憧れの北アルプス・槍ヶ岳の穂先に新人編集部員が挑む! 高い人気を誇る槍沢コースの魅力とは

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北アルプスの名峰のなかでも異彩を放つ山容の槍ヶ岳。その入門として知られ、上高地から槍沢沿いに槍ヶ岳をめざす「槍沢コース」には、いったいどんな魅力があるのだろうか。
※本記事は『山と溪谷』7月号に掲載した記事をWeb掲載用に再編集したものです。

北アルプスの名峰のなかでも異彩を放つ山容の槍ヶ岳。その入門として知られ、上高地から槍沢沿いに槍ヶ岳をめざす「槍沢コース」には、いったいどんな魅力があるのだろうか。
※本記事は『山と溪谷』7月号に掲載した記事をWeb掲載用に再編集したものです。


写真=星野秀樹、文=横山数馬(元山と溪谷編集部員)

写真=星野秀樹
文=横山数馬(元山と溪谷編集部員)

『山と溪谷』2021年7月号

山と溪谷2021年7月号 山と溪谷2021年7月号

特集「槍・穂高大全」
 ・第1部 不朽の名ルート
 ・第2部 静寂の名ルート
第2特集「夏山登山 体のトラブル対策術」
綴じ込み付録「槍ヶ岳・穂高岳詳細登山 MAP2021」「エリア研究4尾瀬」


Amazonで見る

発売日:2021年6月15日  価格:本体価格1,320円(税込)
ページ数:212 商品ID:2821901560
https://www.yamakei.co.jp/products/2821901560.html

『山と溪谷』2021年7月号

山と溪谷2021年7月号 山と溪谷2021年7月号

特集「槍・穂高大全」
・第1部 不朽の名ルート
・第2部 静寂の名ルート
第2特集「夏山登山 体のトラブル対策術」
綴じ込み付録「槍ヶ岳・穂高岳詳細登山 MAP2021」「エリア研究4尾瀬」


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価格:本体価格1,320円(税込)
ページ数:212
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よこやま・かずま
2020年入社の元本誌編集部員。現在は書籍編集部にて修行中。北アルプスの山に登るのは2回目で、槍ヶ岳は初。動物や昆虫などを観察しながら、のんびりと山に登るのがいちばんの楽しみ。

槍ヶ岳への登路で最も登山者が多い槍沢コースは、歩きやすい道が続き、入門コースとされている。しかし、人気の理由はそれだけではないはず。念願叶って槍に初挑戦する私は、その魅力を確かめるべく、槍沢コースの取材へ出かけることにした。

上高地に着いたのは昼ごろ。以前、奥穂高岳へ向かったときは、横尾までの長い樹林帯に驚いた。槍沢経由で槍ヶ岳に向かうには、そのさらに奥まで進むということで、気が引き締まる思いだ。

横尾から槍ヶ岳方面へ進む。緩やかな勾配の樹林帯が続く

初日は槍沢ロッヂに宿泊予定なので、ひたすら森の中を歩く。上高地から登山をしたことがある人の多くは、この道が長く苦しいものだと語る。確かに標高差がなく、単調にも見えるが、私はこの道が好きだ。梓川(あずさがわ)の清流に耳を澄まし、森の生き物の気配を感じながら歩く時間は穏やかで、このルートの魅力の一つといってもいいだろう。


左 / 上高地から横尾まではニホンザルをよく見かけた
右 / 休憩中、ザックに止まったサカハチチョウのオス。翅の白い帯が特徴

上高地から横尾まではニホンザルをよく見かけた


休憩中、ザックに止まったサカハチチョウのオス。
翅の白い帯が特徴

徳澤園の近くで休憩していると、ひらひらとチョウが飛んでいるのが見えた。足元のザックに止まって姿をよく見せてくれるチョウもいて、和む。再び歩き出してしばらくすると、今まで見たことのない数のニホンザルの群れに出くわした。少なく見積もっても50匹以上はいただろうか。数十メートルにわたってサルがたむろしているところを横切るのは、急峻な岩場を通過するときに似た緊張感に包まれる。肩をすくませながら恐る恐る通過していると、仰向けになってくつろいでいたり、子どもが親の背中ではしゃいでいたり、叫び声をあげてじゃれ合っていたりと、サルのなかにも個性が垣間見えておもしろかった。

