春の準備が始まったアブラチャンの冬芽。小さいけれどもかわいく目立つ冬芽の秘密

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少しずつ春めいてきているが、まだ山々の木々は冬枯れのままだ。しかし、その枝をよく見ると冬芽が育っている。なかでも3月に黄色い小さな花を咲かせるアブラチャンの冬芽は、不思議な形をしていて興味深い。

 

立春を過ぎて太陽の光はキラキラと眩しく、ずいぶん春めいてきた。シジュウカラが「ツーツピー、ツーツーピー」と、さえずり始めた。それでも、まだまだ山は寒さが厳しい冬の真っただなか。木々の芽も硬く小さく縮み上がっているように見える。

しかし、木の冬芽は、春の準備がとっくに終わっている。暖かくなりさえすれば、冬芽をあっという間に膨らませ、開き、葉や花を展開するだろう。冬芽の中に、今年一年植物が使う、葉や花や茎は、まだ小さいものの、全てがもうミニチュアのように形作られて、コンパクトに冬芽の中に収まっているのだ。

この冬芽は、実は冬の前から出来上がっている。昨秋の紅葉が見られた秋よりも、もっと早くい時期にすでに翌年の準備をしていることになる。植物は本当に用意周到なのである。

アブラチャンの木を見ると、何もないただの枝のようだが・・・


低山の雑木林を歩いていると、小さいけれどもかわいく目立つ冬芽がある。明るい灰褐色の枝先に、長細く先端が尖ったとんがり帽子のような冬芽が枝の先端にあり、その横にまあるい小さな球形の変わった形の冬芽がセットになっている。とんがり帽子をかぶった小人が、両手に楽器のマラカスを持っているような格好である。この不思議な冬芽を持つ木がアブラチャンだ。

アブラチャンの冬芽には花芽と葉芽がある。細いとんがり帽子からは葉が飛び出し、丸い冬芽からは花が咲く。なぜこのように別々なのだろうか。

写真左/アブラチャンの枝に近寄ってみると・・・
写真右/③アブラチャン冬芽があるのを確認できる


花は早春の葉が展開する前に咲く。葉が展開するのを待っていたら花が咲くのが遅くなってしまう。だがら、花芽と葉芽は別々にあったほうが便利なのであろう。

春先にはアブラチャンの枝は、黄色い花だらけになって美しい。花は小さいが、ロウバイのように半透明で蝋のようである、葉はその後に展開する。同じような冬芽を持つ植物にクロモジがある。こちらも同じような花が咲くが、冬芽がある細い枝が緑色をしているので見分けられる。

アブラチャンの花。3月に黄色い花を咲かせる


クロモジの冬芽もとんがり帽子とマラカスである。これらの冬芽はもうすぐ、膨らんで、花が咲き、葉が展葉する。春はもうすぐである。終わらない冬はないのである。

写真左/アブラチャンによく似ているクロモジの冬芽
写真右/クロモジの冬芽をアップで見ると・・・


ちなみに、アブラチャンの名の由来は、チャンとは「タール」のこと。タールとはコールタールなど燃えやすいねばねばした油のこと。アブラはもちろん油であり、アブラチャンは「油油」というひどく脂っこい名前だ。アブラチャンの果実を絞ると油が採れ、枝もよく燃えることからついた名前である。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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