に関わる雇用を生み出すこと。持続可能な保全システムの確立が必須だからだ。岡崎さんはこう語る。

「山の荒廃が大雪山だけでなく、日本各地で進み、放っておけばますますひどくなります。資金や人材など課題は多いですが、できない言い訳をするのではなく、協力してくれる人たちと少しずつでも行動していきます」

★日本山岳遺産認定地 詳細:大雪山 黒岳 [ 北海道 ]一般社団法人 大雪山・山守隊 (2018年)

申請団体募集中! 日本山岳遺産基金×ヴィブラムジャパン登山道整備プロジェクト

日本山岳遺産基金は、ヴィブラムジャパンと協働して「登山道整備プロジェクト」を実施します。国内で登山道整備を行っている団体に助成金を拠出し、支援していくというものです。7月15日(木)まで助成を希望する団体を募集しています。

日本山岳遺産基金×ヴィブラムジャパン登山道整備プロジェクト

助成対象となる活動費の主な用途

  • 登山道の整備に関わる経費(資材・物品購入費、輸送運搬費、広報費など)。
  • 2021年度の活動に使用するもの。
    ※2021年9月~10月ごろに活動の様子を取材いたします。

助成金総額 100万円(予定)
助成団体数:1~複数団体

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/2021/04/post-0073.html

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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