槍沢ロッヂに着くころには、森はすでに薄暗くなっていた。明日は登頂の予定。晴れることを祈りながら眠りにつく。翌朝、寝室の窓には薄明るい青空がのぞく。早く槍の穂先が見たくて、槍沢ロッヂを飛び出した。まもなく森林限界を超え、水俣乗越への分岐点を過ぎると、アルプスらしい開放的な景色が広がって爽快だ。これまでの緩やかな道とは一変して、勾配のある岩場を進んでいくが、朝の涼しさと晴天のおかげか、足取りは軽かった。

水俣乗越への分岐。
ここから東鎌尾根に上がることもできる

槍沢も後半に差しかかり、かつて槍ヶ岳を開山した播隆上人(ばんりゅうしょうにん)が寝泊まりしたとされる岩小屋付近で休憩。そろそろ槍の穂先が見えてもいいころなのだが、見当たらない。地図を確認し、山頂の方向へ目をやると、槍がすっぽりと雲に覆われているではないか。穂先が徐々に近づくさまを見ながら歩きたいのに……。

水俣乗越への分岐を過ぎるころには
森林限界を超えて開放的な景色が広がっていた

槍沢の途中に流れる枝沢。
思いっきり顔を洗うととても爽快

祈るように、雲に覆われた穂先を見つめた。カメラマンの星野秀樹さんに山の撮影の苦労話を聞きながら待っていると、雲の動きが変わり、まとわりついていた雲が薄くなった。ついに槍の穂先の全貌が見えた。まるで尖った岩の塔が雲を切り裂いて現われたかのようで、槍沢から登るこのルートの神髄を見た気がした。もしも快晴に恵まれ、もっと手前で槍沢のカーブの奥にのぞく槍の雄姿を望むことができたならば、その迫力を存分に堪能できたかもしれない。

槍の肩から望む穂先。
左に見える小さなトンガリは小槍と呼ばれる

グリーンバンドと呼ばれる最後の急登を登り切ると、肩にある槍ヶ岳山荘に到着。多くの登山者でにぎわっていた。槍を眺めてもよし、登ってもよし。ということで、ヘルメットを槍ヶ岳山荘でレンタルして、穂先のてっぺんをめざして歩き出す。鎖場とハシゴの連続で、槍沢の穏やかな道のりとは一線を画す緊張感。高度感も凄まじく、高所が少し苦手な私は、及び腰で恐る恐る登っていく。

山頂に立つと、360度の大パノラマが広がっていた。北アルプスの山々を背景にポツリと立つ祠が、なんとも神々しい。いつの間にか高所への恐怖心は消え、自分の存在が北アルプスの景色に溶けていくような感覚を味わった。なんと清々しいことだろうか。ただ、下りでは緊張感が戻り、「新人っぽくていいなぁ」と星野さんに笑われながら岩にしがみついていた。

槍ヶ岳の頂上は360度のパノラマが広がり、
思わず満面の笑みに

槍ヶ岳は多くの登山者の憧れで、槍ヶ岳山荘周辺にはその姿に感動した人々があふれていた。槍ヶ岳山荘で出会った女性は「ずっと登ってみたかった槍ヶ岳にやっと来られました。槍沢から登ってきましたが、とにかく槍の迫力がすごくって、感動しました!」と、槍ヶ岳への長年の憧れと、今回の山行の思いの丈を語ってくれた。職場の仲間だという男性3人のグループは、新穂高温泉から来たという。「穂先は怖かった!」と感想を語ってくれたが、3人とも満足感に満ちた表情で談笑をしていた。

