奥多摩の山を楽しむための十カ条――。東京都山岳連盟救助隊の奥多摩パトロールを通して感じたこと

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ゴールデンウイークを前にした4月下旬、奥多摩で東京都山岳連盟救助隊によるパトロールが行われました。自身が山を教わった山岳会も、東京都山岳連盟所属である関係もあり、私も定年退職後に救助隊の一員として活動させてもらっています。日ごろは、行方不明になってしまった方々の長期捜索などをしていますが、今回は事故を防ぐ呼びかけを行いました。その際に配布した「奥多摩の山を楽しむための十カ条」の内容も含めてご紹介します。

 

ゴールデンウイークを直前にした4月24日(日)、東京都山岳連盟救助隊による奥多摩パトロールが行われました。場所は東京近郊の人たちが登山入門の山としてよく訪れる高水三山のひとつ岩茸石山(793m)です。

「コロナ禍の現在、街場の混雑を避けて山を歩く人が増え、関東の低山での遭難事故も増加しています。登山の知識・体力・技術などの不足や、ルール、マナーの欠如も見られます。これらの現状を踏まえ、登山者に注意喚起のチラシを配布し、アドバイスなどを行います」というのが実施の趣旨でした。

登山道中で注意喚起のチラシを配布し、アドバイスなどを行いました


当日は救助隊員や都岳連関連の方々8名が参加。朝9時に青梅線川井駅に集合して名坂峠まで車に分乗、さらに約1時間の登りで岩茸石山に向かいました。この日は昼頃に雨が降り出す予報でしたが、東京近郊の登山入門の山として人気を集める山域だけに、中学・高校のワンダーフォーゲル部員やボーイスカウトの団体の方々も多く、雨になる前の2時間の活動で、約200人の登山者に呼びかけを行うことができました。

当日は約200人の皆様に呼びかけることができました


この活動の一環として「奥多摩の山を楽しむための十カ条」というチラシも配られました。これは、今回の呼びかけのために副隊長の加藤秀夫さんが原案を作り、日本山岳救助機構(jRO)の協力も得て作成されたものですが、確実な登山のための一般的な呼びかけに加えて、低山ならではの危険や、感染禍を受けた久しぶりの登山の注意点にも触れています。

その内容は奥多摩でなくても通じるものだと思いますので、具体的に記させていただきます。

其の壱、自分の登る山を知りましょう」「其の弐、最新の情報を得ましょう」では、登ろうとする山について事前に知ることの大切さを呼びかけています。

其の参、体力に合った山を選びましょう」では、登りたい山ではなく、体力・知識・技術・経験などをもとにした余裕を持った登山の重要性が説かれています。

其の四、登山計画書を提出しましょう」は、近郊の山だと、ついおろそかになりがちな点に加え、登山計画書の提出が無いと捜索依頼が出ても捜しようがないという、救助隊の立場からのお願いも語られています。

其の伍、すれ違い時は注意をしましょう」では、登って来る人を確認したら早めに待機することや、安全な場所で道を譲り合うこと、もし、待機場所が無かったら「下り行きま~す」などと大きな声で伝えたり、先行者に追いついたら「右から通りま~す」などと声をかけ合うなど、登山者どうしのコミュニケーションが大切なことが具体的に綴られています。

ぜひ、常に実践してもらいたい「奥多摩の山を楽しむための十カ条」のパンフレット


其の六、登山道は外れずに歩きましょう」「其の七、山のルールは守りましょう」などでは、他の登山者はもちろん、近隣住民の人たちへの配慮の大切さも語られ、「其の八、道迷いには注意しましょう」では、登山道以外の道も多いこの山域の特性に触れ、「其の九、奥多摩の危険を知りましょう」では、滑りやすい岩の道や、クマの事故について述べています。

最後の「其の十、日頃より体力作りをしましょう」では、近年の外出自粛下で、体力やバランス感覚が衰えている点も自覚してもらうことがうながされています。

呼びかけ文の最後は、奥多摩は標高が低くても「山は山」です、と結ばれていますが、このチラシを受け取ってくれた皆さんが、その内容を周囲の方々にも広げてくれることを願いつつ下山しました。

万全の心構えと装備で新緑の山を満喫して欲しい

プロフィール

久保田 賢次

元『山と溪谷』編集長、ヤマケイ登山総合研究所所長。山と渓谷社在職中は雑誌、書籍、登山教室、登山白書など、さまざまな業務に従事。
現在は筑波大学山岳科学学位プログラム終了。日本山岳救助機構研究主幹、AUTHENTIC JAPAN(ココヘリ)アドバイザー、全国山の日協議会理事なども務め、各方面で安全確実登山の啓発や、登山の魅力を伝える活動を行っている。

どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか――

山岳遭難事故の発生件数は減る様子を見せない。「どうしたら事故に遭うリスクを軽減できるか」、さまざまな角度から安全登山を見てきた久保田賢次氏は、自身の反省、山で出会った危なげな人やエピソード、登山界の世相やトピックを題材に、遭難防止について呼びかける。

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