使い古しのダウンジャケットが資源に変わる! 循環型社会をデザインする「Green Down Project」とは?

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アウトドアを楽しむにはダウン製品が欠かせません。しかしその裏では、古くなったダウン製品の大半が焼却処分されています。貴重な資源を大切に使い続けるにはどうしたらいいのでしょう。羽毛循環サイクル社会を作る「Green Down Project」の取り組みを取材しました。

文=吉澤英晃

 

羽毛を再資源化するという選択肢

寒さから体を守る保温着は山登りの必須アイテム。かつてはフリースが主流でしたが、いまでは、軽くて収納サイズも小さくなるダウンジャケットが定番です。各社さまざまな商品を売り出しているので、読者の方も何か一着は持っているのではないでしょうか?

ほかにも、ダウン入りのスリーピングバッグやダウンパンツなど、ダウン(羽毛)を使う商品はいまやアウトドアになくてはならないアイテムです。

軽くて暖かい羽毛製品はアウトドアの定番品。登山やキャンプなど、多くのアウトドアアクティビティで活躍している(撮影:筆者)

 

そんな羽毛製品が古くなったので手放そうと思ったとき、これまではゴミとして廃棄するか、リサイクルショップに買い取ってもらう、知人に譲るといった方法しかありませんでした。

しかし今は、不要な羽毛製品を回収し、中に入っている羽毛を洗浄後、新しい羽毛製品に生まれ変える仕組みが国内にできあがっています。それを2015年から推進してきたのが、今回取材した「Green Down Project(グリーンダウンプロジェクト)」です。

一般社団法人 Green Down Projectの理事長を務める長井一浩さんに、活動内容などについて話を伺いました。

 

燃やされる運命にあった貴重な資源

羽毛製品の解体作業の様子(提供:グリーンダウンプロジェクト)

 

これまでゴミとして回収された羽毛製品は、多くが再利用されずに焼却処分されてきました。一般的に1kgの羽毛を燃やすと、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素が約1.8kg発生すると言われています。

役目を終えて燃やされる羽毛製品がある一方、日本は毎年大量の羽毛を輸入しています。その量は、2020年1月から9月までの期間でも約2400トン(※)。しかし、羽毛は食肉用に飼育される水鳥から採取される貴重な天然素材であり、多くのプラスティック容器やペットボトルと同じ、リサイクルできる再生可能資源でもあります。

長井さんに、羽毛を再利用することで生まれるメリットについて聞きました。

いままで捨てられてきた羽毛製品を再資源化することによって、当然ゴミの量が減少します。かつ、焼却時に発生していた二酸化炭素の排出量も抑えることができます。回収したものを移送する段階で二酸化炭素は発生しますが、再資源化したほうが二酸化炭素の排出量を抑制できるんです」。

※参考資料:日本ふとん製造共同組合 「JFMA情報138号」

 

ゴミを減らし新しい価値を生み出す活動

2015年に立ち上がったグリーンダウンプロジェクトは、2021年11月1日現在、163の羽毛製品を扱う企業や団体と協力関係を結びながら、羽毛が循環する社会の仕組みを作っています。

年々増える会員数と比例して、回収する羽毛の量も右肩上がりに上昇。

「立ち上げ当初は1年間で約50トンだったのが、2019年度は約68トン、2020年度は約76トンにまで増えました」。

これは、羽毛がごみとして焼却されなかったことによって、年間で約136.8トンもの二酸化炭素を削減できた計算です。

ゴミの削減と発生する二酸化炭素の抑制のほかに、グリーンダウンプロジェクトは以下の2つのメリットも社会にもたらしています。

障がい者支援
回収した羽毛製品を解体する工程には障がい者の方々が関わっており、雇用の創出にも貢献しています。

羽毛の安定供給
リサイクルダウンが市場に増えることで、生産量と需要の影響を受けづらい安定した羽毛の供給が可能になります。

 

一見、順調そうに見えるグリーンダウンプロジェクトの実績ですが、2020年1月から9月までに輸入された羽毛が約2400トンであることを考えると、76トンという回収量はまだまだ多いとは言えません。

