山で出会える色とりどりの紅葉。その色づきの秘密は?
山へ登山者をいざない色とりどりの姿で迎えてくれる紅葉たち。色づきの秘密、それらを味わう楽しみ方や山で出会える紅葉・黄葉をご紹介。
文=山田和人(日本山岳会上高地山岳研究所管理人)
イラスト=川崎由紀
さまざま、それぞれ──山の紅葉体験
平地が夏の暑さから解放されるころ、テレビには紅葉の始まりを告げる高山の映像が流れる。毎年のことだが、心に刻んできたあの風景がよみがえる。
紅葉に対する思いは人によってさまざまだろう。普段は山の見えない都会に暮らしている人は息をのむ光景を思い描き、山麓に暮らす人は山から降りてくる紅葉を眺めてベストのタイミングを考える。豪雪に見舞われる地域に暮らす人にとってはどこか物悲しいが、埋もれてしまう前の輝きを目に焼き付けたいと。そして、それぞれの思いをもって紅葉に会いに行く。
紅葉は時間とともに変化するが、山に入って体験するのは瞬間の切り取りだ。そのときの気温や光によってもさまざまに変化する。
急斜面を覆う赤黄緑のモザイク模様、一面の赤や黄に染まる緩やかな山肌と谷、紅葉の間から流れ落ちる白い滝、その下を流れる青い水に映る樹々の葉、深紅の裾野から立ち上がる岩山。
同じ場所を二度踏めば、変化を味わえるかもしれない。今年も山に入って、自分自身の紅葉体験を心に刻もう。
ウラジロナナカマド
■ 葉身長:約2~7cm(小葉)
近縁のナナカマドよりさらに高い森林限界付近で見事な紅葉が見られる。複葉を構成する小葉の下部はギザギザがなくなめらかなところがナナカマドとの区別。
ナナカマド
■ 葉身長:約5~8cm(小葉)
高山で目立ち、鮮やかな赤が秋の乾いた岩や澄んだ青空に映える。葉は鋭いギザギザ重鋸歯、およそ七対の小葉の先に頂葉のある奇数羽状複葉。落葉後も赤い実が残る。
黄葉か、紅葉か──色づく仕組み
冬の間、落葉樹は葉を落として低温や乾燥から身を守っている。春に芽吹いた葉は夏の間に光合成し、太陽からの光をエネルギーとしてでんぷん(養分)を生産する。光合成の光吸収を担っている物質がクロロフィル(葉緑素)だ。これが葉の大部分を占めているため、われわれの目には緑色に見えている。
秋は気温が下がり、日照時間も減るため光合成の効率が下がってくる。これに対応して冬の省エネモード「落葉」の準備を始めると、黄葉、紅葉が見られることになる。
まず葉柄の根本に離層をつくって葉と幹の間の水分移動を抑え、同時に養分移動も妨げる。そして葉の活動を弱めるために、クロロフィルは分解され始める。葉にはもともと黄色の色素カロチノイドがあり、クロロフィルが減少してこれが目立ってくると黄葉となる。
それに対し、紅葉は少し違った仕組みで起こる。葉で生産されたでんぷんは離層により葉の中に蓄積し、やがて糖分に変化する。これがクロロフィルの分解過程でアントシアニンという赤い色素を合成し紅葉となる。クロロフィルが減って、元からあるカロチノイドが目立ってくると黄葉、糖分が蓄積してアントシアニンが多く合成されると紅葉、と覚えておこう。
天気がいいと光合成によるでんぷん生産が進み、糖分が蓄積されやすくなるのできれいな紅葉が生まれる。一方、夜の気温が高いと夜間も葉の活動が活発になり、糖分が消費されてしまう。また、気温が下がらないとクロロフィルの分解も進まない。つまり、きれいな紅葉・黄葉の条件は晴天と昼夜の寒暖差といえる。さらに適度な水分がないと葉が色づく前に枯れてしまう。渓谷できれいな紅葉が多く見られるのはこのためだ。
ミネカエデ
■ 葉身長:約6~8cm
比較的標高の高く日当たりのいい尾根に生える。葉の形がカエデ類のなかではいちばん端正で、日が当たる場所で鮮やかな赤や黄色を見せる。そしてその姿が凛々しい。
