世界有数の成長スピードと崩壊速度。南アルプスがユネスコエコパークに選ばれる理由

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

南アルプスは、2014年にユネスコエコパークに登録されている。その意義や理由については、別の機会に譲るが、1つ言えるのは南アルプスは、多様な自然環境と、自然環境と調和した文化や歴史を持ち合わせていることだ。そんな南アルプスユネスコエコパークから、南アルプスの魅力を再発信する。

 

南アルプスの表す言葉「大きな山容と奥深さ」

「南アルプスってどんなところ?」

先日、登山フェアに出展して、「南アルプスいいとこですよー、登りに来ませんかー!」と売り込みをしていた私が、多くの登山愛好家からいただいた質問である。

南アルプス――、長野県、山梨県、静岡県にまたがる赤石山脈一帯。そう説明を始めると、「え? 静岡も入っているの?」とびっくりされることが多かった。南アルプスを登ったことがあると言ってくれていた人でさえも、静岡が含まれていることを知らない人もいて、逆に驚かされた。静岡市を代表している身としては、なんとも不甲斐ないような気持ちにもなったものだ。

それはさておき、南アルプスの話だ。今回は南アルプスの特徴を簡単にお伝えしたいと思う。以前、南アルプス南部の山小屋の管理人さん達にお話を伺う機会があったが、南アルプスの魅力を改めて尋ねてみると、「大きな山容」「奥深さ」との声が多く聞かれた。ひとつひとつの山がでかい! そして深い! これは南アルプスの特徴を語る上で外せないキーワードだろう。

南アルプスの迫力ある稜線の様子。悪沢岳方面から丸山へと向かう稜線


国土地理院によると、日本には3,000m峰が21座あり、そのうちの9座が南アルプスにある。特筆すべきは、その範囲である。北部の仙丈ヶ岳から南部の聖岳まで、南アルプス全体にまんべんなく、3,000m峰が連なっている。高い山が広範囲に連なっているため、一座一座の登り下りの差が大きい。これが、南アルプスの特徴でもあり魅力でもある、「山が大きい!」につながっているのだ。

そして、北アルプスに比べると、アプローチに時間がかかるのも、南アルプスの特徴のひとつ。一見すると、不便にも感じられるアクセスの悪さは、手付かずの自然が残る、山の奥深さという南アルプスの魅力をさらに高めるものとなっている。

 

世界有数の成長スピードと崩壊速度

さらに驚いたことに、南アルプスは今なお成長を続けている山脈なのだ。南アルプス周辺では、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの3つのプレートが押し合っている。その影響で、南アルプスは、現在でも年間3~4mmほど成長している。これは、世界的にみても、第一級の速さだそうだ。

大人になってしまった私には、年間4mmも背が伸び続けるなんてミラクルは起こりそうもない。それに引き換え南アルプスは、成長を重ね、2014年には国土地理院の標高改定により、間ノ岳がそれまでより1m高い3,190mとなり、奥穂高岳と並び日本第三位の高峰となったのは記憶に新しい。

同時に、南アルプスは山体崩壊が進み続けている山脈でもある。国土交通省の「深層崩壊跡地密度分析区域図」を確認してみると、南アルプスは日本最大の崩壊跡地の密集地であることがわかる。なぜこんなにも多くの山体崩壊が起きているのか。その理由は多量の雨にある。

有名な大規模崩壊地の「赤崩」。南アルプスらしい景色の1つだ


例えば南アルプス南部の静岡市葵区井川地域では、昨年約3,600mmの降水量があった。日本全体の年間降水量の平均が約1,700mmなので、南アルプスには全国平均の2倍もの雨が降ることがわかる。降雨などによって山体が侵食されると、まず山頂部分が陥没して多重山稜となる。それが更なる降雨により地滑りとなり、山体崩壊へとつながっていく。この侵食速度も、世界第一級の速さだそう。

この、成長と侵食の相互作用が、南アルプスの特徴的な景観である、高い山並みと深い谷を作り上げているのだ。

 

ライチョウの生息域としては世界の南限

最後に、南アルプスには豊かな自然がある、ということもお伝えしたい。前述したように、アクセスがしづらい南アルプスは、北アルプスや中央アルプスと比べて開発が進まなかった。そのため、原生林やそれに近い自然林が、現在においても広範囲にわたって残っている。

そのため植物も多様だ。特に北岳には「キタダケ」の名がつく、希少種や固有種が多く存在する。その中でも、キタダケソウは代表格であり、雪解けと同時に咲き誇る姿を一目見たい、と憧れる登山者も多いことだろう。ほかにも、南アルプスだけに生息する固有種や、南アルプスが生育の南限となっている植物など、数多くの特徴的な種が生育している。

南アルプスは、緯度が低いため、森林限界も高い。標高2,700m前後まで森林が形成されているのが特徴だ。深緑のシラビソの林の上に、明るい緑のダケカンバの林が帯のように広がっている。山頂の近くまで広がる林の存在が、南アルプスのたおやかで優雅、という印象につながっているのではないか、と私は思っている。

ライチョウの生息域の南限が、実は南アルプスだという


それからよく質問されるのが、登山者のアイドル、ライチョウの存在。南アルプスにも、ライチョウは生息している。そしてこの地で暮らすライチョウは、世界の南限で暮らすライチョウでもあるのだ。南アルプスより南では、どこを探してもライチョウには出会えないのである。

豊かな自然を抱える南アルプス。知れば知るほど、その奥深さに惹かれていく。誰が言ったか、クセになる南アルプス。訪れた皆さんが、南アルプスの豊かで貴重な自然に触れ、たくさんの魅力を満喫していただけることを願っている。

南アルプスの様々な側面を、これから連載で発信していきたい。多くの方に、南アルプスをもっと知っていただく機会となればうれしい。

 

プロフィール

静岡市環境創造課エコパーク推進係

市内の学校と協働での環境教育や、催事、展示会、情報発信などを通じて南アルプスユネスコエコパークの推進活動をおこなっている。自然と人間社会の共生に重点を置くユネスコエコパークの理念を多くの人に知ってもらえるよう、活動中。
執筆者は、国内外での登山ガイド活動を経て、市役所勤務に。地元ならではの視点で南アルプスの魅力を発信できるよう頑張ります。

南アルプスde深呼吸「南プス」
南プスInstagram

南アルプスユネスコエコパークの魅力、再発見

「大きな山容と奥深さ」、それが南アルプスを表す言葉です。巨大な山域の魅力を、南アルプスユネスコエコパークのみなさんが、細部まで紹介していきます。

編集部おすすめ記事