登山ガイドの上村博道さんとお客様の女性。
槍ヶ岳にずっと来たかったそうだ

職場仲間の3人で槍ヶ岳に。
穂先の眺めを楽しみながら談笑していた

テラスでビールを嗜むソロの女性にも声をかけると、穂高岳から縦走してきたという。年に何回も単独行を楽しむ方で、以前も小誌の取材を受けたことがあるそう。ベテラン登山者にとっても、槍ヶ岳には褪せることのない魅力があるようだ。さまざまなルートからの登山者が集まる槍の肩だが、やはり槍沢から登ってきた人がいちばん多く、なかでも初めて槍ヶ岳に登る人や、仲間とゆったり登りたい人がたくさんいた印象だった。

穂高岳から縦走してきたという単独行の女性

槍沢コースには穂先以外には難所がないため、北アルプスの雰囲気や槍ヶ岳の存在感をのんびりと味わえる。自然をじっくり堪能したり、歴史に想いをはせたり、人それぞれの楽しみ方ができるのではないだろうか。そして長い道のりを経て現われる槍ヶ岳の姿に感動するのだ。

翌日の早朝、朝日に照らされた壮美な槍のシルエットに息をのみつつ、新穂高温泉へと下る。後ろ髪を引かれる思いで、槍の穂先が見えなくなるまで何度も振り返った。取材を終えて松本駅から東京行きの特急に乗り込んだ後も、槍沢から望んだ槍ヶ岳の圧倒的な姿が脳裏に焼きついて離れなかったのを覚えている。(取材日=2020年8月25~27日)

 

槍ヶ岳をめざす道のなかで、人気の高い「槍沢コース」

■行程
上高地・・・槍沢ロッヂ[泊]・・・槍ヶ岳往復~槍ヶ岳山荘[泊]・・・槍平・・・新穂高温泉

■参考コースデータ
1日目 上高地~槍沢ロッヂ(4h45m)
2日目 槍沢ロッヂ~槍ヶ岳~槍ヶ岳山荘(5h30m)
3日目 槍ヶ岳山荘~新穂高温泉(6h20m)
総距離=31.0㎞
累積標高差=登り2063m/下り2459m

⇒登山地図&計画マネージャ「ヤマタイム」へ

槍ヶ岳をめざす登路のなかで、最も人気が高いのがこの槍沢コースだ。穂先以外に難所はなく、北アルプス初心者にもおすすめできる。初夏まで多くの雪が残る槍沢。その氷河地形の広い谷では、雪解け後にシナノキンバイなどの高山植物が花を咲かせ、ベニヒカゲなどの高山性のチョウが飛ぶ姿がよく見られる。また、播隆窟(ばんりゅうくつ)や赤沢岩小屋(あかざわいわごや)など、先人の足跡を感じられるスポットが長い行程を彩る。新穂高温泉へ下るときに余裕があれば、槍ヶ岳の絶景ポイントである大喰岳(おおばみだけ)に登るのもいいだろう。

大喰岳から槍ヶ岳を一望する。
槍沢の氷河地形や北アルプスの山々がよく見える

帰りは槍平を経由して新穂高温泉へ。
笠ヶ岳を正面に見ながら下っていく

大喰岳から槍ヶ岳山荘を見ると、
その大きさや構造の複雑さがわかる

今回は『山と溪谷』最新号「槍・穂高大全」より、槍沢コースについて紹介した。特集では槍ヶ岳や穂高岳のピークをめざす、すべての一般登山道コースを取り上げている。また、綴じ込み付録には「槍ヶ岳・穂高岳 詳細登山MAP」がついてくる。この夏は槍・穂高を見て、読んで、登って楽しんでほしい。

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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From 山と溪谷編集部

発刊から約90年、1000号を超える月刊誌『山と溪谷』。編集部から、月刊山と溪谷の紹介をはじめ、様々な情報を読者の皆さんにお送りいたします。

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