絶滅危惧植物のエンビセンノウに出会って考えた、持続可能な自然との付き合い
絶滅危惧植物として環境省のレッドデータに載っている「エンビセンノウ」。こうした希少種の植物を見つけたとき、我々が取るべき行動は「持続可能な自然との付き合い」。美しい自然が、これからもずっと残されていくことを願って――。
8月の末に八ヶ岳に行った。八ヶ岳のふもとには、ほんのわずかな場所だけだが、たくさんのエンビセンノウが咲いていた。
エンビセンウの名は、かなりの花好きでなければ、聞きなれない植物名であろう。近い種類にフシグロセンノウがある。フシグロセンノウの名は、少し植物に興味があれば知っている人も多いだろう。低山のちょっと暗い林の中に生えている、オレンジ色の大きな5枚花びらを咲かせている、あの花である。
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ほぼ全国の山地で見られるフシグロセンノウに比べ、エンビセンノウは北海道、青森、長野にしか現存しない珍しい植物だ。絶滅危惧植物として環境省のレッドデータに載っている。
花の色はかなり派手、また花の形も特徴的で美しい。花弁は5枚。一枚一枚に深い切れ込みがあり、先端がツバメの尾羽のような形をしている。この燕尾服のような花の形は、訪花する昆虫がとまりやすい形になっているのであろう。それで名が「燕尾仙翁」。名の下半分のセンノウ(仙翁)とは、ナデシコ科のセンノウという同属の植物が、京都の嵯峨の仙翁寺にあったから。
とても美しい植物で、そのまま園芸植物になりそうだ。しかしエンビセンノウは涼しい高原の湿地帯だけにしか生えることができない。環境に敏感な植物であり、育てるのは難しいようである。園芸目的の盗掘は絶対にやめて欲しい。
なかなか出会うことが難しいエンビセンノウだが、出会ったときはとてもうれしく、感動し、興奮する。しかし、野生状態で生えているエンビセンノウは数少なく、本当はほんのわずかな環境変化で、アッという間に絶滅してしまう可能性が高い、非常にもろい植物である。
花に近づくときは少しでも環境に影響を与えないように近づく。影響を与えそうなときは、きっぱりあきらめる。職業植物写真家ではあるが、将来もまたエンビセンノウに出会うことの方が重要である。
自然保護と植物観撮・撮影。持続可能な開発ではなく、持続可能な自然との付き合い。ちょうどよい接点を探していきたいと考えている。
自然について知らなければ、好きでもなければ、その自然がなくなっても気にならない。だから、できるだけ自然の美しさ、不思議さを伝えたいと考えている。よりよい、より美しい自然が、これからもずっと残されていきますように。
プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。