登攀の歴史からルート解説まで 『日本50名ルート』【書評】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

評者=横山勝丘(クライマー)

日本50名ルート

編著:菊地敏之
価格:3300円(税込)

 


日本50名ルート? 嫌な予感。ガイド本? 他人が選んだものを何の吟味もなくトレースすることに一縷の魅力も見いだせない僕は懐疑的だった。いわんやアルパインクライミングをや。

しかしそれは間違いであった。ガイドもないわけではないが、読めばすぐに、それが本書の趣意でないことは理解できるだろう。50ルートに共通するのは、ルートそのものの美しさに限らず、そこに刻まれたクライマーの証が明確で、かつこの遊びに対する意義を持つということ。「ルート」とは、クライマーによるクライミングという人間活動そのもの。本書は、そんな活動をまとめた歴史書なのだ。

登場するのは、アルパインクライミングを志す者ならば誰もが知るようなクラシックルートだけではない。錫杖岳前衛フェース2ルンゼダイレクトや瑞牆山十一面岩正面壁ベルジュエールなど、現代クラシックと呼ぶべきルートも多い。登山家たちがどんな想いでそのルートと対峙したのか? 本書の読みどころはまさにそこだ。

僕が爺さんになって新しい日本50名ルートが発刊されたとき、そのラインナップにワクワクするだろう。それはまさに、現代クライマーがどれだけ本書からさまざまな情報を読み解き、吸収し、自身のアイデアを膨らませるかにかかっている。そんな本が新たに出るのかって? 出なければ困る。ラインナップが全く同じでも困る。人は、歴史から学んだものをさらに昇華させることで進化を遂げる生き物なのだから。

 

山と溪谷2022年6月号より転載)

登る前にも後にも読みたい「山の本」

山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。

編集部おすすめ記事