膝の痛み対策講座② 登山で膝が痛くなる原因とは?
登山者の膝の痛みはなぜ起きるのか、治療法はあるのか。 その原因を理解することで、膝痛の悩みを解消できるかもしれません。 多くの登山者が悩まされる膝痛の仕組みを学びましょう。
監修=油井直子、イラスト=林田秀一、写真=小関信平
膝痛に悩まされる登山者は多い。 しかし、ひとくちに「膝痛」と言っても、原因が膝の関節内にあるのか、関節の外にあるかによって、性質や対策は大きく異なる。日本登山医学会認定国内山岳医の油井直子先生は、次のように語る。
「前回のアンケート回答のように、登山の途中で膝が痛む場合、その原因は関節外、膝の周囲の筋肉にあることが多いです。こうした関節外の原因は、歩行法の見直しやトレーニングで改善できる可能性が高いです」
下のイラストは、膝周りの筋肉を表したもの。膝の周囲にはさまざまな筋肉や靭帯が存在する。これらの部位が炎症を起こすことで、膝周りに痛みが走るのだ。
登り下りで伸縮されて酷使されやすい大腿四頭筋が多い
「登山での関節外の原因を突き詰めれば、下肢の筋肉の使いすぎと膝の疲労の蓄積が最大の理由と言えます」
登山では太もも前面の大腿四頭筋と太もも後面のハムストリングスがよく使われる。そのためこれらの筋肉が酷使されると、筋肉と骨のつけ根部分に負担がかかり、炎症を起こして膝周囲に痛みが出るのだ。
「登りと下りでは、使う筋肉だけでなく、膝や筋肉にかかる負担がまったく異なります。特に下りでは、大腿四頭筋が伸びながら収縮(遠心性収縮)することで、落下速度にブレーキをかけ続けるため、筋肉の負担が大きくなります。また、乱暴に下ったり大きな段差が続いたりすると筋疲労しやすくなります」
下りで、太ももやその周辺が痛くなりやすい登山者は、大腿四頭筋の酷使が原因である可能性が高い。
動きになるので負担は比較的少ない。一方で、下りでは落下の衝撃を和らげるために
大腿四頭筋が伸びながら収縮する動き(遠心性収縮)が必要となり、負担が大きくなる
これらの痛みに対する予防・対策はどんなものがあるだろうか。
「登山者の膝痛の原因は歩行姿勢や筋肉の柔軟性、負荷の高い山行計画などが考えられます」
関節外が原因となる膝痛は、一時的な炎症なので、脚の筋肉を休ませてストレッチなどのメンテナンスをすることで治すことができる。痛みを予防するには、日常的に筋トレやストレッチをして、脚の筋肉を柔らかく、強くする必要がある。
また、トレッキングポールを使ったり、段差を小さくしたりと歩き方を工夫することで、膝にかかる衝撃を大きく軽減することも、膝周りの筋疲労を抑える方法のひとつ。
一方、関節内に原因がある場合、外傷による骨・軟骨や靭帯の損傷、加齢や酷使による半月板の損傷などが考えられる。
「これらの膝関節内の損傷が原因の場合、時間経過で治るものではありません。きちんと病院で診療を受け、治療する必要があります」
自分の膝痛の原因がわかったところで、次回は、膝を痛めない歩き方、トレッキングポールの使い方を紹介しよう。
登山者のための膝痛対策講座
多くの登山者を悩ませている膝の痛み。膝痛はなぜ起こるのか、どうすれば予防できるのか。登山の膝痛を徹底解剖する。