残雪登山に活躍してくれそう!419gの軽量&コンパクトなアイゼン(クランポン)ブルーアイス/ハーファング|高橋庄太郎の山MONO語りVol.93

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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、ブルーアイスの「ハーファング」です。

文・写真=高橋庄太郎

ハーファング

今年も5月の連休が近づいてきた。低山では雪解けも進んでいるが、日本アルプスや八ヶ岳、それに北海道や東北の山は、まだまだ雪深く、雪山登山の道具が必要だ。だが、冬ほどは使う時間や頻度が少ないことが想定され、できるだけ軽量なものを持っていきたい人も多いに違いない。

今回ピックアップしたのは、ブルーアイス“ハーファング”。ペアで重量419gの軽量アイゼン(クランポン)だ。

 

まずはパーツをチェック

以下の写真は、登山靴に装着した状態である。

見るからに本格的で、過酷な状況にも使えそうな10本爪のアイゼンだ。

次の写真は付属の収納袋に入れた状態である。

なんとあの本格的アイゼンが、この大きさに! 直径10×厚み8㎝の収納袋に収まってしまうのだ。

袋から出すと、なぜこれほど小さくなるのかが理解できる。

一般的なアイゼンは、爪がつけられた前後のブロックをつなぐために長いジョイントバーを使い、そのために収納サイズが小さくならない。だが、ハーファングにはジョイントバーを使っていないのだ。だから、折るようにたたんで爪をうまく組み合わせると、これほど小さく収納できてしまう。

なぜジョイントバーがないのに、ハーファングは10本爪のアイゼンとして機能するのか?

ハーファングがジョイントバー代わりに使っているのは、幅が広いセンターストラップ。上の写真で白く見えるものである。

広げて延ばすと、白いセンターストラップがジョイントバーの代わりに前後のブロックをつないでいることがよくわかる。

ちなみに上が表側(登山靴を載せる面)、下が裏側(雪と接する面)だ。

このセンターストラップは長さの調整が可能。一般的なジョイントバー使った調整よりは手間取るが、それほど面倒なわけではない。

ひとまず全長を自分の登山靴に合わせてしまえば、前後の爪の位置は固定される。使用する登山靴が決まっている人には、それ以降は調整する必要がない。

ただし、登山靴の中央に当たる爪だけは、別の方法で調整しなければならない。

上の写真では、下の細長いブルーのブロックのことである。

このブロックの位置を移動するには、ドライバーが必要だ。ブルーのパネルを外さないと、前後にずらすことができないのである。

今回はハーファングに合わせる登山靴を決めかねていたこともあり、山に来てから調整を行ったが、本来は自宅でやっておくべき作業だった。このときも外したネジやパネルを紛失しそうで、かなり怖かった。

 

調整しながら登山靴に装着

そんなわけで、実際にハーファングを登山靴に合わせてみる。

先ほどのセンターストラップの長さの調整はおおむね合っていたようで、位置はだいたい正しいようだった。

ハーファングは少し特殊な構造ながら、カテゴライズすれば、いわゆる“ワンタッチ式”のアイゼンだ。だから、登山靴先端のコバを2段階調節可能なトゥーベイルにかけた後は、かかとのコバにヒールレバーをはめてやればいい。

本来はアイゼンが登山靴のかかとの部分よりも1~1.5㎝程度は短いほうが、アイゼンの位置としてはいい。だが思ったよりも緩かったのか、この段階では登山靴のアウトソールが4~5㎜ほどしか出ていない状態だ。

そこで、センターストラップをさらに少しだけ短くしてみた。しかし、どうにもうまくいかない。

ヒールレバーを最大に緩め、ワイヤーを最大限に延ばして登山靴のかかとを通そうとするが、どうやらワイヤーが少し短く、うまい位置に爪が固定できないのである。ワイヤーが短いために、登山靴のアウトソールのかかとがワイヤー内に通らないからだ。

