長野県大町岳陽高校山岳部で受け継がれる北アルプス・鍬ノ峰の登山道整備|日本山岳遺産の横顔 vol.10

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。第10回は、地元の里山で登山道整備を続ける「大町岳陽高校山岳部」を紹介する。

写真=大町岳陽高校山岳部、取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年10月号掲載記事

写真=大町岳陽高校山岳部
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年10月号掲載記事

 

■日本山岳遺産候補地の募集中!

長野県大町岳陽高校山岳部

大町岳陽高校山岳部 〈 2014年度認定 〉

Area:鍬ノ峰
Main activity:登山道整備
Group profile:
2020年に創部100周年を迎えた歴史あるクラブ。現在は男子11人、女子9人の合計20人が所属し、2021年夏は男女そろってインターハイに出場した。鍬ノ峰の登山道整備は20年間以上続く恒例行事となっている。
https://www.nagano-c.ed.jp/omc-shin/

北アルプスを間近に望む長野県大町市の大町岳陽高校。その土地柄から、全国の高校のなかでも珍しい「全校登山」が長らく伝統行事として続き、毎年、生徒たちは自分の体力に合ったコースで北アルプスの山々へ登っている。

そんな山との関わりが深い同校の山岳部は名門として知られている。春夏秋冬の登山やクライミングなど活動は幅広く、インターハイや国体でも好成績を収めてきた。そして、代々受け継がれている取り組みが、北アルプスの前衛峰である鍬ノ峰の登山道整備である。学校の西側にそびえる双耳峰で、部員が練習でも登っている親しみある里山だ。

鍬ノ峰での整備作業が始まったのは2000年。同校は2016年に大町、大町北の両高校の統合によって誕生したが、統合前の大町高校の創立100周年記念事業として企画された。登山道を開拓し、もともとあった別方向からのコースと合わせて縦走できるようにした。当時、高校生による登山道作りは話題となって、鍬ノ峰を訪れる登山者は増えていった。山頂からの後立山連峰の壮観や初夏のシャクナゲといった山そのものの魅力の発信にもつながった。

長野県大町岳陽高校山岳部

ナタガマで登山道に生い茂ったササヤブを刈る生徒たち。作業の下見も含めて年に数回、鍬ノ峰を訪れるという
ナタガマで登山道に生い茂ったササヤブを刈る生徒たち。
作業の下見も含めて年に数回、鍬ノ峰を訪れるという

それ以降の20年間、登山者が安全に登れるようにと、部員たちが定期的に倒木撤去やササ刈りなどを行なっている。今では山岳部の恒例行事のひとつだ。

顧問の大西浩教諭は活動についてこう説明する。

「山岳部のなかでとても大切な取り組みとして位置づけられ、生徒たちは先輩から継承された登山道を守っていく使命感を持っています。鍬ノ峰で作業中に登山者と話して役に立っていると手応えを得たり、なんの気なしに登ってきた山を整備する人の存在に気がついたり……。そういった感想が生徒から聞こえてきて、彼らの成長につながっていると実感します」

同校山岳部は活動時に山頂で、振り付けを交えながら部歌を合唱するのが伝統となっている。

「私や名高い 信濃の国の 日本アルプスのさ 下に住む」

鍬ノ峰ではこれからも、生徒たちの元気な歌声が響き、そして、地域の山への愛情と誇りが育まれていくことだろう。

長野県大町岳陽高校山岳部

鍬ノ峰山頂で部歌を合唱する山岳部員ら。背後には雄大な後立山連峰を望む
鍬ノ峰山頂で部歌を合唱する山岳部員ら。
背後には雄大な後立山連峰を望む

★日本山岳遺産認定地 詳細:鍬ノ峰[ 長野県 ]長野県大町高等学校(現 大町岳陽高等学校)山岳部(2014年)

日本山岳遺産候補地および助成団体を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体。
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体。
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体。

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費。
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費。
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費。

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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