生態の不思議選りすぐり『日本野鳥の会のとっておきの野鳥の授業』

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評者=若林 輝(自然分野ライター)

日本野鳥の会のとっておきの野鳥の授業

編:日本野鳥の会
監修:上田恵介​
発行:彩流社​
価格:1980円(税込)

 

姿を見る。声を聞く。名前を覚えて馴染みになる。そんな野鳥との出会いを山歩きの楽しみに数える人は多いだろう。日本野鳥の会は創立以来80余年、バードウォッチングとともに「あるがままの野鳥の姿を愛でる」という「愛鳥」の心を広く伝えてきた、日本最古にして最大の自然保護団体だ。本書にもそんなあるがままの愛らしさが満載なのかしら?と思って読み進めたら不意を突かれた。

鳥の目には人の数倍以上の色が見えている。シジュウカラは文法を用いて175種のコトバを話し分ける。セッカはクモの卵嚢をほぐして糸をつむぎ裁縫で巣を作る。托卵されたジュウイチは両翼の模様で小さな3羽のヒナに分身する。ハチクマは2万数千キロも移動しながら愛の巣を何丁目何番地何号まで正確に決めている……などなど。

思えば鳥は恐竜だ。そう知った時の底知れなさが蘇る。第1章は行動と生態、第2章は仕組みとチカラ。各分野で活躍する研究者がこの10年で会報誌『野鳥』に執筆した「とっておきの野鳥の授業」に知的興奮が止まらない。マニアックな内容のはずが、親しみやすい絵とポイントを押さえた写真につられ、私のような野鳥の世界に入学したての一年生にも優しい。

野鳥はあるがままで愛おしい。だが深く知れば、かけがえのなさは増すばかり。その思いのまま最終章の野鳥保護最前線へ。「鳥たちを自然のままで守ることは、とりもなおさず日本の山河を守ること」。日本野鳥の会創立者の言葉がスッと腑に落ちた。

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山と溪谷2022年4月号より転載)

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