一ノ倉沢の岩壁を望む 紅葉最盛期の谷川岳山麓の沢巡り
谷川岳の紅葉は稜線から下がってきました。紅葉の一ノ倉沢の岩壁を眺めるポイントまでは、林道のハイキングが楽しめます。
アルパインクライミングの聖地、谷川岳一ノ倉沢は、その断崖絶壁と紅葉の絶景ポイントとしても名高い場所です。谷川岳登山指導センター下より遊歩道(旧道)を一ノ倉沢まで辿り、さらに、幽ノ沢、芝倉沢を巡ります。
谷川岳登山指導センターから旧道に入り、西黒尾根登山口、厳剛新道登山口を横目にやりすごし、黄色く染まったブナ林を縫うようにマチガ沢出合へ進みます。この日はガスもなく、紅葉した谷川岳の雄姿が次第に迫ってきます。ちょうど標高900m前後が紅葉の最盛期となっていました。
林道が開けたところが一ノ倉沢出合です。壮大な一ノ倉沢の大岩壁が錦秋の山麓を突きぬけてそびえる壮大な姿に圧倒されます。カメラマンや観光客も大勢繰り出しています。その喧噪をさけて、写真撮影のため、河原から一ノ倉沢からテールリッジへ続く踏み跡を一ノ倉沢の全貌を見渡せる地点まで上ります。この踏み跡は一ノ倉沢の岩壁を登るクライマーのためのアプローチで、まもなくひょんぐりの滝を高巻き、懸垂下降する地点に至ります。クライミングの装備や技術がない人は、これより先は立ち入ることはできません。
写真撮影を終えて一ノ倉沢出合へ戻り、幽ノ沢へ向かいます。道沿いの岩にはめこまれたいくつかの遭難碑に黙礼して先へ進みます。幽ノ沢でもかつてクライミングに向かったアプローチのおぼろげな記憶をたどって、撮影地点まで進みます。30数年ぶりの幽ノ沢の岩壁は、陽光を浴びて、優しい表情で迎えてくれました。
幽ノ沢からは、水場の「ブナのしずく」を過ぎ、さらに旧道を進みます。
「武能沢近くの登山道崩壊」の警告を確認して、林道を芝倉沢まで進み、芝倉沢の岩壁を飾るように見事な絶景をつくり出している紅葉や、湯桧曽川対岸にかまえる白毛門(しらがもん)、笠ヶ岳を真っ赤に染める紅葉を堪能しました。
芝倉沢出合からは、帰路は新道に降りて、湯桧曽川沿いを美しいブナ林の黄葉を楽しみながら戻りました。
新道は平坦で整備された歩きやすい道ですが、増水時は注意が必要で、この日も台風の影響からか、西黒沢と出合う付近は流れがあふれ、上流を少し遡って、徒渉点を探す必要がありました。(取材日=2017年10月27日)
プロフィール
奥谷晶
30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。
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