長井さんはいまの状況を冷静に分析します。

「まだまだリサイクルされている羽毛はごく一部です。いま世の中に出ている羽毛を回収して循環資源として使用できれば、ゴミの量は劇的に減ります。ただ、そのためには羽毛を取り扱っている企業をはじめ、羽毛製品を使う消費者の方々にも、このプロジェクトのことを知って頂くことがすごく大事だと思っています」。

洗浄作業の様子(提供:グリーンダウンプロジェクト)

 

使わなくなった羽毛製品を持ち寄ろう

現在、約100の企業や団体が羽毛の回収に協力しており、アウトドア業界では、全国展開する登山用品店の「好日山荘」、総合アウトドアメーカーの「ゴールドウイン」や「スノーピーク」、ダウン製品メーカーの「ナンガ」などがグリーンダウンプロジェクトに参加。回収やリサイクルダウンを使った商品の製造・販売を行なっています。各地の店舗や直営店などで回収BOXやリサイクルダウンを使った商品を見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。  

好日山荘は“100年先の山トモへ”を合言葉にしたエコプロジェクト「エコジツ」を2019年から開始。その一環としてグリーンダウンプロジェクトの羽毛製品の回収に参加している。2020年4月から2021年1月の期間で607.7kgの羽毛製品を回収した(提供:好日山荘)

 

「グリーンダウンプロジェクトで回収できるダウン製品は、ダウン率が50%以上のものが対象です。ダウン率が50%以上であれば、穴が空いている、汚れているものも対象に含まれます。撥水加工が施されたダウンも回収可能です(※)」。
※羽毛と化繊綿が混ざっている製品はいまの技術では素材をきれいに分けることができないため、回収不可となっている

そうして回収されたリサイクルダウンは、新しい羽毛(新毛)の段階とリサイクルの段階で2回洗浄されることになるため、一般的な新毛よりもキレイになるのだとか。

 

リサイクルダウンを使った商品たち

その後、グリーンダウンプロジェクトでは洗浄を終えて汚れが落ちたリサイクルダウンを“GREEN DOWN”と名付けて供給。新しいダウンジャケットや羽毛ふとんなどに生まれ変わり、すでに市場に流通しています。

 

ザ・ノース・フェイスのリサイクルダウンを使ったダウンジャケット。1990年代の人気モデルを現代風のサイズ感に改良。アウトドアからタウンまで汎用性の高い1着に仕上げている/ザ・ノース・フェイス ヌプシジャケット(メンズ) 35,200円(提供:ゴールドウイン)

 

さらに、GREEN DOWNを使う企業からの要望もあり、アウトドア業界ではおなじみのフィルパワー表記での供給もこれからめざしていくと長井さんは言います。環境意識の高まりでリサイクル繊維や天然繊維が注目される中、リサイクルダウンを使った商品が当たり前になる未来はそう遠くはないかもしれません。

 

資源を無駄にしない社会をめざして

グリーンダウンプロジェクトの今後の目標についても長井さんに聞きました。

「ふたつあって、ひとつは回収と需要のバランスを高めることです。昨年から続くコロナ禍の影響で消費が落ち込んだため、GREEN DOWNの需要も減少しました。そのような状況でも回収を止めずに需要もある程度キープするには、GREEN DOWNを使った商品を製造・販売して頂く企業をもっともっと増やしていく必要があると思っています」。

GREEN DOWNを使った商品には共通のタグが付いている(提供:グリーンダウンプロジェクト)

「もうひとつの目標が回収量の向上です。これまでに新毛を使った羽毛ふとんだけで、 1年間に約3000トンが日本で販売されてきたというデータがあります。そのため、なるべく早い段階で、その1割に当たる約300トンの回収を目標にしています」。

その目標達成の一翼を担っているのは、私たちユーザーです。

もし使わなくなったダウンジャケットやスリーピングバッグなどが手元にあれば、縫い付けられている品質表示で、一度ダウン率を確認してみましょう。ダウン率が50%以上であれば、それはゴミではなく、新しい羽毛製品に生まれ変わる貴重な資源です。

資源を再利用して大切に使い続ける。そのワンアクションが少しずつでも着実に広がれば、その先には環境に優しい豊かな社会が待っているはずです。

 

Green Down Project https://www.gdp.or.jp/

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