「四国一美しい山」ともいわれる三嶺のシカ食害に立ち向かい続ける。三嶺の森をまもるみんなの会
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、高知と徳島両県境の三嶺山域で、環境保全活動に取り組んでいる「三嶺の森をまもるみんなの会」を紹介する。
取材・文=一ノ瀬伸、写真=三嶺の森をまもるみんなの会
三嶺の森をまもるみんなの会 〈 2015年度認定 〉
Area:三嶺山域Main activity:シカ食害の対策・調査
Group profile:
シカ食害の深刻化を受け、2007年に設立。以前から自然保護活動を行なう2グループを母体に、大学や行政の関係者らも参加。日本山岳遺産基金を活用し、2017年に10年間の活動記録をまとめた冊子を発行。
http://sanreiminnanokai.web.fc2.com/
壊滅的なシカ食害に立ち向かい続ける
「自然は思いがけない変化を遂げる。人の力と自然の復元力によって、予想外に早く再生し、逆に、どうしようもないような壊れ方をする」
四国東部、剣山系の三嶺(さんれい)山域でシカの食害対策に取り組む「三嶺の森をまもるみんなの会」代表の依光良三さんは、10年の活動を記録した冊子の序文でこう綴った。
三嶺は「四国一美しい山」ともいわれる。青々としたササ原が生い茂る稜線からは、剣山や石鎚山、土佐湾の大展望が広がり、中腹の森は自然林や希少な草花も豊富。登山者からも人気がある名山だ。
しかし、2000年代に〝事〞が起こった。急増したシカの食害が一気に深刻化したのだ。周辺の一部のササ原は食い荒らされて枯死し一面の緑が灰色に変わった。森では木々の樹皮は食われてはげ、スズタケをはじめとする林床の植物は壊滅的な被害を受けた。土がむき出しになったところでは、大雨の際の土砂流出が進んだ。
「みんなでなんとかしなければ」。大きな危機感を抱いた高知、徳島両県内の住民グループや高知大学の研究者、行政などが集って2008年に会を設立。樹木に保護ネットを巻き、希少植物を守る柵を設置するなど、対策に乗り出した。
活動は多岐にわたる。地元の子どもたちを募って食害を学ぶ自然観察や植樹、ネット張りの体験を行なう。また、被害を伝えるべく写真展を開催したり、シンポジウムや講演会を開いたり、広報や啓発にも注力している。
定期的なモニタリングで対策の効果を記録し続け、冊子や報告会で詳細に発表。「石鎚山系などほかの山での自然保護活動の参考になれば」(依光さん)との思いがある。
継続的な活動で緑が戻ってきた場所もある。しかし、依光さんは吐露し、未来を語る。
「活動を続けてきて、むしろ無力感が強い。それでも、できるかぎり続けていきたい」
★日本山岳遺産認定地 詳細: 三嶺山域[高知県・徳島県]三嶺の森をまもるみんなの会 (2015年)
日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します
日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
- 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
(山と溪谷2022年7月号より転載)
プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!