南アルプスの天気の傾向と特徴 夏の天気は南風がカギ握る

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日々なんとなく予報された天気マークを追いかけているだけでは、天気についてわかっているつもりのまま終わってしまいます。その天気予報が予想された要因まで考えを巡らせることが大切ですが、なかなか難しく感じる方もいるかもしれません。そこで、各山エリアに区切って、天気の仕組みと傾向を解説します。今回は南アルプス。大まかな仕組みがわかれば、天気予報を理解しやすくなるはずです。

 

南アルプス・・・どんな山域?

赤石山脈は諏訪湖周辺から静岡県中部までの南北120km以上に連なる長大な山並みですが、一般的に南アルプスというと赤石山脈の中でも特に標高の高い鋸岳から光岳までの一帯を指すようです。それでも南北の広がりはおよそ50km。3000mを超える高峰が名を連ね、日本を代表する高山帯です。古くから甲斐の白根として知られており、鎌倉時代に成立した平家物語にも東海道から見える雪山として登場します。

南アルプスの地形は複雑です。登山マップを一目見ただけではなかなか全体像がつかめません。そこで「仙丈ケ岳から光岳までがつながった赤石山系」「白根三山と白根南嶺からなる白根山系」「甲府盆地へ突き出した甲斐駒・鳳凰山系」の3つに分けると、ずっと理解がしやすくなると思います。登ってみると、それぞれの山系で山の趣もやや異なるような気がします。

 

南アルプス 天気のカギ握る風向き

一般的に、天気の変化は風向きの影響を非常に大きく受けています。南アルプスの天気を考える場合も、風がどこから吹いてくるかが重要な手がかりです。まずは、日本列島全体の天気傾向を左右する風向きから見ていきましょう。

天気予報を組み立てるときに重要なのは、上空5500m付近の大気の流れです。天気予報で『上空の気圧の谷』という言葉が登場するときは、たいていこの高さの流れを念頭に置いています。例えば、5500m付近の風向きが、南西の流れになっているときは、太平洋からの湿った空気が供給されやすく、日本列島は天気が悪化することが多いと考えられます。逆に、北西の流れになっているときは、水蒸気の供給が減り、天気は回復傾向を見せる場合が多いと考えられます。流れの向きが天気の骨格を左右しているのです。

上記の内容は、ざっくりとしたスケールの大きな傾向ですが、もっと小さな規模で、似たようなことが南アルプスにも当てはまります。南アルプスは中部山岳の一番南側にあり、太平洋に向けて延びています。したがって、太平洋から湿った空気の供給を受けやすい南風(南西~南東)の場合に天気が崩れやすく、逆に北風の場合には晴れやすい傾向があります。


空気の流れを作る要因は高気圧や低気圧、海と陸地の温度差などさまざまですが、天気図を見て空気の流れを想像する習慣を持つと、天気予報を深く理解することができるはずです。

例えば、日本海を低気圧が進む場合、南アルプスは低気圧に向かう南風が吹きつけるため、地形効果で平地以上に雲が発生しやすく、強風が吹き荒れてうまく行動できない可能性があります。一方、盛夏に登場する「クジラの尾型」と呼ばれる南からの高気圧が日本列島付近に張り出されている気圧配置では、南アルプス周辺は北西風が吹くと考えられるので、晴れベースの天気が予想されるのです。

ただ、安定して晴れると思われるクジラの尾型でも、天気を崩すものがあります。天気図に直接書き込まれることがない「ヒートロー」の存在です。

 

穏やかな夏の日の天気を左右する「ヒートロー」

ヒートローは熱的低気圧とも呼ばれます。夏の晴天時、内陸部で気温が上昇すると、その付近で上昇気流が発生し、天気図には描かれない規模の小さな低気圧が発生します。これがヒートローです。

ヒートローの中心では天気の崩れはあまりないことが多いのですが、ヒートローに向かって湿り気を持った海風が流れ込むことから、周辺では局地的に対流雲が発生し、ときには夕立をもたらします。気象条件によっては積乱雲にまで発達します。この降水は午後3時から午後6時くらいがピークで、標高の高い地点ほど早く天気が崩れ始める傾向があります。つまり、風の集まる尾根で雲が発生し、風に流されて周辺に移動するのです。

より詳細に天気を予想するには、ヒートローのできる位置も重要だと考えられます。例えば、ヒートローが南アルプス南部に発生したときよりも、松本盆地に発生した場合の方が、南風が内陸部まで届きやすく、南アルプス北部でも対流雲が発生しやすいことが考えられます。

ただ、実際の天気を見てみると、そのような傾向を見出すことは難しいので、ヒートローが予想される場合には、その周辺で対流雲が発生する可能性が高いと単純に考えたほうが、リスクが少なく済みます。登山者にとって非常に厄介な存在であるヒートローですが、地上天気図には記載されません。ですが、気象モデルでは内陸にできる低圧部や風の循環として表現されています。気象モデルを見る機会があるのなら、ヒートローの有無を確認するといいでしょう。

一方、夜間は内陸の高地にたまった冷気が海に向かって吹き出すため、南アルプス山麓の富士川沿いでは北風が卓越します。大気の状態は安定し、雲は消え、満点の星空が広がります。そして、日が昇ってまた気温が上昇すると、ヒートローの周辺で対流雲が発生するのです。夜から朝にかけては天気がいいのに、午後になると雲が広がってしまうのは、このような風向きの移り変わりを把握していると、理解がしやすくなります。

 

プロフィール

宮田雄一朗

日本気象協会所属の気象予報士。山梨県で気象キャスターをしています。天気予報をきちんと伝えられるように奮闘中。日々の天気の話題の中で、登山にちょっと役立つ知識もお届けします。

日本気象協会

日本の気象コンサルティングサービスのパイオニアとして1950年に創立。以来、気象・環境・防災などに関わる調査解析や情報提供を行っている。
近年ではAIやIoT、気象ビッグデータの活用を通じ気象の調査解析、情報提供の精度を向上させ、気候変動への適応など持続可能な世界を実現する活動を支援している。
 ⇒tenki.jp

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