ツタウルシ
■ 葉身長:約5~15cm(小葉)
ブナやダケカンバの大木に蔓を巻いて幹を真っ赤な紅葉で覆ってくれる。葉は3つに分かれた三出複葉。見た目は大変美しいが、触ると皮膚に炎症を起こすので注意。
カラマツ
■ 葉身長:約2~3cm
針葉樹だが黄葉し落葉する。登山口付近に植栽されていることが多い。高くまっすぐ伸びる姿は清々しい。晴天に日を浴びて落葉する様は黄金が降ってくるようだ。
紅葉・黄葉を求めて──山で見られる代表種
紅葉は気温の低い山の上から進む。森林限界を超えたところでは、夏の間お花畑となっていた平坦な場所にチングルマがえんじ色の絨毯を敷いてくれる。高山の岩稜にはウラシマツツジが深紅となってしがみつく。森林限界の直下にはウラジロナナカマド、さらにその下にはナナカマドが存在感を示す。
中~高山の黄葉の代表はなんといってもダケカンバ。1500m付近ではほかの樹々と共存している。しかし針葉樹林帯を抜けると、他を寄せつけない大木に黄色の葉がまぶしい。ブナは日本海側の山々の1400m付近で純林を構成することがあり、一面の黄葉は見事だ。ブナの森では明るい尾根上に赤い葉をつけたミズナラが見られるだろう。ミズナラは黄葉するものもある。
中~高度の登山道で目を楽しませてくれるのは、赤と黄が混じるミネカエデやハウチワカエデ。イタヤカエデは黄葉が日の光を浴びるとまぶしいほどである。カエデ類ではこれだけが葉の縁にギザギザがなくなめらか。葉の数が多いため、下山時に上から見ると屋根を葺いたように見える。
低~中高度の沢沿いの道で、甘く香ばしいにおいがしたら、カツラの樹を探してみよう。この高度の尾根道で地味な赤い葉をたくさん見せているのがオオカメノキだ。近縁種のガマズミも同様、実の赤が美しい。山道で鮮やかな赤を見せてくれるウルシやツタウルシに触らないように。ツタウルシは近寄るだけでかぶれる人もいる。
低山帯~標高の低い平地ではモミジの代表イロハモミジやコナラ、そしてドウダンツツジの紅葉が美しい。晩秋に登山口で出発準備をしていると、カラマツの黄金の針が舞い落ちてくるかもしれない。紅葉の季節を終える合図のようだ。
カツラ
■ 葉身長:約3~7cm
沢沿いの水分豊富な場所に育ち、高木・大木となるものもある。黄色く染まる葉は丸く、基部はハート形にくぼむ。秋にカラメルのような甘く香ばしいにおいを放つ。
オオカメノキ(ムシカリ)
■ 葉身長:約6~20cm
葉の縁に小さなギザギザ鋸歯があり、控えめな赤だが丸く大きな葉が目線に近い高さで登山者を迎えてくれる。紅葉に先立ち真っ赤な粒状の実が初秋の登山道に映える。
ハウチワカエデ
■ 葉身長:約6~13cm
葉の形は掌部分が広く切れ込み部分が浅いため、天狗が持つ羽団扇のようなというのが命名由来。ひとつの木に赤い葉、黄色い葉が混在してその色が変化していく。
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プロフィール
『夏山JOY』『秋山JOY』編集部
夏山、秋山それぞれのシーズンにおすすめのコースを紹介した登山ガイドブックの決定版。
最新号の『秋山JOY2021』は、北海道から九州までの全国の山から、特に紅葉が美しいと言われている人気コースをピックアップ。「秋のアルプス」「紅葉名山」「ロープウェイ・ゴンドラで日帰り」「温泉とセットで」など、テーマ別にコースの最新情報を紹介。低山から高山まで、ビギナーにもやさしい日帰りから2泊3日プランがメインになっている。9月上旬から12月上旬まで、紅葉の山を長く楽しめる1冊。
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