“花の宝庫”とも呼ばれる入笠湿原の美観は、放っておいては守られない。生態系保全に取り組む「入笠ボランティア協会」|日本山岳遺産の横顔 vol.07

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行われている。第7回は、南アルプス北端に位置する長野県の入笠山の湿原エリアで生態系保全に取り組む入笠ボランティア協会を紹介する。

写真=入笠ボランティア協会、取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年7月号掲載記事

写真=入笠ボランティア協会
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年7月号掲載記事

 

入笠ボランティア協会のメンバーたち

入笠ボランティア協会 〈 2017年度認定 〉

Area:入笠山
Recent activity:生態系保全
Group profile:
地元有志が集まって2003年に設立。入笠山や入笠湿原の生態系保全に取り組む。活動には地元長野県だけでなく、関東や関西など各地から参加がある。2018年に日本山岳遺産基金を活用し、外来種の駆除を行った。
https://nyukasa.com/

南アルプス北端の入笠山(1955m)の中腹に広がる入笠湿原。約1.85haの広大な湿原周辺には、春から秋にかけてニホンスズランやノハナショウブなど100種類を超える花と山野草が咲き継ぐ。ゴンドラ利用でアクセスできる手軽さもあり、老若男女のハイカーに親しまれているエリアだ。

「花の宝庫」とも呼ばれる入笠湿原の美観は、放っておいては守られない。長年手入れを続けているのが「入笠ボランティア協会」だ。湿原近くに立つ山彦荘のオーナー伊藤高明さんが約40年前に保全活動を始め、取り組みに賛同した地元住民らが徐々に加わった。

8月下旬に一面に咲くエゾリンドウ

8月下旬に一面に咲くエゾリンドウ

2003年に協会を発足。今では、入笠山や湿原の“ファン”である県内外の登山者たちも加わり、200人前後で活動している。

全体活動は年5回。シーズンイン直前の4月半ば、湿原と遊歩道を区別するロープ張りから始まる。その後、秋まで草むしりやゴミ拾いなど地道な作業が続く。風や人の移動によって種が運ばれ生えた外来種やイネ科の植物を刈り取る。全体活動のほか、「いつでもできることを」を合言葉にメンバーが随時作業。湿原だけでなく、入笠山の登山道整備も行ってきた。

沢崎立雄会長は説明する。

「手入れしないとあっという間に帰化植物が広がり、もともと自生している植物の生育を妨げてしまう。景観や生態系を維持するには人の手が欠かせない場所です」

入笠湿原内の雑草除去作業

入笠湿原内の雑草除去作業。最近はコロナ禍で大勢が
集まれないが、地元会員を中心に活動を続ける

現在、課題になっているのが会員の世代交代という。今年、75歳の小林安寛さんが10年間務めた会長職を52歳の沢崎さんに引き継ぐなど50歳前後の数人が運営に加入したものの、メンバーの多くが高齢で、さらに若い世代へ協力を呼びかけている。

7年前から、地域のスポーツ少年団の小中学生と一緒に作業する機会をつくった。「将来、一人でも仲間になってくれれば」(沢崎さん)との思いで、子どもたちに活動の意義を説明している。

引き続き作業を行う小林さんは「登山者が風景を見て喜んでくれるのが励み。先輩方から勉強した保全方法を次の世代に伝えたい」と話す。沢崎さんは「協力者を増やすためにも、入笠湿原の魅力を発信したい」と述べた。

★日本山岳遺産認定地 詳細:入笠山 [ 長野県 ]入笠ボランティア協会 (2017年)

申請団体募集中! 日本山岳遺産基金×ヴィブラムジャパン登山道整備プロジェクト

日本山岳遺産基金は、ヴィブラムジャパンと協働して「登山道整備プロジェクト」を実施します。国内で登山道整備を行っている団体に助成金を拠出し、支援していくというものです。7月15日(木)まで助成を希望する団体を募集しています。

日本山岳遺産基金×ヴィブラムジャパン登山道整備プロジェクト

助成対象となる活動費の主な用途

  • 登山道の整備に関わる経費(資材・物品購入費、輸送運搬費、広報費など)。
  • 2021年度の活動に使用するもの。
    ※2021年9月~10月ごろに活動の様子を取材いたします。

助成金総額 100万円(予定)
助成団体数:1~複数団体

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/2021/04/post-0073.html

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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