やはり、アイゼンのかかとの爪は、もっとソールの内側にしたいところだ。

しかし、この登山靴にはこれが限界である。

改めて、かかとの部分を見ると、せいぜい5㎜しか内側に入っていない。さっきとほとんど同じである。

そこで、別の登山靴にも装着してみることにした。

登山靴を変えて組み合わせたのが、次の写真だ。

さて、どうだろう……。

残念ながら、こちらの登山靴でもかかとの爪の位置はほとんど同じだ。やはりワイヤーが短く、これ以上は内側にならないのである。

僕が持っている雪山用の登山靴とは相性が悪かったのかもしれない。こうならないように、購入前には実際に自分の登山靴と合わせてみるとよいだろう。

僕は結局もとの登山靴にハーファングを付け直し、今回のテストを行なうことにした。

爪の位置が理想的ではないかもしれないが、今回はそれほど環境が厳しい山に登るわけではなく、そこまで大きな問題ではないだろう。

そんなわけで、雪上に出てから改めてハーファングを装着する。

調整には手間取ったが、必要になる場所までコンパクトに持ち運ぶことができ、その点はとても好印象だ。

ハーファングを登山靴に取り付けた後は、最後にアンクルストラップを登山靴のアッパーの上に固定する。

ここにはフックが使われ、固定作業はスピーディーであった。

 

雪の登山道でテスト開始

さて、出発。

一歩一歩、雪を踏みしめながら、ハーファングの感触を試していった。

小気味よく爪は雪へ食い込み、ストレスなく歩いて行ける。周囲にはアイゼンを使わずに登っていた人もいたが、途中であきらめて下山していった。やはりアイゼンの力は絶大である。

ただ、このときの山の雪は締まっていたものの、硬いアイスバーンのような場所がなく、氷に対してどれほどの力を発揮するのかは正直なところ判断できない。

ところで、ハーファングの爪だが、じつはフロント(つま先部分)とリア(かかと部分)では使われている素材が違う。フロントは少々重いが強靭なクロームモリブデン(クロモリ)で、リアは摩耗しやすいが軽量なアルミニウムなのである。

岩に触れやすいフロントにクロモリが使われているのは安心だ。これがアルミであれば、爪の先端の鋭利さはすぐに失われていく。リアもクロモリにしないのは、トータルでの重量をできるだけ軽くするためだろう。

このまま僕は順調に高度を稼いでいった。だが……。

なんと途中で右足のハーファングが外れてしまった。

しっかりと調整したつもりだったが、それでも調整不足だったのだろう。

雪上にかがみこみ、センターストラップを5㎜ほど短く再調整する。

この調整を終えると、再び好調に。ペアで419gはさすが軽量だ! 

持ち運びが楽なばかりか、歩行中もアイゼンをつけているのが気にならないのである。

そして、山頂まで無事に到着。

ここから下山に入る。

ところが……。

またしても右足のほうが外れてしまった。アンクルストラップによって、外れたアイゼンが斜面を滑り落ちて紛失するようなことにはならなかったのが幸いである。

思い切って左足のほうも外し、両方を比べてみた。

この写真ではわずかに右側のほうが長いように見えなくもないが、実際は完全に同じ長さであった。それなのに、なぜ、また右足が?

僕はさらにテンションをキツめに調整し、右足のハーファングを登山靴に再装着した。

右足に対し、左足にはまったく問題がなかった。違和感も一切ないのである。

調性不足や使い慣れしていないのが理由かもしれないが、それにしても1日に2回も外れるとは。

右足ばかり外れるという問題は、おそらくハーファング自体のせいではなく、たぶん僕の歩き方のクセか、合わせた登山靴との相性に原因がある。だが、ここではそれを判断できないのが悔しいところだ。機会があれば、さらに別の雪山用登山靴と組み合わせて使ってみたいと思う。

下山後は、再び小さく収納。このサイズ感は、やはりたいしたものだ。

とはいえ、このように爪を組み合わせてすばやくコンパクトにするには、慣れが必要だ。僕は組み合わせ方を忘れてしまい、上の写真のような状態にするまでに少々時間がかかってしまったことを白状しておく。

 

まとめ:軽量さとコンパクトさがすばらしい

外れてしまったことを抜きにして考えれば、ハーファングの軽量さとコンパクトさは非常にすばらしかった。アイゼンが必要ではない区間も出てくる残雪の山では、ただ持ち運ぶだけの時間が長くなる可能性があり、そんなときも体力の負担を減らすことができるのである。使い慣れれば外れることはなくなるだろうし、僕もひとつ手元に置いておきたいくらいなのであった。

 

今回のPICK UP

ブルーアイス/ハーファング

価格:20,680円(税込)
重量:約419g(左右ペア)

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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